第8話 スピード対決 雷VS氷


「▼紀元前27年 ローマ帝国が帝政を始める。初代皇帝はアウグストゥス。

▼395年 ローマ帝国が東西に分裂。

▼476年 西ローマ帝国事実上の滅亡(ローマ帝国の滅亡)。古代が終わりを迎える。

▼481年 フランク王国の成立。建国には375年から始まった「ゲルマン民族の大移動」が影響しているとされている。

▼800年 カール大帝の戴冠。フランク国王カール大帝が、ローマ教皇から西ローマ帝国皇帝の位を授かった事件。

▼843年 「ヴェルダン条約」によってフランク王国が西・中・東に3分割される。西フランク王国はのちにフランス王国を経て現在のフランスへ、東フランク王国は神聖ローマ帝国を経て現在のドイツへとつながる。

▼1096年 第1回十字軍派遣。十字軍はキリスト教の聖地「エルサレム」をイスラム教徒から奪還するために派遣された。十字軍は第9回まで派遣が行われたが、エルサレム奪還は果たせなかった。」


寝起きなのか乱れた髪の毛に手を当てながら男子生徒が立席し、言葉を連ねている。


今は世界史の授業中である。

外の世界、一般学校と同じように5教科をここ魔法学園でも勉強する。

ただ外と違う面は多くあるのが魔法学園の特徴とも言える。


「(1度見たものを永遠に忘れない「記憶魔法」)」

年表を呪文のように唱える彼の魔法を玲奈は感知する。



「ぐうーーぐうーー」

授業中にいびきをかいて眠る生徒。

「じゃあそこの寝てる森!東ローマ帝国滅亡は何年だ?」

「ぐ、んあ?」

先生に指名され、森と呼ばれたその男子生徒は寝ぼけままに顔を上げる。

そして自分の机にある世界史の教科書に目をやった。

スウウウウウウ

表紙が消え、当てられた質問の答えが書かれたページが浮き上がる。

「1453年でしょ?それで中世が終わった」

「よろしい」


答えを確認すると先生はそのまままた教卓へと戻った。


「(透視魔法、、、、、)」

それを見ていた玲奈は同じように魔法を察知する。



そして

チラッ

目を向けたさきにも

「ふわーーーあー」

大きな欠伸をし、両手を頭の後にまわし椅子にもたれかかっている生徒。

カリカリカリカリカリ

ペンがひとりでにノートの上で動き、板書している。


「(遠隔操作の魔法、、、、)」



そう、外と違うのは魔法を使用しての受講があるということである。

ここではおそらくそれは当たり前のことなのだろう。

一通りの魔法を見たあと玲奈はふと思うのだった。


(なるほど、、、、)

(魔法自体は知ってたけど、こんな使い方もあるのね、、、、、)

(でもこれなら受ける必要ないじゃない、、、)


間違いなく正論である。

これではただの時間の無駄遣いというものだ。




ーーーーーーーーーーー



キーンコーンカーンコーン

授業開始のチャイムが校庭に響く。



(ふぅーーーただでさえ日の下は嫌なのに、、、、、)


「あっつい、、、、、」


ここは運動場。

玲奈と翔が昨日力をぶつけあった場所である。

陽の光を直に受け、玲奈は苦い表情を浮かべている。


「やべーめっちゃ可愛いなポニーテールの玲奈ちゃん!」

「いや、体操服も似合いすぎだろ」

男子生徒たちが体操服姿に着替えた玲奈を見て感想を述べている。

学園の体操服も制服同様支給式である。

ゆったりとした綿素材、クリーム色の半袖に下は膝ほどまでの長さのハーフパンツ。

黒に近い紺色に緑のラインが縦に1本走っている。

(うるさいな、、、、、)

玲奈は初めての体操服の着心地など無関心。

暑さに雑音で調子はすこぶる悪い。

パサッ

持ってきていた黒い傘を差すと玲奈はそれでそのまま自身を覆った。


「今日は機嫌悪いね?」

「!」

急に声をかけられ玲奈ははっと顔をあげる。

「体育嫌い?」

(この人は、、、、)

