男が来た理由

 男はある一つの部屋に案内された。

 そこはこのような客人と話をするために造られた接客間のようなものであった。

 すでに和尚はその部屋に座っており、男に座って楽にするよう勧めた。

 男は和尚と向かい合う形になるようすわった。男が座ったのと同じ時にさっきほどこの男の対応をしていた坊主がお茶を持ってきた。

 お茶を置き坊主がこの部屋出た数秒後に和尚は口を開いた。

「して、貴方はどのようなご用件でこられたのですかな?」

 和尚のしゃべり方はとても落ち着いていた。

 何の連絡もなしに来たというのに大事なお客様として扱うように、静かで、丁寧なものであった。

 そして男は話しだした。

「実はこれについてなのですが…」

 そう言いながら男は持ってきていた風呂敷を前にだしてきた。

「これは?」

 和尚が聞いた。

「実はこれ先日、骨董市である小像なのですが…」

 男はそこで話すのを一旦止め、少し呼吸を整えてから話し始めた。 

「実はこの小像を部屋に飾ってから、私は毎夜、悪夢にうなされているのです…」

「はぁ…悪夢ですか…」

「えぇ、それもとても不気味な悪夢なのですよ…」

「どんな内容かお聞きしてもいいですか?」

 そう聞くと一瞬男は嫌な顔したが、すぐ、しょうがないと観念し話し始めた。

「その夢では私は異国にいるのですよ…」

「異国にですか?」

「えぇ、それも石に囲まれた…大理石と言うんですかね?それで造られた廊下に立っているのですよ…」

「ほう、大理石ですか」

「そこで私は奥へと向かって行くのですが…そのさ、先にか、階段があるのですが…」

 男はだんだん息が荒くなり始め、体も小刻み震えだした。

 落ち着いてください。無理しなくでいいですからね。

 そう、和尚が声をかけると、男も自分が震えているのに気ずき息を整えてから再び話しだした。

「そこにある階段を私は降りて行くのです。どんどん、どんどんとです。そこを降りきると大きな門があるのです」

 ここで男はまた、息を整え、十分に準備ができたらしく、意を決して話しだした。

「そこで私は門を開けるのです。その先はとにかく真っ暗なのです。真っ暗。その中に私は入って行きます…ですが急に目の前がボンヤリ明るくなるのです。やがてその明かりがなんなのかじっくり見てると…」

 すると男は気が狂ったかのように大きな声をだし喚きだした。

 急だったので和尚も驚きましたが、すぐ立ち直り、男の背中をさすりながら、大丈夫ですよ…大丈夫ですよ…と繰り返した。

 さすがに今の絶叫は外にも聞こえたらしく何人もの坊主が集まって来たが、和尚は優しく、大丈夫ですから、今はあなた達の役目を心を込めておやりなさいと告げた。

 そして、坊主が全員、去ったあたりで男もだんだん冷静を取り戻してきた、和尚に対し謝っていると、和尚は逆に無理にお話させて申し訳ありせん、話はもう大丈夫ですよと答えた。

 男が再び冷静を取り戻したため和尚は元いた場所に戻り話を続けた。

「それで、その悪夢の元凶がその小像なのですね」

「えぇ、間違いなく。この小像を置き始めたからです。だが、こんな夢を見せるほどです。下手な処分をするれば余計なにか悪いことが起きそうで…」

 なるほどそれでここに来たのか。だがそれならもう一つ気になっていることがある。

 それはなぜ、わざわざ堺に住んでいるのにも関わらずこのような場所まで来てこの話をしたのか。それとなく聞いて見ると、どうやらそのような物を持っていると知られたら店の評判が下がるからだそうだ。

 近くのお寺だと、どこで話が漏れるか、わかったものではないからだというようだ。

「それで、その像と言うものはそちらの風呂敷に包まれているものでいいのですね」

 男は表情を曇らせながらうなずいた。

「それを見させてもらっていいですか?」

 和尚は若干、言葉に力を込めて言った。

 男は小さくうなずいて、覚悟してくださいね。と言い包みをといた。

 その像は独特の形をしたものだった。

 幾重にも触手が台座からはえて絡まりあい、その触手は中心にある大きな球体にまとわりついて、支えていたのである。

 だが、そんな見た目より和尚が驚いた。

 それはこの小像が放つ邪気というか、底知れぬおぞましいなにかを強烈に放っていたからだ。

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