単位円『モジュラー』上のNULL『ヌル』
@$cls->func1(); 進化的軍拡競争
それは、僕達の街の治安に関わる緊急ニュースだった。
街の小中学校は臨時休校になり、
両親達の迎えで混乱が起きていた。
ドーラ人のギャングの幹部が刑務所から脱走したそうだ。
「チルダ? チルダ?」
チルダには僕の問いかけは届いていなかった。
彼女はまるで魂を感じないロボットのように
ただニュース報道のただ一点をじっと見つめていた。
「え……?」
チルダはやっと我に帰ってくれたようだ。
僕は投影を止めた※スマホ をズボンのポケットにしまいこんだ。
「せ、先輩ごめん」
「僕はいいけど。悩み事とかあれば言えよ」
「ありがと……」
チルダは僕に感情を読まれたく無いのか、
前屈みにした長い前髪で瞳を隠し、
見せてはくれなかった。
「ところで、もう夕方だしそろそろ帰らない?」
「あたしは自分で帰るから、先輩先に帰りなよ! 」
「もう暗いから家の近くまで送るよ」
「ごめん……。 あたしの家は先輩達の家とは逆方向だし」
チルダはうつむき加減でばつが悪そうに僕にそう言った。
「了解」
この質問をしたのは何回目だろう?
チルダの、まるで瞑想する修行者の石像のように
ぴくりとも動かない答えに僕は渋々同意した。
チルダは僕やクオーリア先輩の住んでいる場所からはかなり遠く離れた住居区に住んでいる。
チルダの話では、ドーラ人の住居区は山岳の不便な場所に
集中していて、アース人の住居区との間には高い壁と鉄格子があるそうだ。
そして、アース人がドーラ人の住居区に入ることは許されるが、
その逆は原則許されていない。
チルダは国の制度を利用し、学校に通う理由でのみ特別に
アース人の住居区に入れるビザを持っているそうだ。
この日僕はチルダより先に帰るフリをした。
そして、チルダが帰る時に見つからないように
後ろめたさや背徳感を引きずりながら跡をつけることにした。
電車で一時間は走っただろうか。
電車の終点の駅で彼女は降りた。
すぐ目の前には住居区を分ける高い壁がそびえていた。
銃を持った軍服の門番が目を光らせていたので、
チルダが行ってだいぶ時間を空けてから僕は門をくぐることにした。
僕は無事に門をくぐり、チルダの住むドーラ人の住居区に入ることができた。
僕は、真相を確かめずにはいられなかった。
ドーラ人の住居区は、アース人達からは
『鬼の住む街』と言われ恐れられているからだ。
※スマホ
この世界は21世紀の地球よりも科学が発達しています。
通常は
空中に浮かべて使用者の周りを自転しながら公転する極小
ただし、
緊急連絡以外は
に作られた代用端末であるスマートフォンしか使えないように義務化されています。
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