第15話 フットサル後

試合終了のホイッスルが鳴る。


僕は激しく息を切らしながら、その場に倒れこんだ。


「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」


息をするのが精一杯な所、涼介が手を差し伸べてくれた。


「まだ1試合終わっただけやで?」


とニコッと笑う。


僕はその手を借りて立ち上がると


「すいません。」と謝った。


汗もすごく、疲労からか足も震えていた。


涼介はそんな僕を見て


「ナイスガッツやった!」


そういうと肩を貸してくれた。


(やっぱり、良い人なのかもしれない・・・)


僕はそう思うと彼は体育館の端の皆の居るところまで連れて行ってくれた。



カシャッ



と音がする。薫が写メを取ってくれたようだ。


しかし、そんなことに気を取られている場合ではなかった。



涼介は興奮しながら


「あのダイブ見たか?こいつ、下手くそやけど、ホンマにすごいで!走りまくるし、根性あるわ!」と大声で言う


それに皆、同調するように、頷く。中には「ほんとすごかったぞ!」と言ってくれる人もいた。


それを聞いて僕は


「はあ・・・はあ・・・あ、あのプレーって、そんなに凄かったんですか?」と問うと


「アホ、めっちゃミラクルプレーやで!あんな早いシュートミス合わせられるやつ、早々おらんわ。それに・・・」


涼介は話を続けようとした。しかし、僕はその場で力が入らなくなって膝から崩れ落ちる


薫は「あっ!」と叫ぶと、スマホをポケットに入れて、僕の方に駆け寄った。



涼介は


「ホンマに無茶しよって・・・」と呆れ顔で言っていた。


薫は、僕の肩に掴まると僕は薫の肩を借りる形になる


彼女は「外で休ませる」と言って、体育館の外に連れてってくれた。


「はぁ・・・はぁ・・・ご、ごめん、薫ちゃん」僕は謝る


すると、彼女はブルブルと震えだし・・・大声で


「ライト!」


「ん?」


「そんなに無茶しないでよ。心配したじゃない・・・」


「はあ・・・はあ・・・ごめん・・・」


僕はそう言うと彼女はタオルで、僕の顔の大量の汗を拭いてくれた。


「でも、かっこよかったよ。ダイビングヘッドよりも、必死に泥臭く走るライト」


彼女は頬を赤く染めて言う


すると、そこに涼介が来た。


「カオちょっと、その子ええか?」


「えっ?う、うん」


そういうと薫は体育館の中に入っていった。


涼介は僕の横に座ると


「ホンマ、大丈夫か?」と僕に問う


ようやく、息が整ってきた僕は


「大丈夫です。」と言う


すると涼介は


「ホンマに今日が初フットサルやったみたいやな、ボールもまともに蹴れんみたいやったし」と僕のプレーを見て感想を述べた


「はい・・・足手まといになってすいません」と謝った。


「何を謝っとんねん。さっき、あんなプレー見せられて、ワイホンマに震え立ったわ。初めてやわ、初心者であんな根性あるプレーしたやつ見るの」


「そ、そうなんですか?」


「まぁ、それ以外は最初のプレー以外は全然やったけどな」


「しょ、初心者ですから!」僕は顔を赤く染めて言う


それを見て涼介は、僕をからかった


「あはははは!ホンマ、カオから聞いとったけど、すぐ顔赤くなるんやな」


「せ、赤面症なんです。ぼ、僕・・・」


すると、急に彼は真剣な表情に変わり僕に言った


「それでええんやないか?」


「えっ?」


「『赤面症』それがキンドラ、お前なんやろ?」


「は、はい」


「実は俺もな、こう見えても昔『赤面症』やったと思うねん」


「は、はぁ?」


「誰と会話しようと思っても、キンドラみたいにブルブル震えて、顔が真っ赤になってたんや」


(う、うそだ・・・)


僕はそう思った。


でも、涼介は続けて言ってきた。


「でも、サッカーからフットサルに変えた時に、色んな大人に出会って『大人も完璧やないんやな』って学んだんや、したら、自然と不思議に赤面症は無くなっていて・・・今じゃ、めっちゃしゃべるやろ?」