(いつも成瀬翔と一緒にいる、、、、)

そう、通路を挟んですぐ隣に座る金髪の彼がそこにはいた。

彼も同じように


「それとも、、、暗闇にいたから日差しが苦手」

「!!」

意味深な笑みを浮かべ、そう告げる彼に玲奈は警戒心を強くすると、そのまま身を引いた。

(なにっ、、、、この人、、、、)


「あーごめんごめん!そんなに警戒しないで!冗談だよ笑」

「、、、、、、、。」

「冗談」、とてもそうには取れなかった。

玲奈は沈黙のまま彼を見つめる。


「俺の名前は夏木レン。よろしくね」

スッ

それを知ってか知らずか彼はそのまま右手を差し出した。

「、、、、、、、。」

玲奈もそれが何を意味しているのかはなんとなくわかる。

スッ

渋りながらも左を差し出し、言葉を返す。

「、、、、よろしく」

玲奈より大きな手をした彼はその手を優しく包み込んだ。

ギュッ

そして、にこっと優しく微笑むのだった。


「、、、、、、、。」

(考えてることが、、、)

(読めない、、、、、、)

玲奈は少し眉を寄せ、自分よりも少し身長の高い彼・夏木レンを見つめるのだった。


ーーーーーーー

「じゃあ今日は100m走のタイムを測る!それではよーい、、、、」

ジャージを着た高身長の男性教師が右手をあげ合図をする。


そして

「はじめっ!」

ピーーー

その声と同時に首からぶら下げていた笛を鳴らした。


ダッ

笛の音に合わせて3人が走り出す。

「はあはあ」


しかし1人はレーンに座ったまま悠長に靴紐を結んでいる。

「んーよいしょっと」

そして重そうに腰を上げ、一呼吸おいた瞬間


ギュイイイイイイイイイイーーーン


ぶっちぎって先を走っていた生徒を抜かしていく。

「(超高速で走る魔法、、、、)」



そしてもう1人レーンで未だに立っている少女。

「よいしょ、めんどくさっ」

そう言い捨て、大きく息を吸った瞬間、

シュンッ

彼女は消え、次の瞬間にはゴール前に現れた。

「楽勝楽勝〜」


「(瞬間移動の魔法、、、、、)」



(本当無茶苦茶、、、、)

(これが許されないのが榊の授業ってわけね)

運動場に順番待ちをして座る生徒達。

黒い傘をさして待つ玲奈の脳裏には昨日の授業風景が蘇る。

授業中に眠ろう、魔法を使おうもんならば確実に榊の鉄槌、電気の魔法が飛んできていた。


「じゃあ次!」

「、、はぁ、、、、、」

自分の番である2走者目が呼ばれ、玲奈は重い腰を持ち上げる。

「新入生、その黒い傘置いてから来いよ」

「、、、、、、、、。」

先生に指摘され玲奈は一瞬その場で動きを止める。

しかし同じように順番を待っていた3走者目の奏斗が優しく声をかけた。

「玲奈ちゃん、それ僕持ってよっか?」

「うん」

玲奈は躊躇しつつも先生の目を受ける中、傘を閉じるとそのまま奏斗に手渡した。



「楽しみだね!頑張ろうね?」

「!」

すると後ろから笑みを浮かべ声をかけられる。

声をかけてきたのは、そう

(夏木、、、、レン)


「俺も次一緒に走るから」

「、、、、、、、、。」

運がいいのか悪いのか、たまたまなのか図られたのか、どっちにしろ彼を警戒する玲奈にとってはさほど気分はいいものではない。



「位置について」

「、、、、、、、。」

先生の合図を横見に聞きながら隣のレーンで準備する彼の姿に目を向ける。

(本当なんのなの、、、、この人、、、)

(成瀬翔といるなら敵意を向けてきてもいいはずなのに、、、、、)

「あ、言い忘れてた!」

「!」

それを知ってか知らずか、スタートの形についてから思い出したように声をあげる。

「よーい、、、、」

「俺、雷魔法の能力者なの。だから速いよ?」

「!」

思ってもみない発言。

「本気出して、かかってきてよね」

そしてその目はとても挑発的だった。



「スタート!!」

ピーーー


バチバチ

笛の音と同時に彼の足元に宣言通り稲妻が走る。

そして

ヒュンッ

「!!!!」

黄色い閃光となってそのまま一気に走り抜ける。

(速いっ!!!)

