第9話 工務店に頼みましょう

 山田のおばさんの弟だという工務店の人が、見積もりにやってきました。

若い職人の人が一人ついて来ています。


「こんにちは。お、すっかり片付いてるね。」

「いらっしゃいませ。どうぞあがってくださいな。」


おばあちゃんの家をざっと片付けるだけで、弥生さんと葉月さんが二人がかりで一週間かかってしまいました。


その間に睦月さんは会社に辞表を提出して、問題の後輩の女の子に自分の仕事を渡し終えたそうです。

今週末から、有給の消化のために休みを取れると言っていました。


そんな睦月さんの予定もあったので、土曜日に工務店の人に来てもらうことになりました。



「仏壇はそのままなんだね。ちょっと寿恵ひさえおばさんに挨拶をしとくよ。」


そう言って、おじさんたちは仏壇を拝んでくれました。


皆で台所に座ると、おじさんが名刺を出して名前を教えてくれました。

『妹尾工務店 取締役 妹尾せのお つよし


山田のおじさんは妹尾さんという名前だったんですね。

弥生さん達が小さい頃から山田と言っていたのは地名だったようです。


一緒について来ていた職人さんは、妹尾せのお 達也たつやさん、なんとおじさんの息子さんで、弥生さん達のふた従兄弟いとこにあたる人でした。つまり従兄弟いとこ同士の子どもということです。


小さい頃に花火を観に一緒に夏祭りに行ったことがあると言われて、なんとなく思い出しました。


そういえば、やんちゃな男の子の兄弟がいましたね。

顔立ちもおぼろげな、遠い夏の日の思い出です。



「それでどんな改装を考えてるの?」


「トイレと台所を中心に改装をお願いしたいんです。本家の方のお風呂を潰して、もう一つトイレを作ってもらって、お風呂のあまったスペースを台所に取り込んで、食器を洗える場所が作れないかなと思っているんですが…。」


「なるほどね。ここの台所から裏の蔵までの改装は、うちがしたんだよ。だから当時の配管の図面はあるんだ。」


おばあちゃんは蔵の中をバストイレ付きの寝室にしていて、台所と蔵の間は中庭風の屋根付きウッドデッキにして、そこに洗濯ものも干せるようにしていました。


どうやらそこが妹尾工務店の施工だったようです。


「ふむ、蔵の中にユニットのバストイレがあるから、直ぐに取り掛かっても不自由はないね。」

「はい。私たちは蔵の方のトイレを、従業員用にしようと言ってたんです。」


「達也、岸蔵きしくらの現場に入る前に、人数の都合がつけられるよな。」

「うん。そこで出る廃棄のもので使えるのがあるかもしれない。」


「弥生ちゃん、急がせるようだけど、今ちょうどいい改修工事を請け負っててね。料理屋が閉店してレストランになるんだ。その閉店した料理屋も三年経ってない物件だ。こちらに安く廃棄品を回せるかもしれない。もちろん綺麗にして取り付けるから少しは手数料がかかるが、リサイクル店で中古品を探すよりは安くあげられる。どうだい? そんなものでもいいか?」


「もちろんです! そちらの工事に合わせて、うちの改装をしてくださって構いませんから…。」

「ちょっと待って、姉さん。あの~、だいたいの目安でいいですから、工事期間ってわかりますか? いつを店のオープンにするか、宣伝しなければなりませんので。」


「ああ、それはもちろん。今日、これから採寸させてもらって、帰って大体の見積もりを出してみる。それでオッケーなら、工事にかかる期間を知らせるよ。」



それからあちこちをメジャーで計っているおじさんたちに、配線のことなども頼むと、消防署や保健所の審査に適うように図面を引いてみると言ってくれました。


いよいよ、本格的な改装の始まりです。

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