そう言われると僕は少し笑ってしまった。


「ぷっ・・・」


「ったく、笑うんなら、もっと笑わんかい!」と右肩を叩かれた


「痛っ」 先ほどゴールポストにぶつかった所を叩かれ痛がってしまった。


「あっ、すまん!忘れとったわ!」彼は慌てる



これが彼との出会いだった。


この時は、まだ「長い付き合い」になるなど知る由もなく



「ほんで?今日はどないするんや?俺はもう辞めておいた方がええと思うで、石川さんも機嫌悪そうやったし、無理せん方がええと思う。あの人、誰に対してもあんな感じやねん。」


彼はそういうと僕は、何故か、『まだやりたい』と言う気持ちが湧いてきた。


「もっとやりたいです・・・」小声で僕は言う


彼は呆れた顔で


「あんまり、無茶したらあかんで、フットサルはケガしやすいスポーツや、ほな、もう少し休みなはれ、ワイは行くで」


と体育館の中に入ろうとした。


すると、何かを思い出したように僕にもう一声掛けた。


「せや、キンドラ、『キンドラ』ってキングギドラのことやんな?」


「はい」


「かっこええやん!『キンドラ』」と親指を立ててグーのポーズをした。


「えっ・・・かっこいい?」


初めて言われた言葉だった。キンドラがカッコいいなんて、今までの僕には想像も出来ない切替しだった。


「ゴジラの中でも最強クラスの怪獣やで、もっと自信持ちや!」


そう言って、彼は体育館の中に入っていった。


(そう言われてみればそうだ・・・あの怪獣、本来はすごいカッコいいデザインだもんな・・・強いし)



それからしばらく休む・・・15分くらい経ったか


その間、体育館の中ではボールを蹴る音、キュッキュッと靴のゴムの音、人の話し声など聞こえていた。


僕は息が完全に整い、体中の血液が流れていくのを感じていた。夜にも関わらず、蝉の鳴き声が聞こえる。先ほどまで、そんなこと気にもしていなかったのに、辺りを見渡せば、体育館の明かり以外は、闇に包まれていた。


夜の学校、修学旅行の帰り以来だったので、それも新鮮に感じることが出来た。


僕は握り拳を作り、徐々に力が戻ってくるのを確認すると、ゆっくりと立ち上がった。


両手で顔をパンッと叩き


「よし!行くか!」と一人呟いて、体育館の中に入った。


1試合やって、全力で走りすぎて、ペースが早すぎたのだと知ると、後は無理せずやることを意識した。


すると、徐々にペースがわかってきた。全力疾走で走る人はいないことを試合をこなしていくと理解した。早く走るのも6割くらいの力で良く、ボールが回ってきても、無理せず他の近いチームメイトにパスを出す。それを繰り返すようにした。


数試合やっていくと、何とか、その日のフットサルは終わりを告げる。


(もっとやりたい!もっと上手くなりたい!)


そう心の中で感じ取っていた。









橋本さんはサークル中央に立ち、僕らは前を整列した。


「あー、今日の、MVPなんですが・・・」


(MVP?そんなのがあったのか・・・)


「ライト君、君のダイビングヘッドのシーンが印象強くてね。君がMVPだよ」


そういうと、みんなから拍手を浴びた


薫は悔しそうに


「えー、私のエラシコ付きの3人抜きゴールじゃないのー!」と叫んでいた。


それにみんなは笑っていた。


そこに涼介は割って入ってくるように


「あははは、当然やろ、女子に本気で体ぶつける大人なんておるかいな」


と笑っていた。



(これは自信持っていいのかな・・・)



僕はそう思っていた。



橋本さんは


「まあまあ、今日初めてであんなゴール見せられたら、みんなそう思うって、すごい頑張ってたもんな、ライト君、梨乃ちゃん」


『はい!』


「毎週やってるから、いつでもおいで」


僕たち兄妹はそれを聞いて口揃えて


『はい!』と返事をした。


これをきっかけに僕ら兄妹は毎週通う事になる。



ロッカールームに戻り、着替えをする。


ロッカーの前に立つと、服を脱いだ


すると先ほど、ゴールポストに当たった肩の部分が、痛み出した。


「っ!」


(そうか・・・さっき、ポストに思いっきり肩をぶつけたんだっけ・・・)


