第11話 メニューを考えましょう

 弥生さんと睦月さんがそれぞれの手作り品を作成している時に、葉月さんは菜園に立っていました。


六月十一日がオープンの日になったんですが、その頃に出来る野菜は何になるかしら?


片づけをしている時に、三人で植えた夏野菜はさすがにまだ実をつけないでしょう。


「うーん、このレタスとキャベツは使えそうかな? 後はジャガイモが掘れるかもしれないってお姉ちゃんが言ってたな。それから空豆と玉ねぎか…。」



畑をにらみながらウムウムと考え込んでいる葉月さんは、変わった人に見えたようです。

通りすがりの人が声をかけてきました。


「あの、どうかされましたか?」


「はい?」


「なにかこの畑に困ったことでもあるんですか? ここの持ち主の方は、先日亡くなられたんですよ。」


ジーパンにTシャツ姿の若いお兄さんでしたが、どうやら近所の人のようです。


「ああ、そう言う意味での問題はありません。メニューを考えていたんです。」


葉月さんの言葉に、お兄さんはますます不思議に思ったようです。


「メニュー?」


「ええ。この畑の持ち主だったおばあちゃんの家で今度『おばあちゃんち』というカフェを開くことになったんです。私はそこの料理人なんですよ。ここの畑の野菜を美味しく食べるにはどんな料理がいいかなと考えていたんです。」


お兄さんはやっと納得したようでした。


「ああ! 看板に書いてあった。もしかしてあなたは大村さんの…。」


「はい、孫です。」


「僕は裏のアパートの村岡和馬むらおかかずまといいます。ランチがあると聞いたので楽しみにしてたんですよ。」


なんと、偶然にもおばあちゃんのアパートに住んでいる人でした。


「そうなんですか。開店しましたら、よろしくお願いします。」


「はい。…その、メニューについて希望を言ってもいいですか?」


「ええ、どんなものが食べたいですか?」


「僕はコンビニ弁当や外食が多いので、家で食べられるような料理があると嬉しいです。」


和馬さんの意見に葉月さんも頷きました。


「それは丁度良かったです。うちの店のコンセプトがおばあちゃんちに行って食べられるようなものにしようということだったので。」


それを聞いて、和馬さんの顔が満面の笑顔になりました。


その笑顔を見ているうちに、葉月さんの頭の中にもたくさんのメニューが浮かんできました。


空豆の付け出し。

新じゃがと新玉ねぎの煮っころがし。

鶏のバターソテーに、シャキシャキのレタスもつけてね。


おばあちゃんがよく作ってくれた大きな揚げを使ったきつね寿司もいいな。

初夏の野菜を入れたお吸い物も。

…………。


家に帰って、メニューを書き出してみなくっちゃ。


和馬さんと別れておばあちゃんちへ向かう葉月さんの顔も満面の笑顔になっていました。

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