第4話 リンチ

修了式終了後


外は雨が止み、地面は水たまりが出来ていた。


僕は貴志から呼び出しを受ける。

ニヤニヤと笑みを浮かべた貴志は、クラスメイトの『佐藤 忠(さとう ただし)』を連れて、ある公園まで連れて来られた。佐藤は、頭が良く成績優秀で、先生からも一目置かれる存在だった。背は普通。見た目も普通。特に問題児という見られ方はしていなかった。


佐藤もまた、僕をイジメてくる一人の人物だった。


僕は佐藤に肩を組まれる。一見周りは仲よさそうに見られるような光景に見えるが、これは「逃げ出さない」為の手段だった。


学校近くのその公園は、周りが住宅地であり、でも、あまり使われていない公園だった。


公園に着くと、佐藤が腕を離す。そして、僕の背中を突然ドンッと押した。


この時、僕はわかっていた『何を』されるのか…


貴志は、スマホを取り出し、片っ端から色んなところに電話する。佐藤もどうやらスマホを、使って色んな人に通話しているようだ。


「あぁ、安西?これから、面白ことすんだけどさ、あぁ、そう、お前も来いよ」


どうやら、クラスメイトに電話を掛けている。


すると、一人、そして、また一人とクラスメイトが集まってきた。


最終的に男子8人、そして、女子1人が来た。


その女子は、僕が密かに想いを寄せる女の子だった。


「おー、揃った揃った」


貴志は言う。


「9人か、どうする?電話に出なかったやつ」

佐藤はスマホを、片手に持ち、イジイジと何かメモを取っていた。


「あー、貧弱そうなヤツは後で呼び出してシバクわ、前からムカつく奴いたし」


「あははは、まぁ、ほどほどにしとけよ。万が一バレてオレの内申落ちたら困るしさ」


「内申?んなもの、まだ気にしてるのかよ。んなもん、気にしてたら、楽しくねーって、学校なんて、遊びに来てるようなもんだろ?まっ、いいけどな」


そう貴志は言うと、僕を見た。


「コイツのせいでな」


ゆっくりと彼は僕に近づいて来た。


「一人10発な」


メンチを切り、落胆した姿の僕を見る


そして、始まった。


一人一人…順番に僕に殴る蹴るを繰り返す。


僕の体に鈍い痛みが走る


全て顔だけは避け、胸やお腹、足を狙ってきた。


『顔をやってイジメがバレると、厄介だから』そんな理由だった。


しかし、僕にはわかっていた。


(まだ、手加減してもらっている)


と…そして、貴志と佐藤以外の8人に殴られた後、女の子に順番が回ってきた。


その子の名前は佐々木 愛美(ささき あいみ)だった。

身長は僕と同じくらい、髪はショートで、性格的にもボーイッシュな女の子だった。


「次、佐々木な」


「私…パス出来ないかな?」


そう、彼女が言うと佐藤はボソッと耳元で彼女に何かを言った。


彼女は顔を赤くし、覚悟を決めたように、僕を見た。


そして…


バチンッ!!


僕の右頬に、痛みが走る。


彼女は涙目になりながら、僕を平手でビンタした。


僕は、体の痛みよりも心が痛んだ。


好きな子にビンタされたショックが大きかった。


そして、残り9発ビンタされる。


一つ一つそのビンタが、僕の心を削っていく、その姿を見て貴志は高笑いをし、佐藤もニヤニヤと見ていた。


そして、佐藤は

「佐々木さんは、君のこと嫌いらしいよ?」とニヤニヤ笑みを言う。


「あははは!そりゃいいや!女の子に殴られる。キンドラにぴったりじゃねーか」


僕は最後の一発を食らうと、顎に当たり、頭がふらっとして跪いた。


その姿を見て貴志は


「女子のビンタで、落ちちゃったよ。コイツ!マジウケるな。だから、やめらんねーんだよ。あははははは」


と爆笑していた。


(…一番、辛かった…佐々木さんのビンタ…)


僕は体の痛みよりも、心のダメージが大きかった。


そして、佐々木さんは走って公園を去って行った。目には明らかに涙を浮かべている。そう見えた。


貴志は


「チッ」


と舌打ちをする。


そして、貴志にワイシャツの襟を掴まれて、起こされる


「よいっしょっと、やっぱデブは重いわ。」


続けて、大声でこう言った。


「昨日の仮返してやるよ!」


そう言うと彼は、拳で明らかに全力で殴ってきた。重く頭にまで来る一撃は、1発、そしてまた1発と僕の体に響いた。


「後3発と…」


僕の顔は傷だらけだった…そして、泣いていた。


「泣けば許してもらえると思ってんの?そんなの小学生までだから!」


そう言うと彼のハイキックが、僕の顔面を捉える。その威力に僕は吹っ飛ばされた…そして、また襟を掴まれ起こされる…そして、拳で殴られそうになるその瞬間だった。


「おい!お前ら!何やっている!」


警察官が自転車に乗ってやってきた。その瞬間8人のクラスメイトは「やべぇ」とダッシュで逃げていった。


その瞬間、殴ろうとした手を止め、警察官を睨みつけた。


警察官はすぐに僕の元に駆け寄り、保護してくれた。


「君!大丈夫か?」


「…」


口から出血し、涙を流している僕に、警察官は察したようで、ハンカチで口元を拭いてくれた。


「あのー、プロレスごっこしてただけなんすけど?」


貴志は言う。


「そんなことあるわけないだろ!」


警察官はそう言うと警察手帳を取り出した


「君達、名前は?」


「さぁね」


「…あの中学校の生徒だね。生徒手帳、出しなさい」


貴志は舌打ちすると、生徒手帳を取り出し警察官に見せた。


それを見て警察官は


「貴志君と言うのか…君を暴行罪で現行犯として逮捕する」


「はぁ!?」


貴志は大声を出すも、警察官は容赦なく、手錠を掛けた。貴志もその手錠を見て、何故かニヤケている。


そして、無線機を使い警察署に報告をしていた。


佐藤は


「すいません。最初こいつから手を出してきたんですけど?その場合ってただの喧嘩じゃないっすか?」


何故か、彼の口からも出血していた。


それを見て警察官は


「うーん…3人とも、署まで来てもらおうか?」


その後、来たパトカーに乗せられて、僕ら3人は警察署まで運ばれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る