第7話 エピローグ

 東北の夏は涼しいと思って居たのに、この街にも暑さはしっかりとやってきた。

「昔もこんなに暑かったっけ? これってきっと、最近流行りの温暖化のせいだと思うの」

 十七年前を思い返し芙美は顔を手でパタパタと仰ぐが、特に効果を得ることはできなかった。

「まぁ、しょうがないんじゃないのか? 夏なんだし」

 寮を出るとき、ばったりと修司に会った次第だ。いつも一緒だったメグは、すっかり祐との登下校サイクルを作ってしまった。登校とはいえ、校舎までのたった数百メートルの距離なのだが、二人にとっては大事なひと時らしく、今朝もメグが早くからヘアセットに勤しんでいた。

 弘人と薫が魔法使いを放棄してから数日。五月を過ぎて、制服は待ちに待ったセーラー服へと衣替えした。あの日以来二人からの連絡は途絶えたままだ。

 ミナはあの日、予告通り高熱を出して、三日間も寝込んでしまった。その期間、授業が空くたびに夏樹が足しげく寮母室へ通い、男子たちのブーイングを受けながらも、二人はすっかり生徒公認の仲になってしまった。

 ミナも満更でもない様子だが、その真意は誰にもわからない。

 昇降口を潜って靴を出したところで、先に履き替えて待っていた修司が「そういえば」と切り出した。

「ミナに聞いたけど、町子のおばあさんに会いに行くんだって?」

「そうなの! ミナさんが夏樹に頼んでくれたの」

 もしやと思ってミナに相談したら、彼女の一声で夏樹は二つ返事で了承してくれたのだ。恋のパワーの偉大さに感心してしまう。

「良かったな」

「うん。ミナも一緒に、って条件付きだけど。それでも良かった」

 両親が亡くなって、町子も夏樹も祖母に育てられた。芙美が生まれ変わって、弘人の次に会いたかった人だ。

「ねぇ修司、生きてると叶う夢ってあるんだね」

「年寄り臭いこと言ってんな」

「この世に三十年以上生きてるんだから仕方ないでしょ? それでね、おばあちゃんに会えたら、ただいまって言ってみようかと思う」

 悪戯っぽく笑って、芙美は歩き出した修司の横にぴったりと並んだ。

「そうだな。今すぐは無理だけど、俺も町子の弟に過去の事を全部話して謝りたいって思うよ」

「修司……」

 町子と類の話をいつか夏樹に出来る時が来るだろうか。そうなったら良いと思う。

「ありがとね」

 見上げる視線に、修司は少し驚いた顔をしつつ「あぁ」と返事する。

 ひゅう、っと風が吹いた。

 キィキィと声がする。

ボンという破裂音と共に現れたのは、二人の身長をゆうに超えた、壁のような魔翔だった。今までの奴等とは比べ物にならないレベル。けれど、もう恐いとは思わない。

「行きますか」

 横目に修司を見上げて、芙美はポケットから杖を取り出した。

                                      end

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恋した魔法少女 栗栖蛍 @chrischris

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