第15話 ロリコンと変態紳士《ロリコン》


 ロリーコーン! きっと可愛いロリ達が出てくる物語ストーリーに飢えているロリコンに告げる!

 この『ロリと結婚したら世界が変わった』を読むのだ!

 さすれば新たな道……露里魂コリコン道が開けるだろう。




 いつもと変わらぬ朝、ギラギラと太陽が僕達を照りつける中、僕達はしおり女子学園へと足を進めていた。


 「いや~それにしても最近暑いよね」


 額に浮かぶ汗を拭いながら隣を歩く愛莉を見る。


 「はい。少ししか外に出ていないはずなのに私も汗が出てきそうです」


 先程まで冷房の効いた車に乗っていたせいもあってか、基本的に涼しい場所になるように設計されているここだが、それでもここ最近は暑さに耐えられなくなる時がある。

 最近は記録的な暑さが続いており、地面も十分すぎるほど熱くなってしまっているのも原因かもしれない。

 しかしまぁ昔の自分ならこれくらい平気なのにな……と、思ってしまう。

 そう思うと、少しくらいの暑さでも大丈夫な庶民の暮らしも良かったのかもしれない。

 まさかここにきてそんなことを思うとは思ってもみなかったよ。

 周りを見てみるが、やはり他の子もみんな汗を流している。

 と、そんな時だった。


 「おはようございますロリコン先輩っ!」


 後ろからこの暑さを跳ね返しそうなくらい元気な声で挨拶をかけられる。

 振り返るとそこには愛莉達と身長はさほど変わらない巨乳の金髪少女が立っていた。


 「うん、おはようたちばなさん」

 「おはようございます、橘先輩」

 「うん、おはよう朝武さん♪」


 この子の名前はたちばな すみれ

 村井むらいさんと同じ中三で、この前色々な事案を生んでしまったケイドロで知り合った子で、あれ以来僕を見かけるとちょくちょく声をかけてくれるようになった。

 この『ロリコン先輩』は彼女がケイドロ終了後に僕に付けたあだ名で、そのせいか気が付けば色々な人が僕のことを『ロリコン先輩』だの『ロリ先輩』だの『ロリパイ』だの『変態腐れロリコン先輩』だの言ってくるようになった。

