我が一族最大の恥だ!

成神泰三

第1話

 まずい、非常にまずいものを見てしまったよお母さん。ちょっと軽くコンビニにでも行こうかと車を動かしたらこれだよ。全く俺が何をしたっていうんだい。


 結論から言おう。由美子が見知らぬ男とホテルから出てくるところを発見してしまった。


 由美子とはそれなりの仲だ。出会ったのが高校2年生で、付き合い出したのもそれ位。幾度かの衝突こそあったが、それでもお互い理解し合い、許し合うことで絆を深めてたと思っていた時期もありました。しかし、大学の進学先が別れ別れになって3年目、それなりに連絡を取り合っていた訳だが、学業に打ち込みたいと由美子から連絡があり、それから会うのを控えたら学業じゃなくて間男と性の学士号の取得に精を出すとは、こいつはおでれえた!


 いやいやこんなことを言っている場合ではない。将来伴侶として迎えようとしていた相手が浮気、この事実は非常にまずい。考えてもみて? 俺、財閥の御曹司よ?その彼女が他の男に寝取られていましたキャハ☆ なんて事実が周りに広がりでもしたら、俺、恥ずかしくて外歩けないよ? なんなら親にも「お前は金田家の面汚しだ!」なんて言われるかもしれないよ? だってそれ、いうなれば俺の管理能力の不備って考え方もあるからね? それだけはまずい。俺の栄光の金田家ライフにかなりの支障をきたしそうだ。


 しかし、実際問題この件をどうやって解決したものか。普通に考えれば、さっさと別れて違う相手を探せばいいだけの話なんだが、それはできない。何故なら、由美子と付き合うためにお母さんから紹介されたお見合い話を全部蹴飛ばしてしまったからだ。


 しょうがなくない? 高校生にお見合いは重過ぎるもの。相手こっちよりも一回りも二回りも年上なのよ? しかもその相手と付き合うことを通り越して結婚しないといけないんだぜ? もっとこうさ~高校生らしく青春したくなっちゃうじゃ~ん。故にお母さんのお見合い話はお母さんのメンツも何も考えずに全部蹴っ飛ばしました。その手前、まさか浮気していたみたいなので別れますなんて言えません。お母さんごめんなさい。


 さて、そうなれば後残るところ、由美子と付き合っていた事実を消し去るために、由美子をこの世から抹消したいところだが、根本的解決にはならないのでやってもしょうがない。詰まる所詰んでいるといっても過言じゃない。どうするのが一番の解決方法なのか、俺には皆目見当がつかない。とりあえず家に帰ろう。


 目的のコンビニによることなく家の駐車場に車を停めてカギを締め、自室のキングサイズのベットに転がって第二作戦会議としゃれこむが、一向にいい案が浮かんでこない。こう、もっと考える余地があればいいんだけどな~。


 しっかし、由美子の浮気相手はいい尻してたな~。


 いやね、こんなこと言ってる場合じゃないのはわかるんだけど、人間どうにもならなそうな困難に直面すると、現実逃避するようにできてるからさ。


 別に俺はノンケなんだけどさ? でも、思いだすのが浮気相手の尻なのは何でかね。というか、顔もわりと中性的というか、女装させればそれなりに悪くなさそうなんだよな~。もしかしたら由美子よりもかわいいんじゃないかな。まずい、新しい扉を開く十秒前だ。


 そういうやましいことを考えている時に限って邪魔が入ってくる。突然震えだしたスマートフォンに驚き、一瞬間を開けて確認してみると、件の発端となった由美子からの着信だ。最後に通話したのはいつ頃だったか思い出せん。今思い出せるのは由美子の浮気相手の男の尻だけだ。俺が悪いわけじゃないのになんだろうこの罪悪感。


「もしもし」


「あ……直樹君?」


「俺以外に出る可能性があるのか?」


「そ、そんなことないよ!」


 まあああよくそんなウソがつけたもんだな~。ぼかあ驚きだよ。なんだろうね、この神様視点っていうの? すべてを見越すことのできるが故の優越感? なんか一周回って浮気を許せそうな感じ? まあ、許すと俺の金田家ライフに支障がきたすからそんなことできないけどね。


