新文芸の新戦力

 前話では電撃文庫とそこに付随する情報をまとめてきました。

 そこで出てきた話に加え、新たに生まれた疑問について今回は考えていきたいと思います。


 疑問は二点。

 「新戦力」と「新文芸」について。

 では、早速みていきましょう。



 ――



 まずは、《新文芸》スタートアップコンテストのキービジュアルを見てみます。


 カクヨム×電撃文庫、大賞の賞品などが記載されていますが、やはり目につくのはピンク帯に白抜きで書かれた『新戦力求む』の文字と、キャラの吹き出しで語られている『新文芸、始めます』ではないでしょうか。


 前回の最後で何故新戦力なのか不思議であると述べましたが、実際のところ、その理由はある程度予想できています。


 ズバリ、序文にて語られている、


『「これこそが今の電撃に足りなかったモノだ!」と思わせてくれる、新しさに満ちた作品を募集いたします』


 が全てかと。


 電撃文庫について調べた際、他のレーベルでは見られないような作風も多く受賞している傾向がある事に触れました。

 これはつまり、レーベルにそれだけの地力があり、言ってしまえば売れるか分からないものでも挑戦できる、という事です。


 ”電撃文庫”というだけである程度の売り上げが見込めるため、流行っているものとは別に、著者と編集部が面白ものを作り上げる環境が整っている。


 これは非常に魅力的であり、同時に代えがたいメリットでもあります。


 そして、「スタートアップ」という言葉にも電撃編集部の考えが詰まっていると感じられます。


 「スタートアップ」という言葉の意味について調べてみると、


『比較的新しいビジネスで急成長し、市場開拓フェーズにある企業や事業』

『今までに無いイノベーションを起こし世の中を変える事』

(スタートアップって何?|仕事百科 より, https://hataraku.vivivit.com/works/startup)


 という説明がなされていました。


 WEB小説はなろうに始まり多くの書籍化作品を擁していますが、その分公募から書籍化される作品に対してスポットライトが当たる機会は減少傾向にあります。


 前回、電撃小説大賞についても話しましたが、実は公募の応募数は漸減傾向にあるのではないかと私は考えています。


 というのも、第21回電撃小説大賞は5,055作品の応募があったのに対し、第22回では4,580作品にまで減っています。

 これを受けてか、第23回からはWEB応募を開始しましたが、それでも応募数は4,878作品。24回は5,088作品。25回に至っては4,843作品と200作以上減少していました。

 WEB応募によって門戸が広がった事を考えれば、公募による応募総数は漸減傾向にあると見ていいと思います。


 これに対して”新文芸”はWEBです。


 新文芸を新たに展開していく際の発表として、本エッセイでも以前に少し取り扱ったカドカワストアの記事「井上伸一郎に聞くWEB発の新ジャンル 新文芸」(https://store.kadokawa.co.jp/shop/pages/special_articles_01.aspx)を再度取り上げたいと思います。

 上記の記事中で何故”新文芸”というジャンルを立ち上げたのかについて触れていました。


 ――以下引用

 ———なぜ、いまネット小説をひとつのジャンルとして確立しようと思ったのですか?


 井上 書店さんや、そこで本を買う読者の方の目線に立ってみたときに、必要だと感じたからです。というのも、現在こういったネット発の小説というのは、一般文芸の棚に並べられていたり、ライトノベルのコーナー、漫画の隣であったりと、書店さんによって置かれている場所がまちまちです。最近アニメ化されて大ヒット中の『オーバーロード』(小社刊)など、ネット発の小説はすでに大変な勢いを持っており、多くのファンが存在しています。しかし、なにかの作品をきっかけとしてネット小説に興味を持った人が、他のものを読んでみたいと思っても、書店さんでどこを探したらいいのかわからないというのが現状です。


 このジャンルに「新文芸」という名前を与えることで、まずは書店の方々にそういったジャンルがあることを認識し、コーナーを作っていただけるようになればと思っています。そうすれば、ネット発の小説を探しているファンはもちろん、その存在をまったく知らなかった人たちにも興味を持ってもらえますよね。


 いまでこそどの書店さんに行ってもたいていはライトノベルの棚が作られていますが、スニーカー文庫やファンタジア文庫が創刊された1980年代後半ごろには、同じようにジャンル名がなかったんです。「ファンタジー小説」と呼ばれたり、「ヤングアダルト」と呼ばれたり。それがいつの間にか、「ライトノベル」として統一されていった。1年後になるか3年後になるかわかりませんが、書店さんに当たり前のように「新文芸」のコーナーがあるというところを目指していきます。

 ――以上

(「井上伸一郎に聞くWEB発の新ジャンル 新文芸」より, https://store.kadokawa.co.jp/shop/pages/special_articles_01.aspx)



 この記事は2015年のものであり、以上の事を鑑みても、『比較的新しいビジネスで急成長し、市場開拓フェーズにある事業』であると見なせる"新文芸"へ、電撃が新たに販路を広げるのは妥当でしょう。