 ちなみにそれに伴い教師からの視線も自然と集まるようになった。

 恐らく要注意人物扱いになってる。


 「今日は暑いですね〜」

 「そうだね。今日も隣の街で最高気温更新されたみたいだし」

 「そうなんですかっ!? それは暑いわけですね……あはは」


 苦笑いを浮かべる橘さん。

 まぁ気持ちもわかる。

 ここのところ毎日のようにどこかで最高気温が更新されているもんな……それを聞かされるだけでこっちまで暑くなる気がするってもんだ。


 「おはようございますロリ先輩、今日も両手に花……じゃなくて両手にロリですね」

 「うん、おはよう。良かったら君も入ってみる?」

 「相変わらずのロリコンっぷりですね。私は用事があるので遠慮しておきます」


 そう言って茶髪の女の子は校舎の中へ。


 「拓海さん、この学園に慣れてきたのはいいですが余り必要以上に口説いたらダメですよ……?」

 「あ、は、はい」


 愛莉はぷくーっと頬を膨らませる。


 「あはは、ロリコン先輩って本当に愛されてますね」


 愉快そうに笑いながら僕の正面に立ち、下から覗き込むように見つめる。

 彼女は僕と愛莉の関係を知っている。

 もちろん僕達から話したわけではなく、どうやら僕達の空気を感じてそう確信を得たらしい。


 「可愛い彼女さんなんですからあんまり嫉妬させてはダメですよ」

 「善処します」

 「さ、それよりも早く中に入りましょロリコン先輩。中はクーラーも効いてて涼しいはずなので♪」


 そう言い残し、校舎の方へ駆け足で向かう橘さん。

 僕達は一瞬視線を絡ませ、橘さんのあとを追った。


 そして……校舎に入った僕達は…………


 「な、なんだ……これは……」

 「こんなことって、こんなことって……」

 「何があったんでしょうか……」


 絶望し、思わずその場で膝をつく。

 それもそのはずで、涼しいと思っていたはずの中は……外よりも数倍暑かったのだ。




 「あ〜つ〜い〜……」


 溶けるように机に突っ伏すなぎささん。

 応急処置として、各教室に扇風機を置いたもののこの数日快適な温度で過ごしてきたせいか、やはりこの暑さは応えるものがあるようだ。

 ちなみに渚さんは村井さんのところから通っているようで、僕と同じように良い生活をしている。


 「あはは……なんかしおり高校に戻った気分ですね渚さん」

 「そうだね〜。そういえばうちの高校もこんなんだったっけ……理事長にかけ合って各教室にクーラーを置いてもらおうかな」

 「流石渚さん、やることが大胆ですね」

 「だってぇ、こ〜んないい設備を知っちゃったら戻れないでしょ〜。あー机冷たくて気持ちいい……」


 言ってることはなんとなくわかるが、今隣で机に頰擦りしているのが我が高校の会長だと思うとなんか複雑だ。


 「失礼します……わぁ、ここも暑いですね」


 そう言いながら制服である薄ピンク色を基調としたワンピースを身にまとった少女が額に汗を浮かべながらこちらへ困ったような表情を浮かべながらやってくる。


 「村井さんおはよう」

 「華っちおはよ〜」

 「はい。おはようございます、みなとさん、渚さん」


 いつ見ても丁寧な挨拶。

 こういったところも含めて僕達との世界の差を感じさせられる。


 「すみませんこのような事になってしまって」


 このような事……それはこの学園の電源装置に異常が発生し、ほとんどの電気を使うシステムが停止してしまったのだ。

 とはいっても扉は手動だし、エレベーターはあるものの、階段もあるので正直困ることといえば電気が付かないことと冷房が使えない事くらいだ。

 ……大問題だな、うん。


 「ううん、大丈夫だよ〜むしろしおり高校のことを思い出したよ〜」

 「あはは、僕も」


 流石に身体が昔の感覚を思い出したのか、この暑さに慣れてきた僕達は身体を起こし、机と椅子を用意する。

 村井さんがここに来るということは何かがあったということだ。


 「それなら良かったです……では失礼します。それで時間がないのですみませんが手短に話しますね」


 座ると同時にある紙を僕達に配る。


 「これは、泥棒?」

 「……はい」


 この瞬間、僕達の顔つきは険しいものへと変わる。

 それもそのはずだ、何故ならここはロリ達の集まる学園……そして僕達は変態紳士ロリコン同盟!! これはロリ達の日常を脅かす大事件!

 なんともうらやま──ゲフンゲフン、けしからん犯人を捕まえてやるぞおおおおおおおおお!!!!!!

