第15話 クィーンの女・ローラ

 ソフィアと俺の関係は、誰にも気づかれていなかった。知っていたのは、まだガキのようなソフィアの初々しい友達くらいで、誰も俺に文句を言う奴などいなかったぜ。


 ソフィアも……何も言わなかった。



 ローラは、世界的なバレエコンクールで優勝したらしく、バレエ雑誌や女性誌に写真がデカデカと載ったんだ。学校だけじゃなく、世間からもすっかり有名人になってたぜ。


 そんなローラから連絡が入ったんだ。

「コンクールも終わったし、時間ができたわよ」


 ずっと、待ってたぜ。お前からの連絡。

「今夜、食事してから映画を観に行こうぜ」


「いいわよ」


 俺は、子猫のことなど忘れてローラとのデートを楽しみにしたんだ。


 

 夜になり、ローラを迎えに行くとローラはスタイル抜群の体にぴったり張りついたデザインのシルクシャンタンのドレスを着てきたぜ。

 その姿は、まるで大人の女だ。


「ローラ、綺麗だぜ! 」


 ローラは、口角を上げて笑ったんだ。

 その笑いはまるで、綺麗なのは知ってるわよって言ってるようだった。


 俺は、ローラを高級レストランへ連れて行ったんだ。このレストランは普段から予約が取れない店として有名だったが、こういう時は親父に頼むと大抵なんとかなったのさ。


 ローラは、有名だったから、彼女を連れて行くって言ったら親父は喜んで、すぐに予約してくれたぜ。ついでに代金も親父に請求するようにと頼んでおいたんだ。


 親父は、ヘラヘラ笑って「失敗するなよ! 」って言いやがった。

 馬鹿野郎。俺が失敗するわけないだろう!

 エレーナの時は、事故だったんだ。今の俺は完璧だぜ。もう大人になったんだ。


「親父こそ、気をつけろよ! 」って言ってやったぜ。


 親父は「わかってるならいいんだ。お互い……気をつけないとな」って否定もせずに言いやがった。


 親父もいい年なのに懲りないよな。また、新しい女と遊んでるんだろう。俺にはわかるんだ。親父は、つきあう女に合わせてネクタイを変えるからな。義理のおふくろは、何も知らないけどな。

 

 ざまぁ、みろ!!

 

 あのババァは最初から気に入らなかったからな。今度の親父の女は若いみたいだな。いい年した親父が、ピンクの花柄のネクタイをしてやがる。


 俺は親父に似たのかもしれないな。




◇ ◆ ◇


 ローラの家にローラを迎えに行くと、ローラの父親が笑顔で待ってたぜ。


「ロバート。父さんは元気か? 」


 驚いたぜ! ローラの父親は、親父と同級生で昔からの仲だと笑ってた。ローラの親父は俺のことも知っていた。まったく、狭い世界だよな。


 どうりで、うちの親父が、ローラとデートと知って喜んだわけだ。親父同士が知り合いとはな。俺は、ローラを泣かせられないと咄嗟とっさに悟ったんだ。


「父さんが、予約してくれたレストランにローラをつれて行きます。ちゃんとエスコートするので心配はいりません」


 微笑みながら好青年を演じたんだ。


「そうか。君のエスコートなら安心だ。そういえば、ロバート……もうすぐホームカミングだが、君がローラの相手になるのかな。いやぁ〜楽しみだよ」


 そうだった。もうすぐ、ホームカミングのダンスパーティがあるんだ。

俺はそんなこと考えてもいなかったが……


「はい。ぜひ……ローラと一緒に参加したいと思っています」

 さわやかに答えたんだ。


 俺たちが参加したら、ホームカミング・クィーンは、ローラで、キングは俺だろう。ローラは、俺を見てニッコリと微笑んでたぜ。俺たちは、誰から見てもベストカップルだからな。


 ローラの親父にも気に入られ、俺たちは今日から親公認のカップルになったんだ。


 

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