その早さに思わず玲奈も驚く他ない。


「きゃーーー!!!流石レン君!速い!!」

「これぞ電光石火!!」

キャーキャーと女の子たちがそれを見て歓喜の声を上げる。


ニヤッ

余裕というばかりに後ろを振り向くと挑発的な笑みを浮かべる。

「っ」

流石に頭にきたのか玲奈は力を込めると

ダンッ

強く地面を蹴る。

そして、

バッ

レンに食らいつくような猛スピードで追い上げていく。


「おお!!」

「玲奈ちゃんもはえーー!!」

「魔法使ってねえよな?」

「なんだあの走りっ」

「すげえ!!!!」

「レンさんと渡り合ってる!」

それを見ていた順番待ちをしている生徒や走り終えた生徒が声を上げる。


「ヒュー、さっすが。翔に適うスピードだけはあるね」

前を走っているレンも楽しそうに声を上げる。

それを聞き、玲奈は疑問を口にする。

「どういうつもり?あなたは私に敵意を向けないの?」

「敵意、、、、、?」

思ってもみない言葉にレンはきょとんとしている。

トンッ

そしてそのままゴールラインを踏んだ。

「1着、夏木レン3秒23」

ゴール地点でタイムを図っていた生徒が秒数を報告する。


「翔は翔。俺は俺。俺が君にあるのは興味だ」

「!」

ゴールをした後背中越しにレンが答えを返す。

「2着、橘玲奈3秒45」

「じゃーね」

そういうとそのままレンは去っていった。


「、、、、、、。」

(なるほど、、、、、)

(敵意よりはマシだけど)

(それはそれで面倒だな、、、、)

去っていくレンの後ろ姿を見ながら玲奈は軽く微笑んだ。

「面倒」とは思いつつもその表情は優しげだった。


「凄いね!!玲奈ちゃん!!」

「すっごく速かったよ!ほぼ目でおえなかった笑」

「お疲れ様!僕達3走者目だから次走るんだ!はい!」

「!」

すると横から桃花、奈々子、奏斗がかけてきた。

奏斗は玲奈から預かっていた傘を手渡す。

「ありが、、、とう、、、、」

玲奈は感謝を伝えながら奏斗から傘を受け取ろうと手を伸ばした。

(傘、、、、)

(暑い、、、、、、、、)

「あ、、、つい、、、、」

「「「えっ?」」」

玲奈のつぶやきに3人が気づいた時、

ふらっ


時すでに遅し。

バターーン!!

そのまま玲奈は目を回し、地面に倒れてしまった。

「キュ〜〜〜」

先程のカッコいい姿はどこへやら

そこにはなんとも言えない情けない姿が転がっている。



「玲奈ちゃん!?」

「どうしたの???」

「大丈夫ー!!???」

桃花、奈々子、奏斗が慌てて駆け寄る。

「先生ー!橘さんが倒れましたー」

「なにぃ!?」

先生も驚きのあまり声が裏返ってしまった。



「ぷっ、あっはっはっはっは」

その一部始終を見ていたレンが耐え切れないというように吹き出して笑う。

「!レンさん?」

「レンくん?どうしたの?」

「はは。本当面白いなぁ」

笑いすぎて目尻に出た涙を拭いながらレンはその光景を見守る。


「玲奈ちゃん、しっかり」

「う〜ん、太陽が、う〜ん」

そこでは必死に声をかける3人とその腕の中でよくわからないことを呟きながら目を回している玲奈がいた。


「日差しが苦手なくせにムキになって走って、、、、、」


「はぁ〜、本当。ますます興味が湧いたよ。橘、玲奈」


その呟きは誰にも届くことなく、夏の訪れを感じさせる青い空へと消えていった。

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