 密かに闘士を燃やしつつ、表ではあくまで冷静を装う。


 「ちなみにこの事はみんなに」

 「いいえ、まだです。先程起きたばかりというのもありますし、一応被害にあった子にも心苦しいですが極秘に……」

 「なるほど」


 こんなこと、本来なら起きてはいけないことだ。

 学園のイメージもある……そのために僕達は秘密裏に、これ以上被害が広がる前に犯人を捕まえなければならない。


 「とりあえず体育の授業があるタイミングで見回りに行こうと思います」

 「体育のタイミング……ですか?」

 「はい。恐らく犯人はそのタイミングで盗みをはたらくと思うので……確証はありませんが」


 仮に僕がやるとしたらそのタイミングを逃すはずがない。

 何故なら今は電力システムが落ちているため、どこもザルになっている。

 その上自分たちのいる場所から離れたところにある更衣室に脱ぎたての制服などを置くことになる体育の授業は犯人からしたら格好の餌食だろう。


 「それならすみませんが、湊さんお願いします」

 「合点!」


 こうして、僕達の下着泥棒捕獲作戦が始まった。




 ──キーンコーンカーンコーン。


 三限目の始まりのチャイムが鳴る。

 予めそれぞれのクラスの今日の時間割を教えてもらった僕はチャイムが鳴る共に特別教室からダッシュ。

 本来なら僕も体育の授業に出るはずなのだが、今回は事が事なので渚さんに全てを任せ僕は更衣室の見張りに徹する。


 入口は僕が今見張っている扉の一ヶ所しかない。

 窓はあるが小学生がかろうじて通れるくらいの広さしかないので間違いなくそこからの侵入は不可能。

 と、なれば犯人はここから入ることになるのだが、僕はそこである疑問が浮かんだ。

 僕はさっきなんの疑いもなく犯人は体育の授業を狙うと思ったが、どうしてそう思ったのか……だ。

 この学園のシステムは完璧で一部を除いた外部には決して些細な情報さえ漏らさないようになっている。

 電力システムが落ちたから外部侵入者が……と、考えたりもしたがそもそもここはそう簡単に見つけられる場所ではない。

 そうなると内部の人だが、ここの学園は徹底しているため教師も全て女性なのだ。

 つまりそんなことをやるような人は…………。


 「……まてよ」


 ここで僕は最悪の結末を脳内に描く。

 こんなことをするような人はなにも知らない人からしたらこの学園の教師や生徒の中で唯一の男の僕くらいだ。

 そしてもし、もしもだ、今盗みが起きてしまった場合、僕のアリバイを証明できる人はいない。

 防犯カメラが生きていれば……とも思ったがそもそもの話だ。


 「ひょっとしたら……僕は今とてもマズイ状況なのでは」


 そう思ったその時だった。


 「君、そこで何をしている?」

 「やばいっ!?」


 背後から突然声が聞こえ、すぐさま距離を取りつつ振り返る。

 するとそこには青い制服を着た警備員の男性が立っていた。


 「君は……体験入学の生徒……かな?」


 男性はこちらを何か疑うような目でじろじろと観察する。


 「はい。湊拓海と言います」

 「湊拓海……そうか、君が……」

 「何か?」

 「いや、なんでもない。こちらの話だ。ところで君はここで何をしていたのかね? 返答によっては……」


 警備員はポケットに手を当てる。

 恐らくあそこに無線機か何かが入っているのだろう、僕としてもこれ以上あらぬ誤解を受けるのは勘弁したい。


 「僕は村井さん……総生徒会長から盗難事件の話を聞いたんです」

 「村井様から?」

 「はい。それで犯人が狙うならこの時間かと思って……それで張り込みを。なんか誤解させてしまったみたいですみません」

 「…………」


 あくまでもまだこちらを怪しいと言わんばかりに見つめる。

 しかし、


 「ま、そういう事ならわかった君を信じるよ」

 「ありがとうございます」

 「実は俺も同じ要件でここに来ていてね、まさか俺と同じ考えの人がいるなんて思わなかったよ」

 「あはは、奇遇ですね」


 お互い笑い合う。

 とりあえず誤解が解けたみたいでよかった。


 「でも君はまだ学生なんだからきちんと授業に出ないとダメだよ」

 「はい。それはすみません」

 「ま、やんちゃしたい気持ちはわかるけどね。ほら俺は何も見なかったことにしてあげるから早く戻りなさいな」

 「わかりました。すみません色々と」

 「いいってことよ。学生の安全を守るのが俺達の仕事だから」


 そう言って警備員の男性は親指を立てる。

 僕は一礼してその場を離れる。

 警備員がいるならきっと大丈夫だ……そう思いながら。

 しかし現実は甘くなかった。


 「また、下着泥棒が……?」


 僕は暗い表情を浮かべる村井さんからの報告を聞いてその場で立ち尽くす。

 これは自分の思い描いた最悪のシナリオに向けて動き出そうとしていたからだ。


