プロローグ

Δx・Δp>=エイチバー/2 宇宙はみえない仕組みで出来ている

tan

『自分の本当の気持ちを捨ててまでつき従って、

それで本当に、君は幸せなの?』

まるでアメリカの政策に従う日本のように

受け身な性格をした

遥か遠い星にうまれた僕は

この言葉の重みを生涯忘れる事は無かった。   



sin

みんな、どうしてあたしを仲間外れにするの?

お父さんとお母さんはあたしに言うの。

友達に宗教の事を聞かれたり、人種の事を聞かれたりしても、

決して答えちゃだって。

小学6年生のあたしには理由がわからなかったから

ある時、あたしはお母さんに訳を聞いた。

お母さんが言うには、あたしが生まれる前の今から16年前。

この年、この国の大都市で悲惨な事件が起きたらしい。

その時からあたし達に対する風当たりがより強くなったらしいんだけど、それ以上はお母さんはあたしに教えてくれなかった。



6年後……。



tan

僕は、いや、僕が一番

ストイックな彼女sinの気持ちをわかっちゃ

いなかったんだ。


僕は自分自身の評価や生活レベルを落とすのが

怖かった。

だから、だから。

僕と同じ立場の仲間同士で

つるんで彼女sinを守りながら

悪と称されるあいつを捕まえ

先輩cosを救ったんだ。

彼女sinのココロは置き去りにして……。


しかし、

あいつだけは違った。

幼なじみの僕tan、彼女sin、そして、あいつ。

あいつは自分が悪役をかってでた。

そして、あいつは、世界中から恨まれながら彼女sinのココロだけは惹き付けながら生きてきた。

彼女sinは今でも、あいつにしか本当の笑顔を見せてはくれない……。


この世界には2つの組織がある。

裕福でズル賢いクソッタレな正義のヒーロー達と、貧しくても強靭な誇りを持ち続けるあいつら悪役だ。

そして、この原点の物語は、それらの確執をのり超える為の

答えを探すsin,cos,tan 僕ら三人の青春ストーリーなんだ。


一一一一一一一一一一一一一一一一一一一

遥か昔。

この星には先住民族のドーマ人が暮らしていた。

彼らは高度な文明を持たず、大自然にかこまれながら

自給自足の暮らしをしていた。

しかし、ある時、アース人という異星人がこの星にやってきて

この星を征服してしまった。

彼らアース人は、高度な科学文明とアース教と呼ばれる独特な宗教を持っていて、

地底深くにシェルと呼ばれる地下空間と、ゲートと呼ばれる門のような特殊な宗教施設を作った。

そして、毎日ドーマ人の中から神とする人を一人を選んで、

地下のゲートへと運ぶ。

ゲートをくぐったドーマ人はその後、まるで神隠しにあったかのように

ぷっつりと消息を断ってしまう。

ドーマ人達はそのアース人の一方的で身勝手な儀式をイケニエと呼び、

自分や家族、恋人、大切な人が選ばれないことを必死で祈りながら生き延びるしかなかった。


月日は流れて現代になり、科学技術は目覚ましく発達した。

この星は沢山の星からの移民を受け入れ、

他に類をみない巨大な銀河メガシティになっていた。

人権や価値観の多様化が尊重される社会にはなったのだが……。


ドーマ人に対する差別やアース教の神を生むイケニエの儀式は今だに続いている。

沢山のアース人の命が奪われた同時多発テロから

今年でちょうど22年が経とうとしていた。



一一一一一一一一一一一一一一一一一一一

【登場人物紹介】

◇アーレス

自称 僕

男女共学の私立高校に通う二年生。

理論的な考え方を好む理系男子。

科学部に入っている。


◇クオーリア

自称 私

アーレスと同じ高校に通う三年生。

明るく人当たりがよく雰囲気ムードメーカー的なリケジョ女子高生。

アーレスの科学部の先輩。


◇チルダ

自称 あたし(たまに私)

アーレスと同じ高校に通う一年生。

科学部の幽霊部員。

クオーリアによって自分の意志とは関係無しに強引に科学部に入部されられた。

活動に参加せずただ毎日部室に来るだけでいいという条件で。

そのため、部室ではいつもやる気はない。



一一一一一一一一一一一一一一一一一一一

一とある高校の一室一


「え?今日部活やるんですか?今日はバイトがあるんで。

明日だったら僕は大丈夫ですが、

先輩は、明日の都合どうですか?」


「ごめんアーレス。明日は私、他に用事があって……」


「えー? バイトや習い事も無く、浮いた話も一切無い先輩に用事?

