第56話 突然のデート

 小雨の中、ガキが通う保育園の前で二人を待つ。遠くから二人が歩いてくるのが見える。




 二人の様子を見ていると傘をさしながら、小石を蹴ったガキを康代が叱っている。


「ロバート、小石を蹴って誰かに当たったら困るでしょ」


「はぁーい。ママごめんなさい。あれ、あそこにこの前の人が立っているよ」


ガキが俺を見つけ、傘を投げ捨て走って来た。


「ロバート濡れちゃうでしょ。待って」


 康代の言葉など耳に入らず俺に飛びついてくる。俺は頭をくしゃくしゃと撫でた後、ガキを抱き上げる。


「ロバート、元気にしてたか?」


「うん、お昼寝したら遊んでくれるって言ったのに、なんで帰っちゃったの?

約束は守らないとダメだってママがいつも言ってるよ」


「ごめんな。急な用事ができてどうしても帰らなきゃならなかったんだ。だから今日はお前と一緒に遊びたくてここで待ってた。どうだ? どこにでも連れてってやるぞ」


「うわっ。本当? やったー」


「ロバート、そんな勝手なことされたら困るわ」


「康代、頼むよ。今日一日でいいから付き合ってくれ」


「私にだって都合はあるのよ」


「ママ、お願い」


 二人のロバートが懇願しながら私を見つめている。顔だけではなく、お願いする仕草まで似ている。目を細めながら、いたずらっぱく笑う二人。


「私たちしっかり話をする必要がありそうね。午前中で仕事を早退するわ。午後から合流しましょう」


「じゃ、ガキと二人で午前中を過ごしたい。頼む、そうさせてくれ。その後、二人で康代の家まで迎えに行くから」


「ママ、いいでしょ」


「しかたないわね」


 二人のロバートがハイファイブで、にっこり笑顔で私を見つめる。


 拒まなきゃとわかっていても、気持ちとは裏腹に承諾してしまう弱い心。二人のロバートは停めてあった車に乗り込む。


「ママ、また後でね。バイバイ」

 無邪気な笑顔で手を振る二人。スーッと走り出して行く車。


 大切な息子をこんな簡単に預けていいのだろうか? 走り去る車を見送りながら心がざわめく。私は急いで保育園の先生に休みを告げ、歩いてすぐの職場へと向かう。小雨も止み、雲の隙間から太陽が顔を出し始めている。



◇ ◆ ◇


 車に乗り込んだ俺は、ガキに何か欲しいものがないか尋ねた。


「僕ね、お花が買いたいな」


「お前、誰か好きな子でもいるのか」


「ママに買ってあげたいの。ママね、いつもお花屋さんの前でじっとお花を眺めてるんだよ。僕が、ママお花が欲しいのって聞くと、ここで見てるだけでいいのよっていうの。お花は高いでしょ、それにすぐに枯れてしまうし、枯れたら悲しいから買わないって。ママ本当は欲しいけど我慢してるんんだと思うんだ」


「そうか、じゃママが喜ぶように二人でプレゼントを買いに行こう。ママを驚かせてやろう。午後からは、そうだな。三人で遊園地にでも行かないか?」


「やったー。僕ね、一度ディズニーランドに行って見たかったんだ。保育園のお友達のマミちゃんがすごく楽しい所だったよって教えてくれたの。僕もミッキーの帽子かぶってミッキー達と一緒に写真撮りたい」


「よし、じゃ三人でディズニーで決まりだな」





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チャラチャラ・チャラ男!! イケメン✖️三チャラ男!! 月星 妙 @AmyHop

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