 「はい。それも盗まれたのは……丁度三限目の体育の授業の時です」

 「…………」

 「拓海くん……」


 その報告に今まで黙っていた渚さんまで僕の方へと近付く。

 言いたいことはわかる。

 そしてこれから言われるであろう事も、


 「その……湊さん。これから言うことはあくまでも確信ではなく疑いということを忘れないでください」

 「……はい」

 「今回の一件で、湊さんの名前が上がってしまいました」

 「──ッ!」


 僕は唇を噛み締める。

 最初の報告を聞いた時からわかっていた……そしてここまで考慮していなかった僕に自己嫌悪してしまいそうだ。

 そもそもあの警備員の人がいるからどうなんだ。

 いくらあの人があそこを怪しいと思っていてもずっとその場にいるとは限らない。

 恐らく犯人はあの人が少し離れたスキを狙って盗んだんだ。


 「くそっ!!」


 悔しさから思わず机に拳を振りかざす。

 ゴンッ! という鈍い音と共に、机に触れた部分に痛みが走る。


 「すみません湊さん……私も色々手を尽くしたんですが……」

 「……大丈夫です。悪いのは僕であって村井さんは何も悪くないです」


 そうは言ってもダメージは大きい。

 そして更に追い打ちをかけるように村井さんは申し訳なさそうな顔で話を続ける。


 「湊さん、すみませんが……この件が片付くまでは本当に必要な時以外、教室から出ないようにお願いしまとのことです」

 「まぁそうなるよね」

 「あと教室から出る場合は誰かと一緒に……だそうです」

 「わかりました。…………よしっ!」


 僕は沈みそうになった気持ちをリセットするべく頬を強めに叩く。

 一回失敗したくらいでなんだ、それに読みは当たっていた。

 つまり僕の考えはいいところまでいっていたということだ。

 それならもっと上手くやればいい、ただそれだけだ。

 それに一つだけ気になることもある。


 「ふふっ、拓海くん失敗したって言うのにやる気満々だねぇー」

 「もちろんです。一回失敗したくらいでめげていられませんからね」

 「あの湊さん、私にも協力できる事があったら言ってください。出来る範囲は限られますがその範囲内でしたら全力でサポートします!」

 「ありがとう村井さん」


 と、そこで僕はあるゲームを思い出す。

 そのゲームでは今の僕と似たような状況になっている主人公が出てくる……もちろん僕がやったことあるわけではなく、全部友人から聞かされた話なのだが、その友人はそのシーンがえらく気に入ったみたいで何回も話すものだから自然と頭の中に入っていた。


 ……試してみる価値はあるかもしれない、それにもしかしたら。


 「ねぇ二人ともちょっといいかな?」

 「うん、どうしたの?」

 「何かいい案でも浮かびましたか?」

 「まぁちょっとした作戦だけどね」


 そう考えた僕は二人にその作戦をそっと耳打ちをする。

 もしかしたら犯人が聞いているかもしれないので念には念を……というやつだ。

 僕の作戦をうんうんと相槌を打ちながら聞くと二人は目を輝かせ、


 「それいい作戦ですね!!」

 「まさに今の状況には持ってこいですね」

 「じゃあこの作戦を──」

 「「はいっ!」」


 こうして僕達の下着泥棒捕獲作戦パート2が始まろうとしていた。



 ──キーンコーンカーンコーン。

 四限目の始まりを告げるチャイムが鳴る。


 『こちらローリワン配置に着きました、ローリツー、ローリスリーどうぞ』

 『こちらローリツー! ローリワンの言った場所に待機しています』

 『こちらローリスリー、今シャワー室の中へ入りました。これからシャワーを浴びますので覗かないでくださいねローリワン』

 『こちらローリワン了解』

 『ローリツーは覗いてもいいですか?』

 『ダメです』

 『しょぼん』

 『……あの、渚さん覗くはダメですからね?』

 『はぁい』

 『とにかくこれより下着泥棒捕獲作戦パート2を始めます』

 『らじゃーです!』

 『スポブラジャーです!』

 『『…………』』


 なんとも言えない空気が漂う。

 この作戦は至ってシンプルなだけに誰か一人でもヘマをやらかしたらダメな作戦だ。

 今村井さんが使っているシャワー室は廊下から入る部屋設置されているもので、ここに入るためにはこの僕達が見張っている廊下を通らなければならない、そして万が一怪しい人物がシャワー室に入った場合、僕と渚さんで出てきた犯人を捕まえられるのだ。

 いくら手慣れているとはいっても部屋から出た時はシャワー室の方に警戒が向いているはずなので捕まえやすいはず。

 あとは僕達が学園を歩きながら今日は暑いから「シャワーでも浴びたいね〜」とか「これからシャワー浴びようかな」という話をわざと周りにも聞こえる声で話をしたので上手く犯人が乗っかってくれるかどうかなのだが…………。