それ、本当ですか?」


「ちょっと何よ! その堪にさわる言い方!

私だってプライベートの用事の一つや2つあるわよ!

全くもう!」

不機嫌なひょっとこのような表情をした先輩は、

僕にそっぽを向きそう吐き捨てた。


「アハハ! すみません、先輩。

……、ところで、その用事って、つ……つまりデートですか?」


「ち、違う違うわよ!」


「そんな顔を赤くして慌てられると、隠してるのバレバレですよ」


「本当に違うの。

まあ、幼なじみのあんたになら話しても差し障りないから話すわ。

あのね、明日はお父さんの命日だから、墓参りに行きたいの」

それは僕の予想に反した答えだった。


「……。その、話辛いこと聞いてすみません」


「そんな、大丈夫よ」



まるでエンジェルのように

綺麗にパーマの入った薄い黄金色の長い髪。

そしてなにより先輩の顔は童顔で小柄である。

だから、僕と先輩が一緒に行動する時は

周りからよく兄妹だと思われるんだ。


僕が『先輩』と呼ぶそんなクオーリア先輩は、

僕より学年が一つ上で科学部の部長だ。

まあ部員と言っても、部員は先輩と僕、後輩の三人だけだが……。

先輩のお父さんは、22年前の同時多発テロの犠牲になって亡くなっている。


「私は前を向いて生きるって誓ったの」

この星の黄星タイヨウが沈もうとしていた。

先輩の鏡の様に澄んだ瞳は、紅くキラキラと反射し、

この街の理想の未来を映しているようだった。



翌日、

僕は、先輩のお父さんのお墓参りについていくことは出来なかった。

もちろん、先輩と先輩のお父さん、アース人達の問題だから

僕が部外者って言うのもあったんだけど、

いけない理由はもっと複雑だったんだ。


僕はいつものように、毎日下校時刻まで部室で読書ばかりしている、学年が一つ下の後輩に会いに部室へと足を運んだ。


「先輩ですか。お疲れです」

僕が部室に入るやいなや、

僕のほうを向かずにそう答えたのは……、

おとなしく読書している頭脳明晰な少女などでは無い。


僕や先輩が持ってきた漫画を退屈そうに読んでいる

負けん気の強そうな少女だ。


「よう、チルダ。

またクラスで問題を起こしたらしいな!」


「あ~、あれですかね」

チルダは、視線を追おうとする僕から目をそらし、

ばつが悪そうな笑顔を作りごまかした。


「……」


「……」

僕とチルダ、たった二人だけの部室にちょっと気まずい空気が流れた。


正直なところ、チルダの、図太くて我の強い性格は置いておいて、

容姿だけで言えば、可愛い分類に入ると思う。

長身で日焼けした紫髪の美少女と言えば伝わるだろうか?

民族差別とかのしがらみが無ければ、きっとクラスでモテモテだったに違い無い。



「あのさ……、」

最初に沈黙を破ったのは僕のほうだった。


「お前がさ、クラスの連中に嫌がらせされて

大変なのはわかる。

でもな……」


「ごめん、あたしもわかってる。

先輩と部長には本当に助けられているし。

クオーリア先輩が私の事で生徒会や先生に度々呼び出されている

こともね。

でもね、私の周りは敵だらけだから……」


「ごめん、僕はチルダを責めるつもりじゃないんだ。

君が、抱えている問題を、問題を起こす前に

僕達に話して欲しいんだ」


「先輩達に散々お世話になっておきながら、

どうしようがあたしの自由なんてわがままは言えないっていうのはわかってる。

でも、あたしの事で先輩達を巻き込みたく無いから、

話したく……ない」

チルダの目は必死だった。


「わかったよ。チルダが話せるような時で大丈夫だから」


「うん……。わかった」

チルダは決して僕に心を見せてくれない。

彼女を部に連れてきた先輩でさえも、

チルダの本心が解らない時があるらしい。


『ビー!ビー!ビー!』

突然、僕のスマホ(サブ携帯用端末)に緊急速報が入った。

僕は部室のホワイトボードにそのニュースを投影した。







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