第2話 女装教育始動

 季節が春ともなれば自然と一学年上がり、気持ちも切り替わる。こっぴどく振られふさぎ込みがちだった俺だが、舞い散る桜が空いた心を埋めてくれたのか不思議と気分は晴れやかである。あれから三ヶ月の時間が過ぎたのだからいつまでもウジウジしていられない。

 

 気合をいれオスの群れをかき分けながら少し大股で歩いていく。そうするとたどり着く校門、コンクリート作りの堅牢な外壁は刑務所を連想させる。まあ、一日中豚箱のような空間に閉じ込められるのだから、この発想はあながち間違いではない。

 

 白帆高等学校はこの地域では唯一の男子校、ゆえに豚箱。異常にむさ苦しい。せっかくの春の燦々な気分も台無しになってしまう。

 

 正面玄関の近くに新しいクラス表が貼りだされているので、自分の名前を探し出すと、どうやら2年A組で一年を過ごすことになるみたいだ。

 

 場所を確認すると、新しい教室は三階の正面玄関からちょうど反対側にあるようだ。迷うことなく新しいクラス2年A組へとたどり着くと後ろから聞き覚えのある声がする。

 

 「かーなーたー!」

 

 「ん? 深雪か、どうした?」

 

 「どうしたじゃないよう、置いてくなんて酷いよ!」

 

 可愛らしい声と愛らしい表情で非難するショートボブの似合う彼女、もとい彼は三条深雪。男だらけのジャガイモ畑に添えられた一輪の花で、俺とは寮でルームメイトである。彼女とは、もとい彼とは幼い頃からの付き合いで、両親のいない彼を我が家が引き取る辛気臭い事情もあり、俺にとっては家族同然の存在だ。

 

 「いや、だってお前支度とか遅いし」

 

 「少しくらい待ってくれてもいいじゃん、声かけてくれてもいいじゃん」

 

 「悪い、次は声かけてから出かける」

 

 「出来れば待っていてほしいなあ……」

 

 うーむ、実に愛らしい。もしかしたらこの前までのヘドロのような感情は深雪が拭ってくれたのかもしれない。本当に辛いときは一人にしてくれて、ほんの少し辛いときはずっと傍にいてくれた。気を使ってくれたのだとしたら感謝の言葉も表さなければいけない。

 

 「ありがとうな」

 

 「えー、なんで感謝されてるの僕?」

 

 「ほら、俺のために弁当作ってくれたじゃん。しかも二つも」

 

 「それひとつ僕の分だから! やっぱり彼方が持ってたんだあ!」

 

 むず痒くなってしまったので冗談でお茶を濁した。

 

 「安心しろ、少し分けてやる」

 

 「だから僕のだってえ!」

 

 ぷんすかぷんすかと漫画の擬音が飛び出すかのようにプリプリする深雪。かわいい。

 

 「朝から元気だな」「夫婦漫才かよ」「うーす」

 

 俺たちが会話をしていると見知ったクラスメートが続々と顔を表す。

 

 「め、夫婦漫才だって……どっちがお嫁さんだろう?」

 

 「あはは、マジきもいね」

 

 時たま黒いものを出すのも深雪の魅力です。俺は馴れているのでこの程度の罵倒は何ともない。泣きたいくらい傷ついたけど何ともない、ガラスにひびが入った程度だと言えば納得いただけるだろう。もう一撃加えたらむせび泣く自信あるね。

 

 夫婦漫才を終えた俺たちは指定された席に着く。

俺の名前は鹿河彼方、目の前の美少女は三条深雪。これは昔からそうだが、席の順番はだいたいあいうえお順で並ぶ。昔からこの調子だから席に関しては心配をしていなかった。

 

 「また一緒のクラスだね」

 

 「おう」

 

 深雪と一緒のクラスなのは大変好ましい。だが、周りを見渡すと一年間ともに過ごした見苦しい顔ぶれなのがマイナスポイントだ。

 

 「クラス替えは無いのかうちの学校は」

 

 「他はクラス替えしたみたいだよ。たぶんこのクラスだけかもね」

 

 「なるほど……」

 