 カクヨムでコンテストを行い、その受賞者を起用した新レーベルを新文芸として売り出す、という流れは全くもって自然な流れと言えます。

 では、電撃はどのような作品を単行本にしようとしているのか。


 その答えとも言えるのが、『スタートアップ=今までに無いイノベーションを起こし世の中を変える』作品だと予測できました。


 それは、『「これこそが今の電撃に足りなかったモノだ!」と思わせてくれる、新しさに満ちた作品』に当たるでしょうし、ではなく新文芸、ひいてはWEBとして何ができるかと考えれば、その表現の幅広さも一つの特徴と言えるでしょう。


 例えば、WEB小説らしさを活かしたアイディア作品として、かぎろ氏の「カクヨム地底7000メートル」(https://kakuyomu.jp/works/1177354054883788297)を挙げられます。こういった面白さもWEB小説の特徴ですね。

 しかし、書籍化を前提としているコンテストやそれに応募する執筆者の方々は、やはり媒体がWEBである事よりもになる事を意識して書かれる事が多いでしょう。


 それは勿論しょうがないと言えるのですが、では、”新文芸”という括りに”原作WEB小説”という意味以外はないのでしょうか。

 立ち上げの切っ掛けはただのだったとしても、電撃が「新文芸に挑戦します」と宣言までして開催する今回のコンテストで、他に何か求めているものはないのか。


 私はそこに疑問を抱いてしまいます。


 WEBで支持された作品は書籍化した際に最低限度の人気と売り上げを担保する事になるでしょうし、編集も最近の流行を簡単に伺い知ることができます。

 拾い上げならば公募で高い賞金を掲げるよるも遥かに安価で優秀な著者を囲う事もできるでしょう。


 しかし、現状、新文芸はただの分類に過ぎず、そのためにという言葉自体の認知度も低いままです。



 そこでKADOKAWAが考えた戦略の結果が、『電撃の新文芸進出』であると推測しました。



 業界大手で多くの固定読者を抱える電撃が新文芸として新レーベルを発表すれば、否が応でも注目を集めます。

 また、新文芸をコンテストとして前面に押し出し、今まで新文芸なんて知らなかった人に対してもその認知度を高めるように動いています。

 現在はどんな作品が出るか告知できるほど決まっていないでしょうし、スタートアップコンテストが新文芸進出の初公式発表と受け取ると、電撃でデビューしたいと考える人々は”新文芸”について調べざるを得ません。


 けれど、調べたところで「オーバーロード」や「デスマーチから始まる異世界狂想曲」などの人気作に行き着くだけで、結局何を求めているのか今一つ分からない、という方が多くいらっしゃるのではないかと思います。


 ここで、電撃が今まで積み上げてきたブランド力と、そのコンセプト「面白ければなんでもアリ」が光ります。


 つまり、「新文芸はよく分からないけど、電撃大賞に応募するのと同じスタンスでいいのかな」という形に落ち着くのです。


 実際、その考えは間違っていないと思います。


 メディアワークス文庫は何故電撃から分派したのか。

 その理由は初期からの読者層が年齢的に成長したからでした。

 

 では、電撃が新文芸に分派する理由は?

 WEBの読者層を取り込むためだと考えられます。


 結局、読者を逃がさず増やすという同じ理由ですね。

 電撃の目指しているものが変わった訳ではありません。

 よって、電撃小説大賞に送るつもりで作品を作れば良いという答えが出てきました。



 しかし、ここで終わってしまっては他の新文芸レーベル(エンターブレインやMFブックスなど)との差別化が図れても、



 単行本は文庫本よりも大判でありページ数も多いため、どうしても単価が高くなってしまいます。

 にも関わらず、電撃文庫と電撃新文芸の中身がほとんど変わらないのであれば、最初は売れても結局のは目に見えています。



 この予測を裏切るために必要なのが『「これこそが今の電撃に足りなかったモノだ!」と思わせてくれる、新しさに満ちた作品』のはず。



 そのため、電撃のコンセプト「面白ければなんでもアリ」を満たすが欲しいのだと推測できます。


 それは、何も秀逸なストーリーや魅力的なキャラクターに限りません。

 

 例えば、SFジャンルではストーリーが微妙でも斬新なトリック、アッとおどろくようなどんでん返しがあれば、それは”素晴らしい作品”と評価される事がしばしばあります。

 上に挙げたかぎろ氏の作品も、そのギミックを評価されている部分が大きいでしょう。


 確かに、WEBである事を突き詰めてしまっては書籍化は難しくなります。

 コンテストに参加する以上、目標は大賞受賞の書籍化でしょう。

 そのため、これは個人的な考えという側面も強くありますが、新文芸を謳ったコンテストでは是非”WEBならでは”の表現や構成を売りにした作品を見てみたいと思ってしまいます。