 「……誰か来た」


 僕は手を床につき、全集中力を耳と床についた手に回す。

 流石に相手の姿を直接見るわけにもいかないので足音、振動、歩行速度から可能な限りの情報を引き出す。


 「これは……男性か。多分そこまで若くない……」


 移動はゆっくりだったが、確実に村井さんの入っているシャワー室に向かっていることも読み取れる。

 つまり、彼が犯人である可能性が高い。

 ……よし、入った。


 『こちらローリワン、マル秘のシャワー室への侵入を確認、ローリツーは予定の場所へ移動、ローリスリーは気付かないフリをしたままその場で待機』

 『了解!』

 『らじゃーです……』


 「待ってろよ犯人……僕が必ず捕まえてやるからな!」


 僕達はすぐさま持ち場へ移動。

 本来ならばシャワー室の中に監視カメラを置いて決定的瞬間を録画したいところだが、犯人に気付かれる可能性もあれば、気付かれないようにうえの方に仕掛けてしまえば村井さんの全裸まで映ってしまう可能性もある。

 それにそんなことをした事がバレたら今度はどんな罰が下るかわかったもんじゃない。

 だからこそ犯人が村井さんの下着を持って出てきてくれることを祈るのみなのだが…………っと。

 シャワー室の扉が開く。

 予めローリスリーには何かのトラブルでシャワー室から出る時は連絡を寄越すように言っていたが、ローリスリーからの連絡はなし……つまり犯人。


 『こちらローリワンマル秘が出てくる、総員備えて!』

 『合点!』


 扉が少しずつ音を立てずに開く。

 犯人が出てくるまで3……2……1……今!

 僕達は犯人が扉を閉めた瞬間を狙ってそのまま襲いかかるように一気に距離を詰める!!


 「止まりなさい! あなたはもう包囲されています、諦めて大人しくしてくださ…………い?」


 僕はそこにいた犯人を見て固まってしまう。

 それもそのはずで、そこにいたのは青い制服を着た警備員の人だったのだ。

 だがこれもある程度予想していた……しかし予想していたとはいえ、まさか本当に警備員だと思っていなかったのもあって驚きで固まってしまったのだ。

 その上今目の前にいる警備員は。


 「おじさん……どうして?」

 「君は、湊拓海くんか。まさか君にまた会えるとはね」


 おじさんは参ったと言わんばかりに首を振る。

 しかし僕は溢れ出る感情を抑えきれなかった。


 「どうして生徒の安全を守るのが仕事のあなたが下着泥棒なんてしているんですか!!」

 「僕だって……僕だって…………まだ愛莉のパンツを握りしめたことなんてないのにっ!!」

 「え、怒るところそこなの?」

 「あっはっはっ、それは残念だったね湊拓海くん、でも勘違いしないで欲しい、俺は下着泥棒じゃない、盗んでいるわけではなく借りているだけだ。後でちゃんと返す」

 「なん……だと……っ!?」

 「本来ならすぐに返すつもりだったのだが、ちょっとしたトラブルが起きてしまってね。そのせいで返すタイミングを逃してしまってこのザマさ」

 「じゃあ今ある三つの下着は?」

 「もちろん、放課後までには返すつもりさ、だから見逃してくれないかな? それに俺も君と同じロリコンだからさ」

 「同じロリコン……ね」

 「あぁ、そうだよ。君もロリコンなんだろ? 俺にはわかる、似たような臭いがするからな」


 男の目は完全に救いを求めるような目だった。

 ロリコン……この人もロリコンだと言った。

 だけど、僕は…………。


 「貴方と拓海くんを一緒にしないでッ!!」


 突然大きな声が聞こえた。

 僕達はそちらへと視線を向けると、そこには顔を真っ赤にして怒っている渚さんが立っていた。


 「な、なんだよ……ロリコンならみんな同じ、仲間だろ?」

 「確かに変態紳士ロリコンはみんな仲間です……」

 「な、そうだろ──」

 「でもっ!」


 男の声を遮るように声を荒らげる。

 今が授業中だということを知っててもなお、感情を抑えきれなかったのだろう。


 「ロリコンと変態紳士ロリコンは仲間ではありません!!」

 「ロリコンとロリコン?」

 「いいえ、ロリコンと変態紳士ロリコンですっ!」

 「何が違うというんだ? 君達だって、ロリコンである事を馬鹿にされたことはないのか!? ただ小さい女の子が好きいうだけでロリコンと指さされ、惨めにさげすまれ、肩身の狭い思いをしなかったのか!!?」