 このクラスの一年間の悪行は数知れないだろう。授業をまともに聞いていたのは入学して数か月程度、静かに聞いていると思えば、微かに聞こえる携帯ゲーム機のボタン連打音とか本当にひどい。教室のドアなんて一週間に一回は壊れる、直しては壊し直しては壊しを繰り返すものだから業者のおじさんとは顔見知りになった。おじさんごめんなさい、このクラスはゴリラなんだ。

 すると、俺の背後から甲高い声がする。

 

 「久しぶりぃ、カナタ!」


 「おばえっ! ぐるじいっ……!」

 

 後ろから首を絞めるように抱き着いてくるのは八草リージア。

 輝く金色の髪、親譲りの青い瞳は宝石のように輝いている。春休み前にも一緒に授業受けていたクラスの問題児のひとりである。

 

 「また同じクラスだなんて運命だね。嬉しいでしょ? 嬉しいっていいなヨ」


 「やめろ、頬ずりするなホモ野郎!」

 

 母がフランス人、父が日本人のハーフ。そのため日本人離れした見た目は深雪とまた違った儚さを備えている。

 

 「ホモじゃないよー、だいたい愛に性別なんてボクは関係ないと思うヨ」


 「彼方が嫌がってるから離れなよ、八草君」


 「んー? あ、深雪っちもおはー! どばあああああ」

 

 謎の掛け声とともに今度は深雪に飛びつくリージア。ふむ、なんとも良い景観ですね。

 

 「わわっ! やめてよ八草君!」


 「良いではないか、良いではないか! 朝は元気が一番だヨ」

 

 誰彼構わずボディタッチのスキンシップをするのがリージアの癖なのだ。これがフランスのスキンシップなのだろうか。

 

 「そういえば今日授業やるのか?」


 「今日は始業式とか挨拶だけじゃないかな?」


 「そうなのか、じゃあ弁当いらないじゃん」


 「もー、昨日お昼は公園で食べようって約束したのに!」


 「あー、そうだっけ。申し訳ない……」


 「いいなあ、僕も彼方と濃厚なお昼をしたいヨ」


 「変な言い方やめてくれませんかね!?」

 

 昼から濃厚なことするのは勘弁願いたい。いや、夜も駄目だけどね。

 

 「深雪っちがなかなか心を開いてくれなくて、ボク寂しいよー」


 「悪いな、こいつ酷い人見知りなんだ。まあ、根気よく頑張れ」

 

 容姿がよく、勉強も出来て、家事も完璧。ついでに気が利くので、お嫁さんにしたいランキングなんか実施されたときには、一位間違いなしの三条深雪ちゃん。そんな深雪の唯  一の欠点と言えば、この過度の人見知りにある。

 

 徹底して俺以外と関わろうとしないので俺も頭を悩ませているのだ。

唯一の友達と言えば、俺の元カノである四宮恵里だ。

 

 彼女との出会いも深雪あっての物種で、俺が男子校特有の寂れた学校生活を送っているのを見兼ねたのか知らないが、深雪は俺に四宮を紹介してくれた。

 

 そんな一世一代の大チャンスを棒に振ったのだから、深雪も内心怒っているのか彼女の話になると露骨に気分を損ねてしまうのだが、露骨に怒られたりはしないので、俺の日常は平々凡々と過ぎて現在に至るのであった。

 

 ただ、気にかかることと言えば、別れて以来、深雪と四宮は連絡を取っていないようだ。

 うーむ、これは何とかしなければと思うのだが、俺のほうが四宮に連絡なんて出来たものじゃないから困ったものだ。

 

 「むー、彼方も協力してヨ! ボクと深雪っちが仲良くなるように仕向けてヨ」


 「深雪、リージアと仲良くしような」


 「はーい」

 

 気のない返事をする深雪。なんだかリージアが可哀そうになってきた。

 

 「じゃあ深雪っち、試しにボクのことリージアって呼んで!」


 「………………はあ、…………………………リージア」


 「やったああああああ! 深雪っち大好きいいいいいいいいいいい!」

 

 いや、不承不承でしたけど、ため息とか混じってたけどいいの?

