2章5節:それぞれの戦闘2

 ディードは最後の魔矢を叩き落とし、後ろに跳んでいく。

 「予定変更って?」と水の文字が見え状況を簡潔に説明する。


 まず、人差し指にはめている指輪を見せ、これが魔法通信機と言う代物だと言う。これは初撃を与えた後、距離を取る前にズボンのポケットに忍ばされていたと呆れ声で語られる。


 そして、その魔法通信機を忍ばせた人物はディードの知り合いもとい以前の家族で彼を探していたと。

 無論、此方の逃走に協力し以後も同行する話運びになっていた。魔法通信機はリザ之助にも渡すように言ってあると続けた後、ボコボコになっている顔を回復させながらギャスが口を開く。


「それふぇ、そふぇふぁよふぇいふぇんふぉふふぃふぁんふぁ?」


 呂律も回っていない様で、何を言っているのか分からずよく聞き取れない。


「おい、ギャス。真面目な話してる時にふざけた顔して、分けの分からない事を言ってんじゃねぇ」


 大きく跳び、太い木の枝に着地すると周囲を見渡しながら彼はそう行った。


「どっちがふざけてんのよ!!! 人を武器みたいに振り回した癖して!!!」


 多少なりは回復し、ちゃんと喋るようになったが今度はキャラが完全に崩れていた。


「魔力がもうギリギリなんだよ、しょうが無いだろ。で、さっきは何を言いたかったんだ」


 彼が防衛に行使している壁自体の魔力消費はそこまで大きくはない。だが、壁の耐久度自体はあまり高くなく、完全防ぐには何重にも発生させる必要がある。そのため結果的に非常に魔力消費が激しくなってしまっているのだ。


「いや、だからってちょっと酷くない? 一応、私さ・・・・・・」


 彼に聞こえないぐらいの声量でギャスは独り言を呟く。


「おい、早く。時間がない」

「はいはい、それで何か方針が変わったの? って言ったの」


 木の根が凍り付き始めたのを確認し、ディードは他の木に移りながら口を開く。


「今回逃げるつもりだったが、向こうを撤退させるように仕向ける。まぁ、俺らは耐えてアリスが狩るってだけだがな」


 別の木の枝に着地と同時に、下から魔矢が迫り来るが半透明の壁でそれを全て防ぐ。


「スラ、まだ余裕はあるか?」


 そう問いかけると「まだまだ余裕だよ」と書かれる。


「よし、じゃぁ防衛は任せる。氷女は無視でいい。ただ、凍結の妨害だけは頼むぞ」

 「一旦、完全に浮かせて、油断させるんだね」と書かれた。

「流石。エルフは相変わらずなのが嫌らしいな」


 と彼がぼやくとスラは力強く頷いた。


「後、ギャス。語尾無くなって口調変わったままだぞ」


 そう言うと同時に枝から跳び退ける。枝は何かに直後に切断される。

 木の根本にはクロードが居り細身の剣を振り上げている姿があった。

 体をひねり体勢を直しつつ、凍った地面に着地すると白い息を吐きながらクロードを睨む。

 2人は何の合図もなしに同時に同じ方向に走りだした。


「邪魔」


 と、呟きながらギャスを投げ捨て、ハルバートを両の手で構え直す。そして、走る方向を変え彼目掛けて走り始めた。


「おっと・・・・・・」


 クロードは立ち止まり、右肩を引き、左手を前に出して突くような構えを取る。そして左手で狙いを定め、剣先に魔力を纏わせる。

 一歩前に踏み出し突き出すと、纏わせた魔力が射出され衝撃波が発生し一直線上を魔力で串刺しにする。だが、ディードは右に一度跳び避けると、着地と同時に得物を振り上げながら跳躍し間合いを一気に詰めた。


 間合いに入りハルバートを振り下ろすが、体を傾けながら剣でいなされる。

 その様子を息を切らしながら追いつこうと走っているミラは遠目で見ていた。攻撃、防衛、反撃、回避、攻撃。と繰り返し行われる2人の攻防を観察しどのタイミングで援護に入るか、思案していたのだ。


「どうしよぉ、凍結は相殺されちゃうし・・・・・・」


 彼女が得意としているのは自信の魔力を神装武具である氷槍獄装ひょうそうごくそう‐ヴァジュランダを母体にし、対象の凍結だった。

 この手段以外の攻撃方法は、もっぱらランスであるヴァジュランダを使用しての突撃ぐらいしか知らないし出来ない。そもそも戦闘経験が浅く、ランスを平気で振るう始末である。


 今回の場合、無闇に突撃してしまうと逆に邪魔になってしまったり、相手の攻撃の機転となりえる可能性があると経験が浅いながらも答えを出していた。自身が相手の眼中に"ない"事も。


 ディードが空中に発生させた壁を足場にし跳び、クロードの攻撃を避け後ろを取る光景が映る。


「クロードおにちゃ・・・・・・!」


 彼はそれを察知し攻撃を間一髪避けると、距離を取る様子を見てミラは安堵のため息をつく。


──いやいや、こんな事をしてる場合じゃないです!


 ダメ元でランスを地面に突き刺し、魔法を発動させる。すると、地面が凍結し始め、凍結した箇所は1本の道のようにして2人が戦っている場所に向かっていく。

 程なくして戦っている一面の地面が凍結するも、対象が凍結する様子もなく何事もなかったかのように戦闘は続いていた。


「やっぱり、でも!」


 別の手段を考え始めた矢先の事だった。何かが飛来し、彼女の肩に突き刺さる。


「きゃ──!」


 倒れこみ、肩に何が刺さったのか確認すると歪な形の矢が突き刺さっていた。

 痛みで涙目になりながらも、矢を抜きヴァジュランダを引き抜くとその場を移動する。


「ふ、伏兵が居るなんて聞いていないですぅ!」


 ディードは横目で走って逃げていくミラを見て通信を飛ばす。


「よし、リザ助。後は手筈通りに」

『分かりました』


 突かれた剣を弾きながら、後退し距離を取ると深呼吸をして話しかける。


「さて、ハーレム君。どうするよ」


 先ほど、「片付けた」とアリスから通信が入り、予め遠目の場所で伏兵として配置しておいたリザ之助は、いい感じに牽制としての役割を終え合流場所の安全確認に向かってもらっている。


 博打要素の1つとしてリザ之助との連携もあったが、アリスのおかげでその心配も無くなったのは大きかった。そして、この状況はクロード達から見ればこの場所にディードとスラ、アリスが向かってきているのに加えて数も戦力も不明な伏兵が存在する状況になっていた。


「・・・・・・そうだね。これ以上は流石にまずいから引かせてもらうよ」


 彼は、そう言い残すと離れていった。

 姿が見えなくなり、ハルバードを消すとディードはその場に座り込み「辛かったー」と呟き戦闘中の事を考え始める。手筈通り防衛はスラに任せてディードは攻撃に専念していた。まともな攻撃魔法が使えないとはいえ、クロードに傷1つ付けられていない現実に頭を抱えた。


「くっそ、どうあがいても倒せる気せんぞ」



 奇襲を警戒し、木が盾になるようにしながら走り抜ける。


『ごめん、そっちほとんど援護出来なかった』


 シャローネから通信が飛んで来て「仕方ないよ」と返しながらミラを拾う。

 傷口を見る限り毒の類は塗られている様子はなく、傷も浅い。

 ただ、相当痛かったのか、奇襲にびっくりしたのか、クロードに抱きつき泣きじゃくる彼女を見て苦笑いを浮かべながら頭を撫でてやる。


「さて、アリスさんの対処また考えないとね」

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