「邪ゼブラ7 ~宵のキネマ~」★★★★☆

 今回はGAGA文庫出版、我らが縦坂横道先生の顔とも言える「よこしまゼブラ」シリーズ最新刊「邪ゼブラ7 ~宵のキネマ~」を読みました。


 ……はああああ(クソでかため息)。


 8巻で完結と既に告知されているのが、名残惜しくてしょうがない。もう少しまだら達の、あの馬鹿らしくも酔狂な世界を味わっていたいのが正直な気持ち。しかし元々3巻完結予定だったという点を考慮すれば、十分長く楽しませてもらったのでしょうけど。いや、でもやっぱり……自分がライトノベルを本格的に読むようになった理由の作品なので悲しいです。


 とりあえずあらすじを。


 ――――――


「私、留学するの。だからそれまでに、やり残した事がないようにしたいんだ」卒業を控え所島しょとうが提示したのは、自主制作映画を錯綜さくそう隊みんなで作ることだった。隊長の命なればと作業に取り掛かる斑達だったが、経験者ゼロの錯綜隊メンバーだけでは上手くいくはずもなく。「何ここ! 台本のセリフ空欄なんだけど!」「そこは、アドリブで良い感じに」「見開き二ページ分をか!? この馬鹿!!」しかしその水面下では、あの地下組織がついに動き出そうとしていた……。どこまでも錯綜する彼らの、別れまであと二ヶ月。


 ――――――


 時間軸ばかりはまともに進むこの作品、ついに所島達も卒業の時を迎えるわけですがそれだけで感慨深い。まぁ留学に関しては4巻で東南アジア横断して5巻で冥府経由でヨーロッパに密入国したヤツらが何を今さらという話ですが……しかも韓国て。せめてアメリカぐらいいきなさいよそこは。日帰り旅行できる国じゃインパクト薄いわ。


 閑話休題。


 内容としましては、1巻のプロフィールに書かれているくせに一切触れてこなかった所島の『趣味:映画鑑賞』の回収ですね。最後に記念で映画を撮るというのは何とも青春な香りがしますが、そこは元特殊部隊隊員に自称スピリチュアルJK、霊能力者、IQ200、中二病、指パッチンの上手いパン屋の息子に一般幼女と色とりどり揃えた錯綜隊。普通なわけがございませんでしたね。エキストラが欲しい場面で人が足りないからと霊能力者であるかすみがカメラマンとなり墓場でクロマキー撮影するのはシュールとした言いようのないシーンでした。人物を合成した方が早くないそれ?


 演技に関しては言い出しっぺの所島は下手だし、斑はどうやっても特殊部隊時代のクセでカメラのフレーム外に出るし。演技派が米輔よねすけとリンちゃんしかおらんがな。なんでこれだけのキャラが揃って主演がパン屋の息子やねん。


 *

「しかし米輔が主演の場合、どんな作品になるのか」

「私、ホラー系がいいわ。夜な夜な怪奇現象が起きるから助けて欲しいとご近所さんから頼まれて、米輔が夜の隣家に忍び込むのよ! そしてそこで次々と怪奇現象が……!! そう、タイトルは『突撃! 隣の晩ご――」

 最後まで言わせないと、霞が所島の頭を引っぱたく。コンプライアンスの行き届いたツッコミだった。

 *


 のあたりとか好き。

 ……そんな彼らなりにのほほんとギャグ多めで進んでいく映画撮影とは異なり、その幕間に挟まれる“組織”の描写は随分とシリアス。どうやら斑の過去に関わっているっぽいけど? という感じで少しずる描かれる感じがまた、ギャグで挟んでるのもあり自分の感情が分からなくなってきますね。

 その揺れ動かされるこちらの感情が、また斑の心象とシンクロするというのがさすが縦坂先生憎い構成を……。所島によって結成された錯綜隊の関係が、所島の脱隊によってどう変化していくのか。第二の人生の軸として存在していた錯綜隊の繋がりが緩くなった時、自分は一体どうすればいいのか。斑の不安と、だからこそこの映画撮影は良い思い出にしたいという、斑の心理描写が切なくてたまらないよ俺は……。


 幾多のトラブルを経て一応の完成を見る映画、できたてほやほやのそれを劇場を借りて見て、劇場から出たときに登る朝日。そう、地球が回る限り、生きているかぎり、登る朝日を見ることはできるんだ。

 みんなの笑顔と約束に、希望を得た斑。

 しかしその希望を壊すかのように訪れた、前職の同僚と一つの報告。


「斑、お前にしかできない仕事だ。手伝ってくれないか」


 最終巻に待つのは希望か、絶望か。

 一言では言い表し難いこの物語に、ひとつ願うのならば。

 斑がみんなと、何度でも朝日を見られますように――。

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