 

 ――「電撃に足りないものはコレだ!」


 そう考える時に、少しでもカクヨムに投稿する意味をコンテスト以外から見つけてもらえれば、貴方の作品は新文芸という舞台でより華やかに活躍できると、私は信じています。


 先述したカクヨムに投稿されているアイディア作品ですが、他にも柳の人氏の「-」(https://kakuyomu.jp/works/1177354054881946994)や、カゲヤマ氏の「簡単なアンケート」(https://kakuyomu.jp/works/1177354054882499316)などはなるほどと唸ってしまうようなものでした。

 だからこそ、何かもっとストーリー性のある物語にこの機能を活かせないかと考えてしまったりします。


 カゲヤマ氏の作品は本文で二択の質問を載せ、応援を押す/押さないでYES/NOを回答するというものでしたが、これを応用すればにも使えたりするのではないかと考えています。

 「この話は読んだ」と読者側が判断できる材料にする、という意味です。


 例えば、一本道ではなく途中で分岐のある物語。

 カクヨム内リンクであればリンクが活きますが、本文中に物語の分岐を作って二つの違う作品(下書き共有ページや同じ作品の異なる話などでもいいかと)のリンクを用意します。

 この分岐が複数回あったりすると、読者としてもどういうルートで結末にたどり着いたのか覚えていないでしょう。

 そのため、もし違う結末を見たいと思ってもらえたら、分岐があるページを応援したかどうか読者自身に確認してもらえば良い訳です。応援をしてたら「さっきはAを選んだ」と分かりますから、今度はBを選んで読者は応援を外せば良い。

 もう一周読みたいとまで思ってくれる読者の方なら、恐らくこういった一見面倒臭そうなギミックも楽しんでくれるのではないかなと思います。


 著者の考えた一本道ではなく、読者が自分の選択で結末を変える事ができるというのはちょっとゲームみたいですね。

 まあ、この方法では一つの作品とカウントされないでしょうからコンテストには応募できない上に、通常よりも圧倒的に執筆量は増えますから苦労の割りに報われないと感じる事もあるでしょうけれど。(苦笑)


 また、カクヨムでは本編を開きながら同時に目次バーを右側に出す事が可能ですし、フォローしている作品なら「続きから読む」を押せばゲームのSAVEポイントみたいに途中から読む事を再開できます。

 これを組み合わせれば、「目次の最終話≠最新話」という構成にもできそうだと考えられます。


 他にも使えそうな機能はまだまだあります。


 カクヨムではつい最近、”横書き”と”縦書き”を読者が切り替える事ができるようになりましたよね。

 これを、ただ単純に好みで終わらせるのではなく、「必ず縦書き(横書き)で読んで下さい」という風に注意書きがあったらどうでしょう。

 「始めは”横書き”で、第〇話からは”縦書き”で読んで下さい」とあったらどうでしょう。

 「え、何で? 何かあるの?」と、それだけで少し興味をそそられませんか?


 最初に見た後はしれっと流してしまうキャッチコピーがあります。

 キャッチコピーに実は重大なヒントが隠されていたりしたら、読後に「やられた!」って思いつつも嬉しくなったりしませんか?

 キャッチコピーは文字に加え、著者によって唯一自作にをつけられる部分ですし、その部分を利用して何かトリックを考えてみるのも面白そうです。


 WEB小説は1話辺り3000~5000文字が良いとされています。

 しかし、これは何も1である必要性はないと思いますし、疾走感を出したり、シーンの区切りを意識したりした結果、「500文字・2000文字・500文字」の3ページを1話として一気に更新するのもありだと思います。

 

 余談になってしまいますが、私としては背景やフォントの変更、そしてBGMの設定なんてのも出来るようになれば面白そうだなあ、と密かに考えています。



 と、ここまで私の思い付いた事を長々と書き連ねてしまいましたが、別段そういった機能を使わなくても構わないと思います。

 むしろ、使わない方が書籍化はしやすいかと。


 しかし、もし、これら機能を使いながらも書籍化可能な素晴らしい作品が出てきたら――。




 貴方が選考委員だとして。


 ”新文芸”という畑で。


 電撃という大手の力を借りて。


 カクヨムで開催されるコンテストで。


 ――何を””と想い描きますか?


 その時思い浮かんだ世界を、そのまま文字に、そして画面越しに、どうか届けてください。


 きっと、貴方にしかできない『新しさに満ちた作品』が、そこには生まれているはずです。



 ――



 最後は私の願望をつらつらと語ってしまいましたが、今回はこれで『電撃 《新文芸》スタートアップコンテスト』の分析を終了したいと思います。


 ここまで本エッセイを読んで頂きありがとうございました。

 貴方にとって、何か有益な情報をご提供できていたら幸いです。

 宜しければ、また新しいコンテストが開催された時にお会いしましょう。


 ではでは。

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