第2話女神の恩恵

目を開けるとそこは異世界だった。

 というか、森だった。

 

 全く…、街のどこかにでも転生させてくれればよかったのに…。


 などど自分を転生させてくれた女神に文句を言いながら、俺はとりあえず街を探すことにした。この世界がどういった世界なのか知るためだ。


少し森を歩くと、美しい湖を見つけた。本当に美しい湖だったので、水が飲めるか確認しようと水辺まで行き水面を見ると、衝撃の事実を今更ながら知ることになった。


 俺…、若くなってる…!


 水面に映った俺の顔は、明らかに学生時代の時の若さを取り戻していた。


 どういうことだ…?確か女神ティアマトは、そのままの若さって言ってたよな…?


 その時…、ポケットの中になんらかの存在を感じ、手を入れてみると、“春幸へ”と書かれて折りたたまれた、小さな手紙のようなものが入っており、こう書かれていた。


 『女神サービス!その1!今回はサービスとして、春幸の体を18歳まで若返させてあげました!異世界でのんびりしたいのなら寿命は少しでも長いほうがいいですしね!では!いつもあなたのすぐそばに!女神ティアマトでした~。』


 テンションの高い内容だな…。


 ティアマトのテンションに若干引きつつも、俺は素直に感謝した。


 まあ、若くなるに越したことはないからな。その点はありがたい。その1ってことはその2もあるんだろうか…。まあ、期待しないでおくか。


 とりあえず水の飲めるかどうかの有無だけを確認して、飲める気がしたので、とりあえず水分補給をしておいた。これから先いつ水が飲めるかわからない。できるときに飲んでおくに限る。実際うまかった。

 

 街を求めて森をさまよってかれこれ2時間。俺はやっと森の出口を見つけ、森を抜けた。森を抜けるとそこには、鋼鉄の門に、そびえたつ城壁という、いかにもという雰囲気の建造物を見つけた。


 しかし、すごいな。元の世界でいうところのサグラダファミリアに似ている…。過去にスペインに出張で行った時に見たが、あれはすごかったなぁ。


 元の世界で働いていた時の数少ないいい思い出を思い出しながら門まで行き、中に入ろうとした。しかし…。


 「ちょっとまて、身分証を出してもらおう。」


 門の中に入ろうとすると、門番らしき人が、そんなことを言ってきた。身分証?先ほどこの世界に転生した身であるわけないだろう。


 「なるほど、身分証がないんだな。では、一緒に来てもらおう。」


 異世界に転生して初めて出会った人に、逮捕されるという貴重な経験を得た。


 そこらへんのケアも女神がしてくれるんじゃないのかぁ~…。


 連れてこられた部屋は、明らかに尋問室で、俺はこれから拷問でもされるんだろうかと、少し怖くなった。のんびり暮らすために異世界に転生したというのに、転生してすぐにこんな扱いを受けては何も報われない…。


 「さて、君はどこから来たのかな?」


 優しそうな顔をした兵士がにこにこしながら聞いてくる。にこにこ顔がかえって怖い…。どこから来たのかなんて聞かれても異世界からと答えるしかない。もしくは森から?どちらにせよ不審者には変わりないので、全てを事細かく説明することにした。前世が多忙で、出張先に行こうとした飛行機が墜落して死んだこと、死んだら女神に出会って、生き返らせてくれたことなど…、到底信用してはもらえないだろうが、真実を伝えた。


 「そんなことがあったのか…、苦労したんだなぁ…。」


 え…?


 「この世界で暮らしたいのなら身分証が必要なんだよ。役所に行けば作ってもらえるから、連れて行ってやろう。」


 この国ルーズすぎじゃね…。


 なぜか証拠もなしに話を信じてもらうことができ、俺は先ほどの兵士に連れられて、役所に来た。この世界での身分証を作るためだ。兵士の名前は、ルーイというらしく、役所へと行く間、俺はこの世界について教わった。


 この世界には魔物が存在していて、時に魔王と呼ばれるものが復活しては倒されを繰り返しているらしい。また、冒険者という賞金稼ぎのような職業があり、街の清掃から魔王討伐まで様々な依頼を受けるという…。俺には関係のない話だなと聞き流しながら、俺はまだ見ぬスローライフを想っていた。朝起きて、作物に水をやり、牛や鶏におはようを言って一日を始める…。晴れの日は畑で作物を育て、雨の日は読書に勤しむ…。なんてすばらしい毎日だろう。これぞ俺が生前抱いていた夢の自給自足生活だ!


 「さ、ここが役所だ。中に入って受付にお願いするといい。」


 気が付くと役所に着いていた。ルーイはほかに仕事があるらしく、帰っていった。ここまでの道案内に感謝をしつつ、俺は役所の受付嬢に身分証の発行について依頼した。


 「身分証の発行ですね。それでは、ステータスを読み込みますので、この球体に手をかざしてください。」


 この世界ではステータスを読み取ることで、身分証を作成するというのをルーイから教わっていたので、俺は素直に従った。

球体に手をかざすと、なんだかこそばゆいような背筋を何かが駆け上がるような、そんな感覚を覚えた。


 「はい、結構です。それでは少々お待ちください。」


 読み取りが終わったらしく、受付嬢は何やらパソコンのようなものを操作し始めた。


 「え?レベル99⁈それに…ステータスオールマックス⁈なんですかこのステータス!!」


 急に受付嬢がそんなことを叫びだし、一気に俺のほうに注目が集まる。すると…、またもポケットの中に何かしらの存在を感じ、取り出してみると、先ほどと同じような手紙が入っていた。


 『女神サービス!その2!のんびり暮らしたいのなら、それを害する者へ抗う術が必要ですよね?というわけで!とりあえずレベルとステータスを上限まで上げてみました!いつバトルになるかわかりませんし強いに越したことはありませんものね!では!実はあなたのすぐ後ろに?女神ティアマトでした~。』


 最後の一文に体がびくっとなり、後ろを振り返る。しかしそこに女神はいなかった。本当にいたずら好きな女神さまだ…。だがしかし、ここまで上げる必要があったのだろうか。すごく注目を浴びてる気がする…。


 「こんなにお強い方だとは…。名のある冒険者様でしょうか…?それともどこかで修行なさっていたとか…?」


 「いやいや俺はそういうんじゃなくて…。」


 「そんな!それならぜひなるべきです!あなたほどのステータスがあるのなら冒険者でトップになることも可能です!」


 そんなことしなくてもいいんだが…。


 「ぜひ!ぜひ!」


そんなわけで俺は受付嬢の圧に負けて、冒険者になってしまった…。だがしかし!冒険者になったといっても肩書きだけだし?スローライフを送ろうが誰も文句は言うまい⁈とりあえず隠居するための道具でも揃えるかぁ!




 一軒家『100000000000yen』


 いや買えねぇ…。なんだこの値段。どんだけ働けばこんなの払えんだよ。よし、じゃあ作ろう!木材買って好きな土地に家作ればいいだけだし!


 1木材『100000yen』

いやいや、木材ってそんなに高いの?そんなん家作んのにいくらかかんだよ…。そうだ、森にはいっぱい木があったし、それを切り落とせばいいんだ!


『注意!木材は貴重な国の資源です。個人で切り取った場合、重罪に問われます。』


どうしろってんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!




俺のスローライフの夢は…お金稼ぎから始まるようです…。

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