ひどいよ!梓さん!

雪野花

第1話 品川の魔女

(品川には、本物の魔女がいるのよ。)

 母さんは楽しそうに言ってたけど、僕はまるで信じてはいなかった。

 魔女なんていない。魔法なんて物は存在しない。

 あれはアニメとマンガの中の幻想で、現実にいるのはせいぜい胡散臭い霊能者ぐらいだ。

 お母さんは、変な宗教にでも勧誘されたんだろうか?。

(本当よー。だって同級生だもん。)

 やけに真面目そうに言うから僕は冷ややかな目で応戦した。

「いたら便利だよねー。カボチャを馬車に変えたり、ホウキで空飛んだりできるもんねーふーん。」

 冷たく言えば母さんも、むきになった。

(バカにしてるでしょ!あ、でもホウキはもってる。)

 も、持ってるんだ。

(この近くで素敵なジュエリーと雑貨のお店をやっててね。インドとイギリスの血が入ってる物凄い美人だけど、物凄く口が悪くて辛辣で、お金もってる筈なんだけど守銭奴で、へたにかかわると地獄いきかな?、頼りになるんだけどなー。)

 最低な人だな!絶対に関わりあいになりたくない!絶対に!何処が頼りになるんだ何処が!

(本当に頼りになるんだってば!ただ滅多に助けてくれないけど、ね。)

 何故か寂しそうな顔をしたから、聞いてみた。

「お母さんも、助けてもらったの?。」

 母さんは苦笑いして、ポツリといった。

「ケンカして、出禁になっちやった。」

 えぇー?。

(でもね、梓は女性と子供が本当に困っていたら、きっと助けてくれる。だから、)

 だから?。

(本当に困ったときは、行ってみて?警察署の裏にある、ハーミットって言うお店よ。)


 それは日常の、ただの雑談のはずだった。


 それから1ヶ月も経たないうちに、僕は絶対に誰かに相談しないと、どーにもなんない事態になった。

 母さんが、帰ってこない。

 最近彼氏が出来て、はしゃいでいたのは知ってる。(家は母子家庭なのだ)

(彼氏出来たー再婚するかもー。ね、いいかな?そのうち会ってくれる。?)

 はいはいそんな幸せそーな顔見せられたら、嫌って言える訳ないよね。

 でも、はしゃいでいたのは最初のうちだけ、最近ではちょっと落ち込んでるような感じだった。

 あの、(品川の魔女)雑談から3日後の夜。

「ちょっと出てくるわ。直ぐに帰って来るから先に寝ててね。」

 そのまま3週間たっても帰ってこない。

 携帯はつながらないし、勤め先からも電話が、かかってきた。出勤せず、無断欠勤になってるって。

 おサイフ携帯にお金が入っていたのかも知れないけど、財布も置きっぱなし、携帯以外、何も持ち出してない。

 財布の中の現金で食べるのはなんとかなったし、キャッシュカードやクレジットカードの番号も知ってる。でも、何時までもこのままって訳にはいかない。母さんを捜さないと。

(警察って事件性が無いと、確か捜査とかはしてくれないんだよね。でも相談しないとどうしょもないし、学校の帰りに警察署に)

 警察署?、警察署警察署警察署.................

 魔女!品川の魔女だ!母さんがケンカして、出禁になった店が警察署の裏にあったはずだ!

 相談してケンカをしたぐらいなんだから、なにか知ってるはず。

(行かなくちゃ!)

 ランドセルを引っ付かんで、僕は勢いよくドアを走り出た。

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