平和な1日
仕事をいつもより早く終わらせた俺は、定時に帰宅する。
昨日は遅くまで水原さんとディナーをしていたため、今日は早く帰ってやろうと思ったわけだ。
家に着き玄関を開けた。
「ただいま〜」
そう言って中に入るも、陽菜の姿が見当たらなかった。
いつもなら、この時間帯ならいるはずなんだが、どうしたのだろう。
ま、まさか誘拐されたとか?!
いや、流石にそれはないか。ちゃんと鍵はかかってたし、買い物かなんかだろ。多分。
「俺の家って陽菜がくる前まではこんな感じだったんだな」
最近は陽菜がいて当たり前になってきていたため、どうも落ち着かない。
寂しく感じてしまうのは、陽菜に毒されたせいなのか? いや、なんだかんだ言って、俺も陽菜がいないとダメになっちまったのかもな。
まだ陽菜は帰って来なさそうだし、風呂掃除でもしておくか。いつもやって貰ってるから、たまには俺がやるのもいいだろ。
毎日毎日嫌な顔ひとつせずやってくれている陽菜に少しでも楽をさせてやりたい。
1人の時は適当に掃除してたけど、今回はピカピカにして陽菜の驚いた顔を見るのもいいかもな。
驚いてくれるといいんだが。
「ただいま〜」
丁度風呂掃除を終えたところで陽菜が帰ってきた。
「ただいま」
「あれ? パパ帰ってきてたんだ! 今日仕事終わるの早かったの?」
「おう。今日は定時にあがることができたからな」
「そうだったんだ!」
「おう! それにしても、今日帰ってくるの遅かったけど、なんかあったのか?」
「弥生ちゃんが先生の手伝い頼まれてたから、それ終わるまで待ってようと思って教室にいたんだけど、寝ちゃってたんだよね」
あははと笑う陽菜は、若干恥ずかしそうにしている。
たしかに遅くなった理由が昼寝だったら、恥ずかしくもなるか。買い物してたとか先生の手伝いをしていたとかなら、堂々と言えるよな。
「そっか。ま、まぁ疲れてたんなら別にいいと思うけどよ。流石に寝すぎじゃね?」
「うっ、そ、そうだよね。寝すぎだよね。だから弥生ちゃんも先に帰っちゃったんだよね」
「えっ? 弥生ちゃんに先に帰られてたの?」
「うん。起こしてくれてたみたいだけど、全然起きなかったから先に帰っちゃったみたい」
陽菜は暗い顔になり、今にも泣きそうになっていた。
なんか、可哀想になってきた。自業自得なのはそうなんだが、せめて叩くなりして起こしてやればよかったのに。
「ま、まぁそういう時もあるだろ」
「……うん、そうだね。」
「おう。あっ、そうだ。風呂掃除はやっといたから、もう少しすればお風呂入れると思う」
「えっ?! パパがやってくれたの?」
「おう! いつも陽菜がやってくれてたからな。陽菜の負担が一つでも減ればいいなって思ってよ」
「パパ! ありがとっ!」
陽菜は満面の笑みで俺に抱きついてきた。
背中に手を回してくるため、俺も陽菜の背中に手を回す。
お腹のあたりに2つの柔らかい物が当たっていた。
意識しないように頭の中で必死に素数を数えていた。
1・3・5・7・13・17……あれ? 次何だったっけ? 素数を数えていても、途中から2つの物を意識してしまう。
「お、おい。どうしたんだよまったく」
なんとか、平常心を保って発した言葉だったが、聞く人が聞くと動揺しているのがまるわかりだ。
今の陽菜にはそんなの関係ないみたいだから、少しホッとする。
ここで動揺してるのがバレると、からかわれるのが目に見えてるし。
「嬉しすぎてつい」
「というか、風呂掃除しかしてないのに、そこまで嬉しいか?」
「うん! 風呂掃除だけでも嬉しいよ! パパが沸かしてくれたお風呂に最初に入るのは、私だからね?」
陽菜は抱きつくのをやめ、今度は腰に手を当て、ふふんと言ってドヤ顔していた。
「いや、陽菜がドヤ顔する必要なんてないだろ。むしろなぜドヤ顔した?」
「うーん、なんでだろ?」
陽菜は舌を少しだけ出して、てへぺろしていた。