 「していません!」

 「なら君達に俺の苦しみなんてわかりはしないっ!」

 「はい! わからないです! わかりたくもありません!」

 「くっ!!」

 「でも、苦しんだのはあなたがロリコンであって変態紳士ロリコンではなかったからです!」

 「だから何が違うって言うんだよ!」


 男の声が廊下に響く。

 二人共完全に今が授業中だということを忘れてしまっているな。


 と、そこでシャワー室の扉が開かれ、少し頬を赤らめた村井さんが顔を出す。


 「えーっと、今はどうなっているのかな?」

 「警備員のおじさんと変態紳士ロリコン同盟会長の一騎打ちですね」

 「???」


 僕達の目の前でまだ話し合いは続く。


 「彼も私も確かに社会からしたらロリコンです。変な目で見られてしまいます……」

 「だろ? 俺は好きでなったわけじゃない……趣味なんだ。小さい女の子をめでるのは趣味なだけなんだ!」

 「そこなんですよ。いいですか、よく聞いてください。私達はあなたのような中途半端な気待ちでやってません。ロリコンは趣味じゃない、生き様だ。この全日本変態紳士ロリコン同盟前会長の意思を継いで私達はロリコンをしているんです」

 「全日本……変態紳士ロリコン同盟……」


 ※そんな団体は現実にもこの世界にも存在しません。


 「はい。初代会長ロリータ・アイ・シテル会長は言いました。『例え相手がロリでも愛さえあれば関係ないヨネ!』と……私達もそう思っています。無垢なる愛はロリにこそ向けるものなのです。ですがあなたの向ける愛は無垢なる愛ですか? いいえ、欲にまみれています」

 「うぅ……」

 「現に私は隠していますが、全校生徒にバレてしまっている拓海くんはロリコンであるにも関わらず、ここのロリみんなから愛されています。因果応報……その言葉のとおり拓海くんはロリに対して無垢なる愛……つまり良い行いをしてきました。それが今、ロリ達から愛されるという良い報いとなって返ってきているのです」

 「因果応報……」

 「会長……カッコイイですね、湊さん」

 「あぁ。やっぱり変態紳士ロリコン同盟会長の名は伊達じゃないよ……」


 犯人が完全に抵抗する気力を失い、その場で座り込んだ頃、騒ぎを嗅ぎつけた先生達がぞろぞろと集まってくる。

 あとは先生達に説明をして任せれば大丈夫だろう。


 「説明は私がしておくから二人は戻っていいよ」


 村井さんからアイコンタクトでそう告げられた僕達はそのままその場を去ることにした。

 そして会長は去り際に警備員のおじさんに向かって、


 「もし……あなたが変態紳士ロリコンとして生まれ変わった後、もう一度出会えたらその時は歓迎しますよ」


 その言葉を聞いた警備員のおじさんはその場で泣き崩れた。

 僕は渚さん……会長の後を誇りある変態紳士ロリコン同盟の貧乳組リーダーとしてしっかりと後について行った。




 「はぁ〜……疲れたぁ〜」


 溶けるように机に突っ伏す渚さん。

 あの後、あれだけ騒いだせいで結局この事がバレてしまい、学内新聞の記事になってしまった。

 そこまではいいのだが、記事のタイトルが『正義の変態紳士ロリコン、悪のロリコンを捕まえる!』

 という見出しになって、思いっきり僕と渚さんのことが取り上げられていたのだ。

 そのせいで僕達は学内のヒーロー扱い。

 渚さんは会長という立場からロリ会長とか言われることとなった。


 「失礼します、ロリコン先輩っ♪」

 「あぁ、いらっしゃい橘さん」

 「おやおや、二人共お疲れですねあはは……これ、よかったら食べてください、調理実習で余ったやつですけど」


 そう言って橘さんはレモンのはちみつ漬けの入ったタッパーを机の上に置く。

 

