2章11話
龍犬、龍蜻蛉、龍百足。草龍、雀龍、猿龍と、この階層で襲ってくる魔物は全て龍の仲間か黒助のような龍モドキの生物です。もしかしたら黒助は元々この階層で暮らしていたのかしら。何かの拍子で転移の紋様に乗ってしまい、帰れなくなっていたのかもしれませんね。
お城を目指して一直線に進んでいるのですが、大地のひび割れから飛び出してくる魔物が多すぎてその歩みは遅々としていました。五階層のように目に見えない罠ではなく、ひび割れという目印があるので心構えもできますが、こう頻繁に出てこられると辟易してしまいます。しかも魔物のほとんどは何某かの状態異常を引き起こす特殊能力を持っているようで、翔くんは何度も【キャンセル】を使用していました。
「相田さん大丈夫か、毒液を撒かれたら俺じゃ防ぎきれねぇ」
「大丈夫よ、翔くんは戦いに集中して頂戴」
「しゃーっ」
黒助は見事なステップで毒液を避けています。さすがは猫ですね。口から毒液を吐く蜻蛉にはここまで何度も遭遇し、何度も毒液を浴びせかけられましたが私は至って健康なままです。どうしてだか分かりませんが、私に魔物の毒は全く効きません。確か血液型はO型だったので、それが関係しているのかもしれませんね。そういえば翔くんの血液型は何型なのかしら。B型なら相性バッチリなのだけれど。でももし彼がAB型だったとしても合わせられる自信はあります。血液型占いなんて所詮占いなので、そこに全ての真実があるとは思えませんから。
「おらっ、これでトドメだっ」
そんなことを考えていましたら戦闘が終了したようです。私は指先に錬魔素を集め、夢天の精霊さんたちを呼び出しました。この数時間で何度もお世話になっている精霊さんは、やりきった顔で汗を拭ったあとにウィンクをしてくれるようになっています。彼らとの信頼関係が増したように感じるのは気のせいでしょうか。
「助かるわ。やっぱ回復魔法があると効率が違うよな」
「私は戦うことができないから、そう言ってもらえると嬉しいわ」
「しかしあれだな、これだけ使っててもまだ使えるのか。相田さん実は凄い素質があるんじゃないのか」
そうなのです。宿で練習していた時は二回ほど使うと錬魔素が枯渇してしまったのですが、ここではそんなことになっていません。錬魔素の体内保有量が増えたのか、この迷宮がそういう環境なのか、それとも別の何かが要因としてあるのでしょうか。私は手押し車に腰掛けながら顎に指を当てて考え込みます。
「ババア、そのあざとい仕草はやめろ」
「にゃにゃあ!」
黒助が抗議してくれています。私の味方になってくれているのね。でも大丈夫よ、彼は口でこそああ言っていますが、それは照れ隠しなのだと分かっていますから。それより魔法使用回数のことが不思議でなりません。今こうして座っている間にも、体内の錬魔素が回復しているのが分かるのです。まるで何かに吸い寄せられているようにどんどんと。
「あら、もう錬魔素が完全に回復したみたいですね」
「何だよその無限魔力的なチートは。コツコツ経験値を貯めてる自分がバカらしくなるぜ」
「私みたいに干からびたおばあちゃんと違って翔くんは成長し続けているのだから、そちらのほうが羨ましいわ」
「そ、そうか。まあ俺も自分の限界が見えてないからな。もっともっと強くなって相田さんを余裕で護ってやるぜ」
「にゃあ」
確かに私の錬魔素回復量はゼペットさんから聞いた法則に照らし合わせても異常ですが、そうであっても戦いに参加する力はありません。このような場所においては、戦いながら私を護ってくれている翔くんのほうが何倍も優れているのは間違いないでしょう。私は感謝を込めて微笑みながら、彼のために麦茶を紙コップへと注ぐのです。
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