第16話 薫の家

僕は夢を見ていた。

幼き5歳の誕生日の日のことを思い出すように・・・


テーブルの上に置いてある。ケーキの蝋燭ろうそくに火が灯され、それを一生懸命、息を吹きかけ消そうと試みる・・・しかし、なかなか火が消えない。


「まだ、この子には火を消すの早かったかしら・・・」とお母さんは言う


「もう5歳なんだし、火くらい消せるだろう・・・」とお父さんは言う


「お兄ちゃん!頑張って!」まだ2歳の妹が応援してくれる。


でも、なかなかその火は消えない・・・


ふーふー!


それを見てお母さんは


「やっぱり、この子は出来が悪い子ね・・・」


「お前が産んだ子だろ?俺の責任じゃない」


「何よ!子育てから何もかも全部、押し付けて!私だって自由がほしい!」


「仕方がないだろ!こっちは仕事なんだ!」


莉乃は割って入るように


「やめて!お父さんお母さん喧嘩は嫌だ!」


「うるさい!」父親が怒り出す


「莉乃に当たることないでしょ!」


「うるさい!うるさい!うるさい!」


・・・

・・



僕は目を覚ます。


体中の力が徐々に湧き出し、昨日の運動で全身が筋肉痛になっていることが分かっていた。

僕の目に映る景色は、今まで見たことがない景色だった。

天井も、木の素材になっていて、ベッドがとてもフカフカしている。

そして、見たことない掛布団の柄


「ここはどこ?」僕は疑問に思い、独り言を言う


外を見ると、太陽の眩しい光が部屋を差し込む、どうやら、朝のようだ。

先ほどまで見た悪夢を思い出し憂鬱な気持ちになる・・・


(嫌な夢を見た・・・)


そう思い、寂しい気持ちに浸っているとどこかに時計が無いか、確認する


ピンク色の枠の電子置時計があった。


筋肉痛の体を無理やり起こし、ピリピリと痛みを感じながら起きると僕は時計を見た。

その時刻を見て、僕は驚いた


「えっ!10時13分?!」


そして、僕は軽いパニックに襲われる。ベッド横に置いてあった眼鏡を取り、それを掛ける。


(ここはどこなんだ・・・あの後、僕は・・・そうだ、薫ちゃんの車に乗っていて、そのまま、眠くて眠っちゃったんだ!っていう事は、ここは薫ちゃんの家か!?)


僕は左右に顔を振り、色んなものを確認するようにキョロキョロと見渡した。


明らかに女の子が好むようなピンク色のカーテン、そして、きちんと整理されている勉強机、赤色の枠のテレビ、人気のあるキャラクターのぬいぐるみ達、全て見たことがない物だった。


勉強机に目をやると、1台のノートパソコンとプリンターがあった。そして、写真立て、よく見ると、一昨日撮ったばかりの僕と薫ちゃんの写真だった。僕の顔は腫れ、赤くなっているところに、薫は頬と頬をくっ付けて、笑顔で写っている。


(ここは、薫ちゃんの部屋なのか?)


人の気配を感じ、下に目を向ける・・・すると薫が眠っていた。


(か、薫ちゃん?・・・ね、寝顔がかわいいな・・・)


その表情は、昨日のフットサルをやっていたような真剣な表情ではなく、完全にリラックスして、少し、涎をたらしながら眠っている薫の姿だった。服装はピンク色のパジャマを上下に着ていて、薄い掛布団を纏(まと)っていた。いつものポニーテールの髪型は、完全に垂らしたようになっていて、ストレートの髪に見える。


(ポニーテール以外の薫ちゃん、初めて見たな・・・静かに眠っている・・・いびきとか一切ないや・・・)


僕は思わず、手を伸ばし、彼女の顔を撫でようとしていた。

手に顔が触れそうになった時、薫はゆっくりと目を開けた。


僕は慌てて手を引っ込める


薫は、そのまま上半身を起こし、大きく伸びをする


「んーーーーーーーー!!!よく寝た!」


「お、おはよう薫ちゃん・・・」


「あっ、やっと起きたんだライト、おはよう!」


(やっと???)僕は疑問に思った。


すると、薫は立ち上がり


「ライト、昨日の晩は激しかったね」


頬を赤く染めて僕に言う


(えっ? へ・・・?)


僕は少しエッチなイメージを持って顔を赤く染め焦っていた。


すると彼女は僕に近づき、大きく顔を近づけた。


そして、小悪魔のような笑顔を見せ


「なーんてね。フットサルのことだよ?」と言って爆笑していた。


からかわれた僕はそれを聞いて


「なんてこと言いだすんだよ!薫ちゃん!」と怒鳴り気味に言った。


僕は顔を赤く染め


(朝から何考えさせるんだよ・・・)と思った。


それを見てか、薫は


「もう、エッチなんだから」とモジモジしていた。


「い、いや、違うから!」


僕は赤くなった顔そのままに必死に否定する。


そんなことをしていると階段を上ってくる音がする


扉にノックする音がした。


「薫?起きてるなら手伝って頂戴。」


その声は薫のお母さんと思われる人の声だった。

薫は「はーい」と返事をすると


「ライト!行こっ!」と笑みを浮かべて右手を差し出した。


「うん」僕は彼女の手を取り、立ち上がった。


鈍い筋肉痛の痛みがする・・・でも、彼女のその手はそんな痛みを忘れさせてくれるような感じがした。


部屋を出て廊下を歩くと、左下にすぐに階段があり、下って行った。


一歩ずつ下って行く階段は、ギシギシと音を立て、ゆっくりと降りていく


その間も、彼女の手は握られたままだった。


内心、僕は、ドキドキとしていたが、彼女の頬もどこかしら、赤く染まっているように見えた


(あの写真立て・・・やっぱり、彼女は僕のことを・・・)


