不気味な小像

坂口航

寺の門前にて

 ある日のことでした。


 中河内郡 三宅村にあるお寺に一人の男がやってきました。

 その男はびくびくしながら門の周りを掃除をしている坊主に向かい和尚はいますか、と聞いてきた。

 坊主はこの怪しげな男はなにかよからぬことを考えているのではないかと思い。

「失礼ですが、貴方のお名前をお聞きしてもいいでしょえか」

 すると、驚いた。       

 この男は堺にある老舗の金物屋のだと言うじゃありませんか。

 そんな男が何故このような場所まで…

 坊主はますますこの男が怪しく思えてきた。

 もしかしたらこいつは身分を偽っているかもしれない。そんなやつをわざわざ和尚に会わせる必要はない。

 坊主はそう考えた。

「すいませんが今日は少しお会いすることができないのです。なので今日のところは…」

 そう言い切る前に男は必死になって頼んできた。

「ダメです!今日でなければダメなのです!この問題は今日のうちに片付けなければ…お願いします!どうか和尚に…」

 これには坊主も驚いた。

 必死の形相で、まるで鬼にでも追われてるのではないかと思われるほどであった。

 坊主はなんとか落ち着かせようとなだめるも、男は、お願いしますを繰り返すばかりであった。

 これには困った。とりあえずこのままでは埒があかないので、とりあえず和尚にこのような者か来ていると話すだけ話すことにした。

 坊主は門の前で男を待たせ和尚の所へ向かった。

 和尚は坊主から話を聞くと顎に手を当てて少し考え、わかったお通ししなさい、坊主にそう告げた。

 坊主は男を呼びため門に行くと、男は落ち着きがない様子で坊主が来たことにも気付かずうろうろしていた。

 声をかけると男はビクリと肩をすぼめて驚いた。

 坊主が、和尚がお会いになるそうです、と伝えると、男は手に持っていた風呂敷を地面に置いて坊主の手を握り、ありがとう、ありがとうと何度も呟いた。

 とても、気持ちが悪いと、坊主は思わず顔を引きつらしてしまった。

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