惚れ薬と私、そして

卯野ましろ

惚れ薬と私

 私には今、好きな人がいます。

 でも付き合ってはいません。

「はぁ……」

 ため息だらけの帰り道。もうすぐ家に着く……というところで、

「ちょいと、そこのお嬢さん」

「は、はいっ!」

 白雪姫の毒リンゴでも売っているような気がしなくもない、黒い服を着た女の人に呼び止められた私。

 ビックリした……。

「惚れ薬はいかが?」

「え、惚れ薬っ?」

 またビックリ。

 惚れ薬って、本当にあるんだ……。

 これはパッと見、ただのリンゴジュースだけど……。

「今回は実験だから、タダであげるよ」

 またしてもビックリマンボウ……。

 欲しい。

 欲しいけど、でも……。

「まさか、あんた人の心をねじ曲げるなんてサイテー……とか思ってんのかい?」

「ちょっ、何で分かったんですかっ? すごい!」

「やっぱりねぇ。でも、そんなんで本当に良いのかい? もし他の女に好きな人を取られたら……」

「えっ、それは嫌!」

「なら、これを飲ませな。飲んだ途端、男はすぐにあんたを好きになるよ。大丈夫。ちょっと肉食になったくらいで、バチなんて当たりゃしないよ。特に、あんたみたいな良い子はね」

「……そ、それなら……」

 私は惚れ薬を受け取った。




 そして翌日。

「よかったら、このジュース飲んで!」

 放課後、私は好きな人にラブレターでもバレンタインチョコでもなく、例の品を差し出した。

「えっ……」

 うわ、どうしよう。

 この反応は、もしかして困っている……?

「あ、あのっ……嫌なら……」

「ありがとう! 嬉しいっ!」

 彼は喜んでくれた。

 彼の嬉しそうな顔を見て、私は安心した。




 でも……。




「はぁ……」

 ため息を吐きながら登校。

 昨日、彼に惚れ薬を渡すのには成功したけれど……。私の目の前で惚れ薬を飲んだ後、彼は予想外の一言を発した。

「うまい! このリンゴジュース最高!」

 惚れ薬はすぐに効果が出ると聞いたから、あれはもしかして失敗作だったのかな……。それとも、この恋は実らないから効果がなかったのかな……。

「おはよう!」

 校門に着くと、今一番会いたくない彼が、私に挨拶してきた。

「……おはよ」

「なぁ、ずっと言いたかったんだけど……」

「何?」

「オレ、君のことが好きだ」

「えっ!」

 嘘でしょ?

 惚れ薬、ダメだったのに……。

 遅れて効果が出た?

 いや、そんなことない……。

「あの……返事は……?」

 色々気になることはあるけれど、答えはただ一つ。

「私もあなたのことが、好きです」

 私の恋は、実りました。

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