そう思っていると、階段の一番下まで降りてきた。


彼女は僕の方に視線を向ける。


「朝から、ずっと手を握ってるね。」


と笑みを浮かべて言ってきた。


そのセリフに照れが出てしまい、つい、彼女の手を離す。


それを見て彼女は「あっ」と小声で言う


「薫ちゃん・・・恥ずかしいって・・・」


僕は素直にそういうと、彼女も照れ出した。


「ごめん、調子に乗っちゃった・・・」


彼女はまた、モジモジとする。


僕はその姿が可愛く見えて仕方なかった。


僕は視線を反らし、耳まで赤く染めながら


「べ、別にいいけどさ・・・」


と言う、本当は手を繋がれることがとても嬉しかったのに


「じゃあ、ライト、顔洗ってきなよ。」


「う、うん」


僕は洗面台まで案内してもらい、眼鏡を外して顔を洗わせてもらった。洗面台の鏡を見てみると、僕が映っている。

一昨日、殴られた箇所の腫れは引き、いつもの顔に戻ったような気がした。


この家は基本木造で出来た家のようで、木の温もりを感じられるいい匂いがした。


(僕の家と全く違う、木の匂いがする・・・)


そう思っていると、突然、横から


「わぁ!」


と脅かしてきた。びっくりして誰かと見てみると笑顔でこちらを見る梨乃だった。手にはタオルを持っている


「起きるの遅いよ!キンドラ!ここ誰の家だと思っているのよ」


「脅かすなよ!梨乃!っていうか、なんで、僕らはこの家にいるんだ?」


「それは後で説明するから、早く顔拭きなよ」


そう言われ、僕は梨乃からタオルを手渡され、そのタオルで顔を拭き、眼鏡を掛ける。


梨乃に案内されるまま、僕らはリビングに入った。


「おはよう、ライト君」薫のお母さんが声をかけてくれた。


僕は、薫のお母さんに会うのはこれが初めてだった。それもあり、一気に顔が赤くなり、緊張した。


薫のお母さんは背は僕と同じくらいと小さく、髪はセミロングで茶髪にしていた。お父さんは結構こわもてでガテン系の感じがする顔立ちだったけど、お母さんは、とても優しそうな人だった。薫はどちらかというとお父さん似なのかもしれない


「お、おはようございます!初めまして、早弓と言います!」


すると、お母さんは笑顔で優しく僕を見て


「知ってるわよ。娘から耳にタコが出来るくらい話、聞いてるから」と笑みを浮かべて言ってくれた。


「お母さん!なんで、そういうこと言うのよ!」薫は耳まで顔を真っ赤にしお母さんに言う


「だって、本当のことでしょ?」


「む・・・・そ、そうだけど・・・」


そういうと、薫は後ろを振り返った。明らかに恥ずかしそうな顔をしていたんじゃないかと僕は思う。


「ライトくん、遅めだけど、テーブルにあるシリアル食べちゃってくれない?」


テーブルを見るとシリアルと牛乳が置いてある。僕はお腹がペコペコで、ぎゅるるるるとお腹が鳴った


僕は「えっ、いいんですか?」と言うと


「それ、薫が用意してくれたものよ。残さず食べてね。」と言ってくれた。


僕は遠慮しようと思ったが、梨乃に手を引っ張られ椅子に座らせられる。


仕方がない気持ちで


「では・・・すいません、いただきます。」


そういうと、シリアルに牛乳をトクトクと掛け、スプーンを片手に食べさせてもらうことにした。


「シリアルなんて食べたの・・・2年ぶりかな・・・」カリカリとした食感が僕の食欲を起こさせる。


薫はその顔を見て笑顔で


「本当に美味しそうに食べるね。見てるこっちが微笑ましいよ」と僕に言う


「うん・・・美味しいからさ・・・」


「よかった・・・」


そういう、薫の顔はどこか切なそうに見えた。きっと昨日に公園で話したことを振り返っていたのだろう。


「そういえばさ、今日の午後、ライトと梨乃ちゃんとで、一緒にやりたいことがあるの」


薫が言う


「やりたいこと?」と僕は問うと


「うん!」と嬉しそうな顔でこちらを見る


僕ら兄妹は不思議そうな顔をした。


「お姉ちゃん、何したいの?」と梨乃は唐突に聞く


「私ね、前からやってみたかったのよ。男の子達はよくやるけどさ」


「ん?男の子達がやること?」


僕は考えたが、想像付かなかった。彼女がこれから発するアイディアは、僕らをワクワクさせる物だった


ゆっくりと薫の口が開く












「森に行って、洞穴に秘密基地を作ろう!」









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る