すると、石川さんがやってきた。


「ったく、あんな無茶なプレーをど素人がやるから、そうなるんだ。」


そういうと肩を叩いてきた。


「いたっ!」


僕はそう言うと、石川さんは見たことない笑顔をしていた。


「さっきは、下手くそとか言って悪かったな」


「い、いえ・・・」


「ところで坊主、お母さん元気にしてるのか?最近見かけないが」


そのセリフに僕はなんて返せばいいのか、わからなくなった。


僕は下を向き、嫌いな母親のことをイメージした。


そして、何も言えなかった。


「おいおい、俺なんか悪いこと言ったみたいになってるじゃねーかよ。」


「いえ、母は元気『だと思います』」


「そっか、坊主の母ちゃん美人だし、羨ましいぜ。大切にしてやれよ」


僕は建前でも返事をするべきだと感じた。


「・・・はい」


正直、母に触れられることが嫌だった・・・


その状況から逃げ出すように、シャワーを早く浴びて、服に着替え、急いで車に向かう。


まだ、薫のお父さんも、薫も、莉乃も誰もいなかった・・・


待つその間、僕は母親について考えていた。


昔は優しかった母親も、今では毎日ケバイ化粧をし、恐らく好き勝手に男を作り、酒場に毎日のように足を運ぶ、ほぼ、夜は家にいない、そんな母親を憎く感じていた。そして、寂しさを感じていた・・・どうすれば、今の家庭環境を変えることが出来るのか・・・


僕は一人で、家族を背負っている気持ちになっていた。


(あの頃に戻れたら・・・)


僕は、5歳の誕生日の頃を回想する。


当時は一軒家に住んでいて、リビングに家族全員が集まり、家族全員でテーブルを囲み、ケーキがあり、少し豪華な料理、確か骨付きのチキンのから揚げ、スパゲッティなど様々な料理が置いてあった。


どんな話をしていたかまでは覚えていないけど、父親も母親も、莉乃もみんなが僕の5歳の誕生日を笑顔で祝福してくれていた。


(どこで、こうなってしまったのだろう・・・)


そんなことを思い出していると、薫と莉乃がやってきた。


「ライト!お待たせ!」


僕は気持ちをなかなか切り替えることが出来ていなかった。


切ない気持ちが顔に出ていたのかもしれない。僕は彼女たちの方に顔を向けると


「どうしたの?お兄ちゃん、すごく切ない顔してるね・・・」と莉乃は心配そうな顔で言う


「ううん・・・なんでもないよ。ちょっと昔を思い出していただけ・・・」


「そっか・・・」


きっと、莉乃も感づいていたかもしれない、感が鋭い方なので・・・


そんな切ない顔を二人していると、薫は僕の痛めた肩を叩いた!


「いたっ!何するんだよ!薫ちゃん!」


「まーた、そんな切ない顔二人ともしてる!せっかく、フットサルでさっぱり汗流したのだから、すっきりした顔しなさい!」


そんなセリフを言われても、正直、感傷に浸ってしまっていた。


その様子が、彼女の目に映ったのか、さらに続けてこう言った


「ライト、莉乃ちゃん!」


「は、はい」


「何があったのかしらないけど、前向きに生きていかなきゃ!進んだ道が、茨だろうと、壁だろうと、壁ならぶっ壊して突き進んでいかなきゃ!」


僕はその発言にキョトンとした。


莉乃は寧ろ嬉しかったみたいで


「お姉ちゃん、かっこいい!」と目をキラキラさせていた。


「莉乃ちゃんは飲み込み早そうだけど、ライト、あなたのプレーは本当に初心者丸出しだった。これから特訓も考えないと、また石川さんに『下手くそ』って言われちゃうよ。


僕はその発言にムッとした。


「初心者丸出し、って初心者だから仕方ないじゃないか!」


「『下手くそ』と言われて悔しくないの?」薫は真剣な表情を浮かべる


「そ、そりゃ、悔しいけど・・・」


「なら、見返してみてよ!石川さんを!あの人だって、ここ来てまだ1年経ってないんだから」


僕は悔しい表情をしていた。


そんな会話をしていると、薫のお父さんがやってきた。


「悪い悪い3人とも、ちょっと橋本さんと話が長引いてしまって、待たせたよ」


「い、いえ・・・」僕は言う


その後僕らはワゴン車の中に入っていった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




帰りの道中のこと


僕らは後部座席に座っていた。


運転席にはお父さん、助手席に薫が座っていた。


僕は眠すぎて意識が朦朧(もうろう)としていた。


お父さんは


「いやー、本当に凄かったなあのダイビングヘッド!」


薫はそれに対して


「うん!すごくかっこよかった!あの瞬間写メにすればよかったよ!」


などと、ワイワイ、梨乃含めて話していた。


僕はいつの間にか、疲れすぎて緊張の糸が切れたのか、車内で眠ってしまっていた。









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