「それで、なにか用事があるのか?」


「う、うん。ここ最近会うことができなかったから、今度の日曜日遊ばない?」


 恐らくあの男の入れ知恵で、怪しまれないようにそれとなく彼氏彼女しとけとでも言われたんだろうな。まったく、あの尻を見なければ憤慨しているところだぞ。


「日曜日ね~どうだったかな~?」


 ペラペラとスケジュール帳を眺めながら、予定を確認すると、日曜日は親戚との会食だ。金持ちの親戚付き合いがいかに重要か両親から耳にタコができるほど聞いた。とてもじゃないがデートなどしている余裕なんぞこれっぽっちもない。


「だめだな。予定が埋まってるわ」


「そっか……残念だなあ。それなら、いつ頃空いてる?」


 なかなか食い込むな、よほど念を押されていると見た。ここで俺は悪魔的発想が浮かび上がる。


「そうだな、今日とかなら空いているんだけどな~」


「き、今日? そんないきなり言われても……色々と準備とかあるし……」


「準備の問題はないだろ。今日思いっきりおめかしして男とホテルに行ってたじゃないか」


「……っ!?」


 おお、受話器越しにわかるこの混乱ぶり。平静を装うと呼吸を整えているのがあざとかわいい。さすが俺の彼女。


「い、いきなり変な事言わないでよ。いくら直樹君でも、言っていいことと悪いことがあるよ」


「おいおい、金持ち相手に手間とらせんなよ。そういうの一番嫌い」


「なんでそんなひどいこというの……私、そんなに尻軽に見えるの? 酷いよ……」


「だからそういうの一番嫌いだっつの。金は腐るほどあるが時間は有限なんだよ。さっさと認めろ」


「……許して」


 許すも何もない。今はそんなことはどうだっていい。問題はその先にある。


「よし、じゃあお前の浮気相手と一緒に俺ん家までこい」


「お願い許して。そんなつもりなかったの。きちんと別れるから、ね?」


「聞き分けの悪い奴だな。黙って男引っ提げて俺ん家までくりゃいいんだよ。それともその手の輩でも送ってやろうか?」


「……わかった」


 こうして待つこと数十分、由美子は浮気相手を引っ提げてのこのことと家に到着した。う~ん、見れば見るほどいい男じゃないか。俺の言ういい男というのは、男の俺が見ても股間に来るものがあるという意味だ。男のくせに安産型の尻とくびれとか反則だろうが、どうなっているんだこの世の中は。なにか間違えているんじゃないか?


「……つれてきたよ。これで、いい?」


「ああ、ご苦労だったな。もう帰っていいぞ」


「へ!?」


 素っ頓狂な声を上げる由美子をよそに、俺はさっそく服を脱ぐ。むしろ脱がない理由が見つからないといったところだ。


「お、おい。なんで脱ぎ始めてんだよ」


 男は困惑した様子でたじろいでいるがもう遅い。俺の中で黒いガイアがもっと輝けと言っているのだ。一度抜き身になった刃が何もせずに鞘に収まると思うてか。


「なにボケっとしてんだ。お前も脱ぐんだよ」


「はあ!?」


「はあじゃねえだろ。こっちはもう既に準備万端だぞ」


「いやいやいや! なんで俺まで脱ぐ必要があるんだよ!」


「てめぇ人の、それも金田財閥の一人息子の女寝取るっつー大罪を犯しておいて、服の1枚も脱げねぇのか! こりゃお前のア○ルに無理矢理教え込む必要があるみたいだな!」


 そこから先は、語るに汚すぎるので割愛させて頂くが、終始由美子は我々の情事を泣きながら見ていたようだ。ことが終わると、由美子は何も言わずに出ていってしまったし、男は俺の息子なしには生きていけない体になった。


 だが、結果的にこれは間違いではなかった。この男、なかなかの有能な男であり、後に私の右腕として活躍するのは又別の話。























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