もふもふと鋼鉄人形

終 事の顛末と恋の行方

　俺たちはその後帝国軍の飛行艇に拾われそのまま帝都へ招へいされた。フェオも何故か帝都に連れてこられていた。

　帝都に着きいきなり宮殿の奥にある玉座の間へと案内された。

　玉座には皇帝陛下が座している。皇室の方々は皆長寿で現皇帝ミザール様ももう200歳を超えているはずだ。まだまだ矍鑠としておられるが、頭髪は真っ白となり顔に刻まれたしわも深い。その両脇にはネーゼ皇女とマユ皇女が控えている。

　ネーゼ皇女。会うのは5年ぶりだろうか。白い肌と白銀の長い髪。ふくよかな体型に純白のドレスをまとっている。マユ皇女は青色の聖導師の正装だ。

　皇帝への謁見。本来ならば重臣や皇帝親衛隊等が並んでいるはずなのだが、今日は誰もいない。

「ハーゲン少尉こちらへ」

　俺は玉座の前まで進み片膝をつく。

「挨拶はよい。面を上げこちらへ来い」

「はい。陛下」

　俺は階段を上がり陛下の正面に立つ。

「ハーゲン。此度はご苦労であった」

「恐れ入ります」

「ただ、今回の件は秘密なのだ。お前を顕彰し名誉を回復してやることは出来ぬ」

「承知しております」

「それにな、お主にはまだ働いてもらわねばならぬ。これを持て」

　陛下が差し出した物、それは紫の房をつけた皇帝の懐刀「紫苑の剣」であった。

　これはこの国の重要な軍務を担うべき者へ皇帝から手渡される７本の懐刀の一つである。

「陛下、それは私ごときが受け取るべきものではありません」

「いや、お前が持たなくてはならぬ。神よりの詔なのじゃ」

　俺はマユ皇女の方を見る。マユ皇女は頷き答えた。

「ハーゲンさん。あなたには北の教国へ行っていただきます。そこの守備をお任せします。これは神のご意志です」

「これはお断りすることはできそうにありませんね」

「ええ、私も参りますから。私に悪い虫がつかぬよう見張りをお願いします」

「私が悪い虫である可能性を考慮されてますか？」

「貴方がお相手なら、私は次期教皇の座を蹴っても問題ありませんよ」

　マユ皇女は俺の手を取り金色の瞳で見つめてくる。

　コホン。陛下が咳払いをする。

「マユ。ハーゲンを困らせるな。また左遷せねばならぬではないか。これ以上迷惑はかけられん」

「冗談ですよ。お父様。私たちはこれで下がりましょう。姉様がお話があるようですから」

「おお、そうじゃったな。ハーゲンゆっくりとな」

　マユ皇女に連れられ陛下は奥に下がられる。

　しばし、ネーゼ様と見つめあってしまう。

「このまま妻帯しないつもりですか」

「ええ。私はネーゼ様と添い遂げられないのであれば、一生妻を娶らないと誓いました」

「私もです。婚姻は致しません」

「皇帝になっても？」

「ええ。私が子を設けずとも帝国の血脈が途切れることはありません。ご心配なく」

　我慢しているようで肩が震え目には涙があふれている。

「皇女殿下。クレド様のように私たちも亡命しますか？他所の星で結婚し子をもうけ平穏無事に暮らすのです。そういう人生もよろしいのではないでしょうか」

「馬鹿ですね。私が本気にしたらどうするんですか？」

「どうもこうも、実行するだけです」

　しばし、沈黙に包まれる。

「優しい方、そしてずるい方。私が絶対受けないことを承知でそんな誘惑をしてくるんですね」

　ネーゼ様は俺に抱きつき胸に顔を埋めた。手は震え嗚咽を漏らしている。俺の軍服も涙でぬれた。俺はしばしネーゼ様の肩を抱く。

　落ち着いたのかネーゼ様は俺から離れた。ハンカチで涙を拭きながら気丈に振る舞う。

「こういう湿っぽいことはこれで終わりです。私はもうあなたの事は……忘れます」

「嘘ですね」

「ええ嘘です。でも、嘘でも忘れるんです。ですからあなたも私の事を忘れてください」

「分かりました。忘れます」

「嘘つき」

「狐ですから」

「狐が嘘つきだって誰が言ったのでしょうか？」

「どこかの国の昔話でしょう」

「ええ。では、ハーゲン。さようなら。本当に。もう二人きりで会うことはないでしょう。マユの事よろしくお願いします」

　皇女殿下は深く礼をした後、奥に下がって行く。謁見は終了した。

　クレド様の解放、亡命に関しては伏せられたままで、立ち入り禁止区域での戦闘は宇宙船の事故として片づけられた。俺たちは無罪放免となり、ついでに俺の階級は元に戻った。

　俺は新しい赴任地へ赴くことになった。フェオも専任整備士としてついてくる。このお調子者は北の教国と聞いただけで小躍りする始末だ。いわゆる修道女が多い国なのだ。神に仕える処女の中にもフェオにお似合いの純朴な娘がいるかもしれない。飛行艇は北へ進む。行先は北の教国、アルマ教団の総本山である。