2章4節:それぞれの戦闘1

 複数の魔矢がアリスの後方から接近し捉えるも、彼女は一瞬にして消え魔矢は地面に突き刺さる。


『後方警戒!』

「分かってる!」


 応答ながら、大剣を瞬時に持ち替え地面に突き刺す。

 すると彼女を囲う形で地面に円を描くように赤い線が引かれた。そして、その赤い線から炎の壁がせり上がる。直後その炎の壁に何かが接触、一部がはじけ飛び瞬時に再生し、赤い線に亀裂が入った。


──何度か見てきたけど、相変わらずの速さ。目で追いきれりゃしない。


 2波、3波と続き壁は弾けては再生を繰り返しているが、線の亀裂は防ぐ事に増えていっていた。

 すると、上空から1発の砲撃、複数の魔矢が攻撃が繰り返されている方向に殺到する。が、瞬時にリリーシャスに向かって反撃がなされ、予め貼っていた数枚の半透明の壁を難なく破壊し、腕を掠め切り傷を作る。


『くぅ! この程度じゃダメですわね・・・・・・!』


 そう言いながら彼女は更に壁を再生成し、攻撃を繰り返しつつ対象から距離を開けていく。

 レストは左手をかざし、1つの炎の弾を作り出す。


「なんとか追い込めない?」

『ボクだけだと、手数が、足りないよ』

「なら、アレやる?」


 炎の弾を浮かせながら小さく分離させていく。


『ッ! ディヴァイン、音声認証、モードモア!』


 「イエッサー」とディヴァインから音声が発せられ分離し、変形を始めた。

 隙を埋めるように、攻撃を引き継ぐかのように魔矢がアリスの居る方に飛び去っていく。


 ディヴァインは、彼女を覆うように展開していき至る所に小さな魔法陣が浮かび上がっていく。最終的に球体の形を取り彼女は中にすっぽりと収まってしまった。

 魔法陣から銃身が形成されイガグリのような姿へと変貌する。


『タイミングは、合わせる』


 シャローネは追加の魔矢を撃ち放つ。

 リリーシャスの真っ暗な視界にぼんやりと周辺の魔力反応の箇所が浮かび上がった。敵、アリスの位置を確認し言葉を発する。


『おねがいしますわ。全砲門───』


 全ての砲門が反応し、魔力が集まっていく。


『発射ァ───ッ!!!!!』


 それぞれの砲門から砲撃が始まり、レストの細かく炎の弾も殺到し、魔矢も合わさりアリスの魔力反応があった周囲に雨のように降り注ぐ。

 普通の相手であればこれで勝敗は決するだろう。

 砲撃は続き、炎の弾も間隔を置きながら放たれていく。


『大きいの、いく。位置を』


 幾つかの魔矢が空で円を描き、そして魔法陣を描いていく。


『位置は、くぅ!』


 再び貼っていた壁が破壊され、幾つかの砲門が飛来した何かに斬られ爆発する。

 同時に魔力反応が消え、ディヴァインの内部は真っ暗になった。


「無駄乳!」

『まだ、大丈夫ですわ。位置は、わたくしから見て、1時方向、距離約400m!』

『了──』


 魔法陣を1つの微かに振動した魔矢が通り、大きさが約2倍になった。


『解ッ!!』


 指定された箇所に速度も著しく早くなった大きな魔矢が飛んでいき、数瞬後に爆発、爆発音と共に爆風が辺りを駆け抜けていく。


『更に距離を取りますわよ。ディヴァイン、音声認証、モードキャノン』


 再び、「イエッサー」と音声が発せられ、変形し元の砲の形へと戻る。ただし、ダメージを受けた影響で花が飛び散っていた。


「りょうか──」


 何かを感じ取り、未だ突き刺している剣を抜きながら飛びのける。すると、衝撃波が地面を伝い襲ってきた。それは炎の壁を難なく破壊し、レストが立っていた場所を通り更に突き進んでいく。