 「ありがとう橘ちゃん……んん〜ッ!! このレモン美味しい! 疲れた身体に染み込んでくるよぉ〜」

 「それは良かったです。これを食べて明日からもっと元気に! ……って、明日は土曜日なので元々休めますよね」


 てへっと舌を出す橘さん。


 「そう言えばうちの総生徒会長を見ませんでしたか?」

 「村井さん?」

 「はい、あの騒ぎのあとから見かけなくって……先輩達にお願いなんですが、もし総生徒会長を見つけたら生徒会室に来てくださいってお願いします」

 「生徒会室?」

 「あ、私これでも天華会の書記なので。ではこれから生徒会室に行かないとなので、総生徒会長の件お願いしますね」


 それだけ言うと橘さんはそのまま生徒会室へと向かっていった。





 ──結局、帰る時間になっても村井さんは見つからなかった。


 「じゃあ私は村井さん探しに行ってくるから」

 「うん、また月曜日」

 「月曜日元気な状態で会おうね♪ あ、それか土日にお店にきてもいいよ、店長も寂しがってたし」

 「あはは。時間があったらお邪魔するかも」

 「楽しみにしてるね♪ じゃあばいばい〜」


 教室から出ていく渚さんを見送り、僕はスマホへと視線を落とす。

 準備が出来たら愛優さんから連絡が来るはずなのだが、今日はどうしてか中々連絡が来ない。

 本を読んだりして時間を潰すがそれも飽きてきた……僕は思いつきで探索してみることにした。

 そしてここは階段。


 「あっ──」


 二階から三階へと続く階段の先、そこに僕はある人物の影を見かける。


 「村井さーん」

 「ひゃうっ!!」

 「??」


 声をかけただけなのに何故かスカートを抑え驚きの声をあげる。


 「み、湊さん……こんにちは。今から帰りですか?」

 「ううん。僕はまだだよ、愛優さん……愛莉あいりのメイドさんの連絡待ち」

 「そうなんですか」


 こんな何気ない会話を続けるが、村井さんの表情は少し硬く、未だにスカートを抑えたままだ。

 まぁ階段の上と下にいるからスカートを抑えるのもおかしくはないが、それにしてもやけに必死に見えるのが気になる。


 「あの村井さんどうかしたの?」

 「ど、どうかとは?」

 「その……さっきから必死にスカートを抑えているみたいだけど」

 「そ、そんなことはないですにょ?」

 「にょ?」

 「あ、いえ……そんなことはないので気にしないでください──ひゃっ!」


 その時、どこかの窓を開けていたのか強い風が廊下を吹き抜けた。

 突然の強風に驚いたのか、うっかり抑えていたスカートを離してしまった村井さん。

 先程まで必死に抑えていたスカートはその強風によって無慈悲にめくられて、スカートの中にある布地が……


 「な、ななななななっ!!?」


 まぁ奥の布地くらいなら……と、心のどこかで思ってしまっていたのだろう、目を逸らすタイミングを完全に失った僕はそのままめくられたスカートの中を凝視してしまう。

 それもそのはずで、スカートの中身は僕が思い描いていた光景から遥か斜め上をいっていたのだ。

 本来なら奥の布地によって絶対に見えない領域……。

 例えるならそう、あの日有名なユーリイガガーリンはこう言った……「地球は青かった」と。

 ならば僕は今日こう言おう……「恥丘は白かった」。

 奥に見えたのは遠目からは一切何も生えていないように見える綺麗な白い肌でした。

 ほんの数秒間の出来事です。

 あまりの出来事にお互い静止してしまったが、スカートが元の位置に戻るのを合図に僕達の時は動き出す。


 「きゃあああああぁぁぁぁぁっ!!!!」

 「うえええぇぇぇぇえぇえぇっ!!!」


 仲良く同時に悲鳴をあげる。


 「なんで湊さんまで悲鳴をあげているんですかっ!!」

 「いやだって、村井さん……うえぇぇっ!?」

 「その反応って事は……〜〜ッ!!! 見たんですね! わ、私の……大切な所……を、見たんですよね?」


 重要な部分が小声すぎて聞こえなかったが、なんとなく言いたいことはわかる。

 だから答えは言える。


 「……見てませんにょ?」

 「嘘です嘘です! 答えた時目を逸らしました、ぜぇ〜〜ったいに私の……を見ました! どうせ、身体は大人なのにあ、あそこは子供……とか、変態紳士ロリコン同盟のリーダーがロリっぽいとかきっとそんな事を思ってるんですよぅ……」