 そんなことはお構いなしとリージアは深雪を抱きしめている。

 深雪は困ったような視線を俺に向けてくるので、助けてあげることにした。


 「その辺にしとけリージア、深雪が発狂するぞ」


 「ぶー、ぶー、これは愛のスキンシップなんだヨ? 彼方にもしてあげようか?」


 「へいへい、そろそろ始業式が始まるから席に戻れな」


 「はーい、また今度してあげるね!」


 勘弁願いたい提案をしてリージアは席に戻って行った。

 だが、始業式の時間が来てもこのクラスの連中は始業式に向かわず、馬鹿みたいに騒ぐだけであった。


 そんなこんなで、朝からどんちゃん騒ぎであった我らA組一行。現在は先生に強制連行され始業式に参加し、静かに校長の話を聞いている。つうか寝てる。

 しかし校長先生の話はなぜこうも長いのだろうか。挨拶に始まり世間話の流れは王道なのだが、この校長は現代社会への嘆きを生徒に訴えるパートに入ると熱くなる。まるで、政治家の演説のようだ。大半の生徒は校長の話には興味なさそうに暇をしている。

 隣に座っている深雪の様子を伺うとこくりこくりと舟をこいでいる。

 

 「深雪、おーいおきろー」


 「ふえっ、どしたの?」


 「寝てたぞ、お前。退屈かもしれないけど一応起きとけ。そのうちイビキかくやつでるだろうから一緒にされるぞ」


 「うん、ありがとー。春ってぽかぽかしてるからつい……」

 

 えへへ、と反省する深雪。かわいい。

 

 「いいかね、今の社会に必要なのは独自の発想と創造なのだ! だから君たちには個々の価値観を育んでほしいのだ! そこで、今年からわが高独自の教育制度を導入することを検討している」

 

 校長の話が絶好調になり始め、ようやく本題に入ろうとする。なんだか面倒くさそうだ。

 

 「まずは、新任の教師である六道詩亜先生から説明をいただきます」

 

 校長の紹介とともに壇上にあがる長い黒髪が印象的で理知的な女性だ。おまけに普段お目にかかれないような端正な容姿をしている。ともなれば普段から女に飢えている猛獣達が反応しないわけがない。館内がざわつくのを臆せず女教師は壇上に立つ。

 

 「私が六道詩亜だ。今年度からお前たちの教育を任されている。」

 

 凛とした声が館内に響く、緊張などは一切感じられない。しかし随分と大きな態度をとるものだ。この学校は生徒だけでなく教師までゴリラなので、新任教師のあの態度はお気に召さないのではなかろうか?

 

 だが、教師一同、さらに校長まで恍惚な表情をしていた。

 

 「先ほど校長が言っていた新しい教育制度の目的だが、これから社会に出ていくためのメンタルを養い、新たなクリエイティビティを構築するのが目的だ。君たち一人一人が社会の根幹を支えるブレインとなってほしい。そして、いずれは日本のイノベーシ……」

 

 なにやら一部上場の社長みたいな講話をし始める六道、ブレインが根幹で根付くのか。

 

 「少々話がそれてしまったな。この制度はまだ実験段階のものだ、なので2年A組の生徒たちに協力してもらいたい。担任は定年退職された石井先生に代わり私が務める。

 

 「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」」


 歓喜するバカ一同だが、俺は厄介ごとを押し付けられているようで素直に喜べない。なんだかモルモットみたいで気に食わない。

 

 「どう思う深雪?」


 「きれいな先生だねー」


 「そっちじゃなくて教育制度のほう」


 「なんだろうね。具体的に何をするかわからないし何とも……彼方はどう思う?」


 「厄介ごとっぽくて嫌だな」


 「そっちじゃなくて先生のほうだよ」


 「先生? 綺麗な人だな」


 「へえー、彼方はああいう人が好みなんだ。ロングヘアー派?」


 「第一印象を述べただけだぞ。ショート派」


 「そっかー、えへへ」


 俺の回答になぜか勝ち誇ったような顔で髪を弄りながら満足している。

 教師一同は暴徒さながらの生徒を鎮静するのに必死のようだ。六道は既に壇上を降りていた。結局詳しい内容はわからずモヤモヤ状態だ。

 なんとなく六道に目を向けると気味の悪い笑みを浮かべているのが印象に残った。


 そうして退屈な始業式も終え教室に戻る一同。いまだ狂喜乱舞するクラスメート達。なかには涙を流す者までいる。どんだけ嬉しいんだよ。

 しばらく自由に過ごしていると、例の新任教師六道詩亜が教室に入ってくる。

 

