同じことを繰り返しながら、違う結果を望むこと、それを狂気という。Ⅳ

***


「あっ、委員長」


 しばらくコンビニ向かって歩いていると、通りの一軒家の中から何と委員長が出てきて思わず声に出してしまった。


「あら、目島君に毒ヶ杜さんどうしたのこんな所で?」


 本当にたまたまエンカウントしただけなんだけど、僕は若干ドキドキしていた。


「いや、コンビニに用事があって……えっと毒ヶ杜さんと一緒なのは、その……」


 一人で勝手にテンぱっていると、委員長の口から衝撃的な言葉が飛び出した。


「二人は付き合ってるんだよね?」








「えっ?」


 委員長。何で知って……


「ごめんね。盗み聞きするつもりはなかったんだけど、その修学旅行の時に聞いちゃって」


 嘘……だろ。いや、正直確かにこうなってもおかしくないくらいの状況はあったけどまさか本当に気づかれるなんて。


「委員長……」


 俯く委員長に僕は何て声をかけてあげればいいのか分からなくなる。


「……そっか。知られちゃったなら、もう隠す必要ないよね?」


 隣の棘が小さくそう呟いた。


 棘も何だか少し前のめりに立っていて、髪で隠れて顔が見えない。


「毒ヶ杜……さん?」


「どうして呼び方を変えるの? さっきみたいに私の事を呼んでよ、棘って」


 棘は微動だにせず、声色を少し低くして言った。


「えっと……」


 僕は委員長を気遣って棘を名前で呼ぶ事が出来ない。


「いば……ら?」


 その言葉に委員長が反応する。


「そうだよ? 私達下の名前で呼び合ってるの。当然だよね? 付き合ってるんだから」


 棘の様子が何だかおかしい。何か過呼吸気味じゃないか?


「棘!! 分かったから落ち着け」


 言って僕は棘の前に立って、その視界から委員長を隠した。


「私達、もう色々済ましてるよ?」


「!?」


 委員長が分かりやすく動揺を見せる。


「だから、桃園さんの入る隙なんてないの」


「入る隙って……何言ってんだよ棘! 入るも何も委員長は僕らの大事な友達だろ!」


 明らかに様子のおかしい棘は過去、僕が何度も見てきた豹変した棘である事に僕は気がついていた。


 こうして前に立って抑えておかないと委員長が危ない。


 前に前に突き進んで、委員長に向かおうとする棘は完全に正気を失っている。


 なってからの雰囲気が全く違うから、それには気づく事が出来るが、何でこうなるのか。その引き金が分からない。


「どこまで済ませたか教えてあげようか? ふふっ……せっ」


「やめて!! もうやめて!! 言わなくていい聞きたくない」


 棘が何かを言い切る前に委員長が大声を上げてそれを止めた。


 それを見た棘はふっと笑って声を出す。


「やっぱり、か。桃園さんーーーー直の事ーーーー」


「言わないで!!!!」


 更に大きな声を出して、棘の声を掻き消した。


 頭を抱えてその場にしゃがみ込む、委員長を見て僕は辛くなって正面の棘に言う。


「棘! もういい。やめろ。委員長が泣いてる。何を言いたいのか分からないけど、もう何も言うな」


 その僕の言葉を聞いて、棘は僕の両肩に自分の両手を置いて、ぐっと近づいて言った。


「何それ? 桃園さんの肩持つの? 私、彼女なのに?」


「今は彼女とか、彼女じゃないとか関係ない。僕は女の子の泣いてる所なんて見たくないだけだ!!」


 怖い。怖い。これが、目の前にいるこの子が本当にあの棘なのか?


 怖くて怖くて、恐怖と畏怖しか感じないけど、それでもここで僕が折れたら、全て終わる。


 だから、絶対に折れるわけには行かないんだ!!!!


「いやぁぁぁあああああああああああああああ!!!!」


 今度は耳がつんざける程の悲鳴を棘が出した。


 正面、近距離にいたから、耳がキンキンする。


 まずい。悲鳴なんてあげたら、近所の人が気づいてしまう。


「目島君。入って」


 背後から委員長のそんな声が聞こえて、顔を向けると玄関の扉を開けて立っている委員長がいた。


「早く! 誰か来ちゃう」


 言われて四の五の考えてる時間もなく、僕は棘を引っ張って、委員長の家に入れた。

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