降り積もる雪のひとひらが、語ることのできる奇跡

「民俗学」をテーマにした短編です。民俗学となると、対象となる人々の生活や習俗について詳細に描かねばならないから長くなる?とか勝手に思い込んでいたのですが、短く、メリハリのある、しかし「生活」が見えてくる、もう、大当たりとしか言いようのない短編でした。

二つのパートが交互に出てきます。一つは調査に当たる現代人、もう一つは調査される側の約100年前の人々です。この世界自体、現実のものとは違うのですが、現実世界においても、考えねばならない問題を含んでいると思いました。

このお話の魅力は、やはり、調査される側の人々が「日記」を残しており、自らの言葉で語っているところです。交換日記のようになっていて、ここに出てくる「エルディオス様」のかわいいことと言ったらもう!何の話であれ、人物に魅力があることは話の面白さの絶対条件だと思います。「観察対象」ではなく、生きた人間なんだという当たり前のこと。短い場面ながら、雪の中に消えていった彼らの姿が克明に浮かび、とても愛着が湧きました。

しかし、現実社会の民俗学においては、文字がない、記録がないなどの理由から、彼らのように「自ら語る」ことができない場合が多いです。自らのあり方を、自らの言葉で語ることができないと、結局「発見者」の側がステレオタイプを押しつけていくということになりがちです。

私がこのお話を読んで、切ないながらも救われた気持ちになったのは、「彼ら」が自分たちの言葉で語っていたからです。これは、現実の民俗学ではなく、「異世界の民俗学」だからこそできた、素敵な奇跡ではないでしょうか。

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