 「ヒュッー、ヒュッー、待ってました!」

 

 宴会のおやじのような歓迎で迎えるが彼女は無表情。俺たちのことなど物でも見るかのような冷え切った目をしている。

 

 「今日からこのクラスの担任を務める六道だ。担当は保健体育だ。ふむ、ずいぶんと盛りの付いたオスのようだな。親愛の証としてアメちゃんをやろう」

 

 再び歓声があがる。そんなにアメちゃんが嬉しいのだろうか。いや、わかってる保健体育の部分ですよ。実技、実技、ってリズミカルに不道徳を熱唱してるんですもん。

 無表情かとおもいきや、今度はニヤついた顔をする六道。とてもじゃないが親愛している顔には見えない。

 六道は丁寧に一人一人手渡していく。律儀なものだが、この程度で俺たちの手綱を握れるとでも思ってるのか。あまい考えだ。アメだけに。

 

 「うおおおおおお、女教師の指紋のついたアメちゃんだ!」


 「染み込む、俺の細胞に先生の手垢が染み込むのを感じるよ!」


 「嗚呼! 胃液に溶かされて一体化した感じがするぞ!」

 

 調教完了である。初めての女の味はきっと甘美なものなのでしょう。

 

 「あ、俺はあまいの苦手なんでいらないっす」

 

 一人の生徒が六道の寵愛を拒んだのだが、

 

 「いいから食え――――」

 

 シンと静まり返る教室。先ほどまでの狂気が嘘のようだ、それほどまでに彼女の声は威圧感があった。きっと教師陣もこんなふうに手懐けたのかもしれん。

 俺にもアメちゃんが回ってくる。仕方がないので俺も女教師の指紋が付いたアメを細胞に染み込ませ胃液で溶かして一体化しよう。ハッカ飴か……

 

 「イチゴ味だ、おいしー」

 

 目の前の天使はアメひとつで一喜一憂するのだ。出来損ないのハッカ飴を処理しなければこの笑顔を拝めなかった。ああ、でもハッカ飴で身もだえする深雪も見てみたいなあ。

 六道のアメちゃん懐柔作戦は見事だった。効果は抜群のようで、きっと消しゴムを女子に拾ってもらった時のような何とも言えない感情が我々の中を支配しているのでしょう。

 配り終えた六道は再び教壇に戻る。


 「最初に言っておく、私は男だ」


 一瞬、時間が止まった。

 

 「あははは、冗談を」「先生おちゃめー」「ないない、美しいもの」

 どっ、と笑いが飛ぶ。そんなとんでもない設定あるわけ……目の前にとんでも設定の化身プリチープリンセスみゆきちがいるので俺は否定できないでいます。


 「信じられないか? ほれ証拠だ」


 ボロンと男の象徴が現れる。


 ツイテル――――


 「うわあああああああ、男の指紋食っちまったああああああああ!」


 「細胞が、細胞が壊死していくのを感じるうううううううううう!」


 「おろろろろrrrrrrr……おえええええええええええええ!」

 

 君たち極端すぎませんか?

 

 「ああ、少し違うな。性格には私は男じゃない、――――男の娘だ」


 「男の子? その歳で?」

 

 ブチッ、何かが切れる音がした。きっと血管の切れる音だろう。今の失言はクラス一の秀才の松下くんのもので、秀才なのに醜態をさらしているとはお笑い。今、彼の眼には六道の指から放たれたチョークが突き刺さっている。失明してなければいいね。

 

 「子じゃない娘だ。いいか、男の娘は男と女の境界線を跨ぐ狭間の概念だ。男の獰猛さと女の魅惑を兼ね備えた、一度で二度おいしいブルセラのような存在だ。これは素晴らしいことだと思わないか?」

 

 六道は舌に熱をもたせ饒舌に語りだす。

 

 「まあすぐに理解するのは難しいだろうな。だが安心しろ、お前たちもすぐに男の娘の魅力に気づくことになる。まずは新しい教育制度の話をしようじゃないか」

 

 始業式で言っていたことが話題に出てくる。なぜこのタイミングで?

