まさに『宝石のような』物語たち。それぞれの輝きが映し出す、不思議な世界

 カクヨム作家さんのなかには、ラノベ島で大活躍している方もいれば、純文学島に片足を置きつつも、娯楽性のある面白い作品を書かれる方もいらっしゃいます。私のなかで、作者のsakamonoさんは後者です。

 この短編集のジャンルは、SFになっています。けれど、その要素もありながら、現代ドラマでありファンタジーであり詩や童話でもあり怪異譚でもあるような……。とてもひとつには絞りきれない味わいがつめこまれていました。

 すごいなあと思うのは、各話に現れる「不思議」が、私たちの知る日常のなかに違和感なく溶け込んでいるところです。現実と不思議の境目がとても自然に混じり合っているがために、どのお話もあたかも自分の身の回りのどこかで起こっているかのように感じられ、その分、読み終わった後のふわふわ感がすごかったです。

 ※解説しよう!/ふわふわ感とは、「私の魂、どっかほかの世界を覗いてきたかも」って気持ちが余韻になって、しばらくぼんやりしちゃう感覚です。

 どのお話も素敵でしたが、『夏至祭』は特に好き! オススメです。タイトルを見た時、ふと宮沢賢治が浮かんできました。そして、このお話には賢治の描く世界に通じる美しさがあるのです。

 実はsakamonoさんの作品に出会ったのは、前回の『角川武蔵野文学賞』の受賞作を読んでみたいと思った時です。『水辺の生き物』という作品で優秀賞を受賞されていました。それだけの実力がある方なので、この短編たちもぜひぜひ読んでみてください!

 

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