なんか少しだがムカッときた。その舌を引っ張ってやろうかと思ったが、頭をブンブンと振りその考えを消す。
「ならそろそろご飯作んないとね! すぐ作っちゃうから!」
「そうか。丁度お腹空いてたし、有難いな」
「ふふっ、楽しみにしててね!」
制服を着替えた陽菜は、今にもスキップをしてしまうんじゃないかと思うほどに上機嫌に見えた。あんな姿、そんなに見た事がないため、いい事があったんだなとなぜかこっちまでも嬉しくなった。
陽菜が料理してる姿見るのって、休みの日だけだよな。平日に見るのは初めてかもしれんな。
「パパ〜、そろそろ出来るから、座っといて〜」
「おう! ってもう出来るのか?」
「うん。今日はオムライスとサラダにしたからさ!」
「そっか。楽しみだな」
「楽しみにしてて!」
「おう」
席に座ってオムライスがくるのを待つ。
オムライスとか、久しぶりだなぁ。昔母ちゃんがたまに作ってくれてたくらいだし、一人暮らししてからはそもそも料理しなかったからな。お店とかでも食べなかったし。
そんなことを考えていると、目の前にケチャップでハートマークを書いて、その中にパパと書いてあるオムライスが登場した。
「どう? 美味しそうでしょ?」
「すげー美味しそう」
「ならよかった!」
「オムライスとか、小さい頃に食べたって記憶しかないからな。超久しぶりなんだよな」
「えっ? そうだったの?! 外食とかでも食べないの?」
「まぁな。基本外食もあんましなかったし。週に1回行けばいい方だぞ?」
「そうなんだね! なら味わって食べてよ?」
「それもそうだな。そんじゃ、いただきます!」
俺の合図に合わせて、陽菜もいただきますをした。
美味しかったため、無言で食べ進める俺をよそに、陽菜はなんだか落ち着きが無いように見える。
「お、美味しいかな?」
「おう!すげー美味しい。やっぱ陽菜は料理上手だな! 何食べても美味しいし」
「よ、よかった〜。安心した」
陽菜はさっきまで緊張していたのか、ホッと息を吐いた。
「美味しかったからな。無言で食べてたよ。感想早く言えばよかったな」
「美味しく食べてくれてこっちも嬉しいです!」
「そんじゃ、ご飯も食べた事だし。陽菜、風呂入ってこいよ」
「うん! そうするね!」
陽菜は着替えを持って風呂場に行った。それを確認した俺は、トイレに行き1発抜きに向かった。
流石にあそこでおわずけされたらたまったもんじゃ無いからな。陽菜が風呂に入ってる今がチャンスだよな。
俺は携帯でブックマークしている『アイドル特集』を押す。男女の営みを見ながら、俺は自慰行為をする。
10分くらいたち、スッキリさせる事が出来たため、トイレを後にする。
久しぶりにしたため、めっちゃ出たな。
俺は満足気にリビングに戻った。
その後、数十分後に陽菜が風呂から出てきたため、俺も入る。流石に抜いたばっかだから、早く洗ってやらないとな。
風呂に入り念入りに洗った後、風呂を出た。
髪を乾かして少し落ち着いていると、俺の携帯が鳴った。
「パパの携帯がなるなんて珍しいね」
「いつもはマナーモードにしてるからな。電話とか、メールが来ても音鳴んなかったんだよ」
「そうだったんだ。いつもマナーモードにしなくていいのに」
「だって、何回も鳴ったらうるさいだろ?」
「それもそうだね!」
「だろ?」
そう言いながら俺はメールを確認する。
送ってきた相手は八城さんだった。
『明日会社終わったら待ってて。話したい事あるから』
なんとも簡潔な文だったが、その文からは恐怖しか感じられない。どーせこの前の話だろうけどな。まぁ俺も話したい事あったし、丁度いいか。
『わかりました』と、簡潔に返信した。
せっかく何もない、平和な1日だと思ったんだがな。そうも言ってられなくなってしまった俺であった。
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