『壁、再生成、可能まで、何分?』


 レストは急いで立ち上がり、走り始める。


「張れても、後10分ほしい」

『と、すると、もう1度張れるか怪しいですわね』

「そもそも魔力ももう少ないし、張る方向はなしかな。で、そっちは?」


 リリーシャスは後退しつつ、ディヴァインに目線を向け、状況を説明する。


「此方は攻撃は支障なさそうですわ。ただ、魔力感知に少々支障が出ていて・・・・・・簡潔にいいますと使い物になりませんわね」


 ノイズまみれでろくに機能していない魔力探知の画面を見て、ため息をつく。


『そういや、魔物軍は?』

「さっきほどの攻撃の巻き添えで、ほとんど反応が消滅してましたわよ」

『普通は、そう、だよね』


 呆れ声でシャローネがそう返す。

 レストに続き、リリーシャスも残存魔力が少なくなっていた。戦闘出来たとしても後数分が限度といった所だろう。

 まともに戦えるのはシャローネ1人。寄られれば退場。中、遠距離戦も互角か此方が押される現状時間稼ぎも難しくなっていた。


──せめて、アリスさんの足を止められれば、この状態だろうと勝機はいくらでも・・・・・・。


 すると、右手の半透明の非常に薄い壁のような板のような物が後方から現れ視界にはいる。それは防衛に使われる壁より更に薄く、複数枚連なって1つの細長い道のようになっていた。

 彼女はそれが何かを知っており、驚きの表情を浮かべた。

 後方から、道を伝って先ほどレストを襲った"衝撃波"が迫っていたのだ。

 急いで回避行動に移るが既に遅かった。


「セバス、コアを──」


 衝撃波は彼女の腕を切り裂き、ディヴァインをも切り裂く。直後、ディヴァインが爆発した。


「無駄ち・・・・・・リリー!!」


 レストは叫びながら立ち止まり、爆発音がし黒煙が立ち込める場所に目線を送る。

 黒煙から片腕を失ったリリーシャスが落下する光景が映る。


『大丈夫、多分、死んで、ない!』

「あんの馬鹿、司令塔が真っ先に落ちてどうすんのよ!」


 悪態をつきながら、大剣を再び地面に突き刺し盾のように構える。すると、何かが剣に接触し強い衝撃が身体に伝わる。


「此処は私が支えるからシャローネはリリーを!」

『・・・・・・分かった』


 彼女の周囲を複数の魔矢が旋回し始める。


「此方に回せる残弾ね」


 そのまま防御姿勢のまま2発目に備えるが、来る様子は無く不気味な静けさがレストを襲った。

 殺気はするのに、寒気がするのにそれでいて静か。彼女の頬を冷や汗が伝う。


「追撃して来ないってどういう・・・・・・ッ!」


 気配を感じ取り、剣を引き抜き半回転しながら薙ぐが空を切るだけだった。

 辺りを見渡し、苦笑いを浮かべ独りでに口が動く。


「あぁ、怖いなぁ」


 大剣を逆手に持ち替えると、炎が広がり盾のような形を取る。

 そして、殺気が特に強い方向に盾を向けると、盾を撫でるような斬撃によって出来上がった1筋の線から火花が飛び散りる。

 すると額から血を流し、至る所が焦げ、ボロボロになっているアリスの姿が一瞬見え姿を消す。


「思ったより、ダメージは・・・・・・」


 体を捻りながら盾を動かし、次の攻撃を受ける。今度は2つの斬撃がさきほどとほぼ"同じ"箇所に命中し火花が飛び散る。


 彼女は高速で移動せず、後ろに飛びながらもう1発、地を這う衝撃波とは違う衝撃波が直撃する。すると、大剣に1本の小さなヒビが入った。更に一服置いてもう1撃飛来するが、複数の魔矢が盾となり難を逃れる。

 防御にまわしていた魔力を消し盾となっていた剣を元に戻すと、順手に持ち替え体勢を整え直す。


──防衛に回って時間稼ぎしようとしても攻撃を重ねて、バルムンクが破壊される。からといって攻撃に転じてもすぐに倒される。


 体を傾け後ろに倒れるように跳ぶと、先ほど立っていた場所に攻撃が飛来し地面に直撃、砂煙が発生する。

 レストは攻撃が見えているわけではなかった。ただ、"勘"を頼りに防衛し回避していた。


 体勢を整え直そうとするが、再び衝撃波が接近し、咄嗟に剣でかばう。衝撃が身体を伝わり、ヒビが更に入る。

 明確な反撃手段も少ない。


 一瞬で距離を詰められ、更にもう一撃ヒビに入っている箇所に攻撃が入る。

 遂にはバルムンクの剣身が攻撃に耐え切れず、折られた。

 だが、レストは剣を、神装武具を破壊されたにも関わらず不敵な笑いを浮かべていた。


「"寄った、わね?"」


 そう言うと、いつの間にか左手に持っていた炎を纏っている片手剣を突き出す。

 だが直後に左腕に衝撃が走り、弾き飛ばされてしまった。


「これも、これでも」


──ダメ。なの?


 次の瞬間レストを数発の斬撃が襲った。

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