 

 「まずは配布するものがある。名前を呼ぶから各自取りに来い」

 そう言うと順に名前が呼ばれる。俺もすぐ呼ばれたので受け取るとなぜか制服だった。

 

 「新しい制服かな」


 「みたいだな、一回り小さい気がするが……というかこれスカートか? まさか俺達が着るとかだったら笑えるな」


 「……」


 「深雪……?」


 「え、ああ、なんだろうね、これ。」

 

 なんだか放心している様子の深雪。そうこうしている間に全員に行き渡ったようだ。

 

 「見ての通り男の娘用の制服だ。お前たちには卒業までの間それを着て女装してもらう」

 

 ああ、やっぱり俺たちも女装するのか……っていやいやいやおかしいだろ!

 

 「ちょっと待ってくれ。なんで俺たちが女装しなきゃいけないんだよ!」

 

 しだいに教室内はどよめき立ち疑問の声が飛び交うようになる。

 

 「何かの冗談なんでしょ?」


 「冗談ではない、女装をすることによって新しい価値観や感受性を身に着け、精

 神の成長を促すことが目的だ。朝の始業式でも校長が同じようなことを言っていただろう? 女装は今後の教育方針として取り入れていくつもりだ。そうだな、この教育方針に名をつけるなら……」

 

 少し思案し、六道は大仰な素振りで宣言する。

 

 「女装教育だ――――!」


 「情操教育?」


 「違う、情操ではない女装だ。女装教育……我ながらいい響きじゃないか」


 ギャグで言っているのだろうか。すくなくともおやじギャグではある。


 「学校側はこんなふざけた方針を飲んだんですか?」

 

 たまらず六道に問いただす。

 

 「ああ、最初は相手にしてもらえなかったね。でも、教えてあげたのさ、男の娘の素晴らしさをね。もう校長は普通の女じゃ満足できないだろう」

 

 何を教えたのか気になるところだが問題はそこじゃない。

 

 「俺たちが女装を喜んでするとでも思っているんですか?」


 「するさ、女装の衝動は生半可なものじゃない。だんだん欲望が抑えられなり、いずれは自分から喜んで女装をする。お前たちも私と同じように男の娘として生まれ変わるのだ」

 

 だめだ、話にならない。そもそも意味が分からない。


 「私は全世界の男どもを男の娘にするのが夢だ。世に蔓延った不毛な男を一人残らず根絶やしにしてやる。まずは手始めにこの学校の男をすべて男の娘に染めて、私の侵略の第一歩の礎にしてやろうじゃないか」

 

 悪の首領のような目標を掲げる六道。もうついていけましぇん……

 

 「さて、ホームルームは終わりだ。詳しいことは明日話す、もう帰っていいぞ」

 

 そう言うと六道はさっさと退出をしてしまった。

 嵐は過ぎ去っていた。しかし未だにクラス内は戸惑いを隠せない模様。

 

 「なんだったんだ今の……」


 「彼方、お昼だし公園でお弁当食べよ」


 「ええ……切り替え早すぎません? もっと疑問とか不満とかあるだろ」


 「どうでもいいよ。結局さ、女装しなければいいだけの話なんだよ。あの人の言うことなんて僕達には関係ないよ。いつも通りに過ごせばなんてことない」

 

 なんだろう、いつもに増して黒いものを感じる……深雪の瞳の奥は燃えていて、ただ女装をしたくないとか、そんな理由とかじゃなく、もっと特別な意思があるような気がした。

 

 クラスの野郎どもがパラパラと帰宅を始める。皆が皆六道を嘲笑っているのにも関わらず、なぜかクラスの誰もが新しい制服を持って帰って行った。深雪も含めて。

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