第4話「家族」

 泥棒家業は、時間との闘いだ。

 早すぎれば、ヴァンパイアかミサイルの餌食えじきに、遅すぎれば同業者に先を越される。

 場合によっては、同業者……人間と争う事も、少なくはなかった。

 だから、いつも必要以上に武装して行く。


 仕事となる場所は、軍の無線を盗聴するか、手っ取り早く、兵士を買収して攻撃場所を聞くかで決まる。

 兵士を買収するのは、兵士たちが副業(泥棒)をしないようにする保険にもなっていた。


「さて、軍の攻撃も終わったようだし、いつも通り、外周から始めるとするか」


 軍の持つ紫外線弾は、人間にも影響を及ぼす為、影響の少ない町の外周へ、トラックを走らせた。


「シュー! 生き残りだ! そっちへ行ったぞ!」


 半身を焼かれたヴァンパイアが、シューレット目掛けて襲いかかって来た。

 ヴァンパイアの吸血行為は、食欲を満たす為だけでなく、傷などの再生にも影響を及ぼす。


「軍の奴らめ、手抜きしよって!」


 シューレットは、腰にあるリボルバーを素早く抜くと、全弾放ってヴァンパイアを仕留めた。


 この仕事を一緒にする前に、シューは俺にこう言った。


「1発で仕留めようと思うな。例え、人間が相手でも、必ず2発以上撃つ癖を付けておけ。幾ら武器が高くても、自分の命を買ってると思うようにするんだ。この時代で生き残りたかったらな」


 まだ夜が明けぬ空を見つめながら、シューレットは仕事の終わりを告げた。


「まだ生き残りが、居るかもしれんな」


「いつもの7割だが、ずらかろう」


「そうだな、帰ろう」


 盗む物は主に決まっていて、宝石や武器、中の部品が高く売れそうな電化製品。

 金は、見つければ頂く位が丁度いい。

 金庫がある家は、それ盗んでおしまいなおだが、中身が借用書だけでガッカリすることも多かった。

 食料は、自給自足をしてるから盗む必要は無いのだが、盗む途中で冷蔵庫を開け、摘み食いすることはある。

 とにかく、時間をかけないことが鉄則だった。


 盗んだ荷物をトラックに載せる際、シューレットは大きなクマのヌイグルミを見つけた。


「なんだ? これは?」


「いいだろう?」


「お前……こんな趣味が!」


「そんな訳ねぇだろ! クレアにだよ、ク・レ・ア! オモチャ屋を見つけたから、ついでに盗んだんだ。クレアには、帰りに買ったってことにしといてくれ」


 クレアとは、シューレットの孫娘で15歳になる。

 目の前でヴァンパイアに両親を殺され、そのショックから、口が利けなくなっていた。


「泥棒家業が、板に付いてきたようだな」


 そう言うと、シューレットは嬉しそうに微笑んだ。


「だな、もう1年かぁ……」


 俺は、まだクレアの声を聞けていない。


「ところで、今日も行くのか?」


「あぁ」


 満月の日は、必ず出掛けるようにしていた。

 それは、シューの所で暮らすようになった、初めての満月の夜。

 異常なほどに喉が乾き、幾ら水を飲んでも、それを抑えることは出来なかった。

 そして、寝ているクレアを見た瞬間、それが何を意味していたのかが解った。


 俺は……血を求めているのか……。


 その日は、多量の睡眠薬を飲み、強引に眠ることによってなんとか凌いだが、これから一緒に暮らしていくには、満月の夜だけは避けなければならないと実感した。

 母との約束と偽って、満月の夜は、墓参りをすることにしている。


「お前は、ワシらの家族だ。それだけは忘れんでくれ」


 シューは、墓参りする度に優しい言葉を掛けてくれた。


「ありがとう」


 寝ているクレアの横にそっとヌイグルミを置き、夜が明ける前に家を出た。


 母の墓は、墓と呼べるものではない。

 この時代は、多くの犠牲者が出過ぎた為に、墓を作らず、海に流したり、森に埋めて土に帰す事が多かった。

 タカヤの母も、深い森の中にある大樹の下に眠っている。


「母さん、俺は幸せにくらしてるよ……満月の日以外はね」


 まるで母に抱かれるように大樹に腰掛け、月を仰ぎながら話しかけた。

 そのまま眠りにつこうかと思った時、異様な気配に包まれた。


「……誰だ! そこに居るのは!」


「この森の中で、かなりの数のヴァンパイアが殺されている。ドラキュラでさえもだ」


 その男の声には重量感があり、まるで森全体に響くような印象を受けた。

 黒いローブで覆われた男は、歩むことなく空を滑るように、ゆっくりと近づいて来た。


「私はそれを確かめに……ん? 貴様、人では無いな!」

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