 「大丈夫例え村井さんのあそこがつるつるでもそんなことは思わないから!」

 「ほらやっぱり見てるじゃないですかぁ!」


 今にも泣き出しそうな顔でこちらを見つめる。


 「いや、その、えーっと……ありがとうございます?」

 「そこは謝るべきですよ……うっうっ……きっと湊さんの記憶にはしっかりと焼き付けられているはず、そうなるともうこうなったら二人で死ぬしか……」

 「怖い怖い。なんとか生きる道を探そうよ、ね?」


 村井さんってこんなキャラだっけ? と思いつつなんとかなだめる。


 「こうなったら私が湊さんのを見てウィンウィンに……」

 「それ僕も捕まるし、僕のモノを見たら村井さんきっと気分悪くしちゃうから誰も得をしないよね?」


 村井さんみたいな女の子にはそういったイメージがあるのでそこをついてみることに。


 「うっ、確かにそれはあるかもですが……」

 「ね? とりあえず僕も忘れる努力をするから」

 「……信じていいんですか?」

 「うん。ほら僕って変態紳士ロリコン同盟貧乳組のリーダーだし? 同じリーダー同士信じ合わないと(?)」

 「そ、そうですよね……」


 なんとか落ち着きを取り戻してくれたのか、口調も僕が知っている総生徒会長のものとなっていた。

 しかしその総生徒会長がノーパンなのは変わらないので、僕達はとりあえず近くの教室……と言っても村井さんのクラスの教室に入ることにした。


 「うぅ〜……さっきよりは恥ずかしくないですが、やっばりすーすーして変な気持ちです」


 そう言いながらスカートを抑える。

 スカートの下はノーパン……この単語だけでどれほどの男子が落とせるだろうか。

 そんなことを思いつつ、僕はふと疑問に思ったことを聞いてみる。


 「そういえば村井さんはどうしてその、履いてないの?」

 「……湊さんって意外とデリカシーがないですよね」

 「ごめんなさい」

 「まぁ今更なのでいいですけど……その私が履いて、ない……という話ですよね? 簡単に話しますと重要な証拠になるから〜ってことで一時証拠品として預けられているんです」

 「へぇ〜」


 女子中学生のパンツをそんな理由で独占とは警察の方もやりますねぇ。


 「でもどうしてノーパンなの? 体操着とかもあったでしょ?」

 「あっ……」


 僕のその言葉に村井さんは固まってしまう。

 僕達……つまり庶民からしたら女子のスカートの中はパンツ、ではなく体操着という夢も希望もない答えというのを知っている。

 しかしここに来て……というか今分かったのは、少なくともこの学園に通っている子は体操着のズボンを履くという文化を知らないということ。

 やっぱりそういったところも警戒しなくていいのは僕達の世界とは違うからなのかな。

 僕は村井さんが後ろで体操着を履いている間、そんなことを考えていた。



 履き終わった村井さんは「もういいですよ」と一言。


 「制服の下に体操着って初めてなのですが、意外と悪くないですね」


 僕は村井さんの姿を観察。

 いくらお嬢様学園の制服とはいえ、やはり制服は制服、下に体操着を着ていても全然わからない。


 「うん、僕達……って言っても男子は完全に別れるけど女子では結構やってる人多いからね」

 「では渚さんも?」

 「渚さんは……どうだろう? しているイメージもあればないイメージもあるし……今度本人に聞いてみたら?」

 「はい、そうしてみます! それにしても本当によくこんなことを思いつきますね。これならパンツを見られることもないですし、なんだか安心できます」

 「それが目的でしている人のほうが多いから」

 「他にも何かあるんですか?」

 「これは僕の推測だけど、体育の時とかすぐに着替えられるとかかな? ほら、下に履いておけばスカートだけ脱いであとは上だけ……ってここだと上も下もないけどね」


 しおり女子学園の制服はワンピース型なので脱ぐ時は恐らく上から全部脱ぐことになるだろうし。

 その時、タイミングよく僕のスマホに通知が届く。


 「愛優さんからだ」

 「迎えですか?」

 「うん、そうみたい……っと、そういえば渚さんが村井さんのことを探していたの忘れていた」

 「あ、そうでした。渚さんには悪いことをしてしまいました」

 「渚さんの方については僕からcocoaで昇降口でって連絡しておくから」

 「何から何まですみません」

 「まぁ罪滅ぼしにね……」

 「? 何か言いましたか?」

 「ううん、なんでもないよ」


 こうして僕と村井さんによるノーパン事件に膜は降りた。

 それから数ヶ月間もの間、普通にしているように装いながら、この日の白くてつるつるした恥丘の事が頭から消えなかったことは言うまでもない。

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