第2話 エイプリルフールの午後

 霧(mist)と奇妙(strange)の造語であるミストレンジ(Mistrange)。


 高度成長期に隆盛した家電メーカーで幅広い分野に手を伸ばす。風変わりな商品を生み出すのを得意としていた。


 家庭用ゲーム機が話題になると、ミストレンジゲームス(Mistrange Games)を子会社として、即座に参入した。家電メーカーという矜持が足枷となり、高性能を追い求めるがゆえにゲーム機が高額となりユーザーから避けられてしまった。


 魅力が溢れるゲームを開発しようとも、自社のゲーム機でしか発売できない。シェア争いに躍起となり体力を消耗しつつもあった。膨らむ赤字に悩まされると、決断に迫られる。


 山々に囲まれた盆地に霧を立ち込ませても、ただ濃度を増せるだけだ。ならば山々を消せば良い。


 ゲーム機開発は同業他社に任せて自社ではソフト開発だけに留めておく。キラーソフトを抱えていれば、市場での立ち位置を失うことはない。ハードメーカーに比べれば収益が低かろうと、ソフトメーカーとしては大手である。ゲーム機開発からの撤退が業績に大幅な回復をもたらしたのだ。


 ゲームソフトの開発力はインターネットやシステム設計への転用にも役立つ。さらに新たな分野に手が届きつつある。


SFとして映画や小説になるAIは水物で現代社会において、まだまだ未成熟である。単なるパターンを構成させて、あたかも自由に動いているように見せるものだ。自律しているとは言えずに、誤作動も多い。


 将来への投資としてAIを研究していかねばならない。主力の家電はつねに安定しているわけではない。特に家庭用は斬新なものが少なくなり耐久性が増して買い換えが進みにくい。業務用ならメンテナンスも含めれば利益をもたらせる。


 AIはそれらの普及に貢献する可能性を秘めている。AIを搭載した家電へと買い換えに流れるかもしれない。だが逆に他社にシェアを奪われる危険性もある。


 AIとの関係性が重要になると気づく。工場の機械化は以前からあるが、AIに抵抗があると感じる人々がいる。


 ミストレンジでは業務用としてコースメニューを立案できるAIを完成させた。レストランの立地や客層に料理人の腕前、さらに気候や素材などを打ち込んでAIに把握させる。


 それらの情報からAIが演算してコースを設定した。料理人は半信半疑ながら、メニューに加えると売上が伸びた。


 料理人にヒアリングをすると苦笑いを浮かべていた。試行錯誤していたのにAIがたやすくコースを提案してきたからだ。さらに自分たちが想像しなかった料理までされてしまった。


 AIの欠点として過程を教えてくれない。ただ結果だけを示せれても人間は納得できない場合もある。なぜその食材を使うのかを開発者に訊かれても、返答ができなかった。


 高度化されたAIは人間の理解を超えてしまう。単に有能であるとは限らないのにだ。AIが導いたコースに料理人が触発されて意見をすれば、より良くなるかもしれない。


 AIと対話できる機能を搭載したい。ミストレンジではさらなる段階へと進む。AIをグループ内でのサイトに置いてみた。ネット上での会話をさせるのだ。


 結果は散々なものだった。人間からの様々な話題に対応できない。日常会話程度ならこなせても、踏み込んだ内容には固まってしまう。

 

 料理ならこなせても映画やスポーツになると無理だったり、仕事の愚痴なんてまったくわかってもらえない。


 まずはAIがまかなえる分野を絞らねばならないだろう。人間は自分が得意とする内容で話していて、不特定多数になると無数のジャンルに及んでしまう。だからAIとの話題を制限させるが、将来的には知識量や処理能力を増すという前提でだ。


 日常会話はできても、AIは特定の分野で未熟で戸惑うだろう。できれば人間から未熟な初心者として見なされる。何事も誰もが最初は初心者なので違和感はない。できれば接する時間が長期であれば、AIと人間との関係に新たなものが芽生えるかもしれない。


 それらを満たす場所を探すと、たやすく見つけられる。かなりの行程が必要であり少しずつ進めている……。




 2025年4月1日。


 一年に一度、嘘をついても良いとされる日。具体的な約束事は曖昧でありえないネタに混じって真実も含まれる。中には人々の反応を試す場合もある。


 好評だったら商品化されるという思惑もある浮き足立つ一日だ。騙されないように構えて過ごすか、笑い飛ばして気楽に過ごすのか。


 日付が替わると、業種を問わずにエイプリルフールのネタがホームページに掲載される。自分が気になるサイトにアクセスしてネット上に飛び交う。朝になれば、まとめられるようになり、ますますアクセスが伸びる。


 ミストレンジゲームスは何の動きも示さない。例年なら何かとネタを提供してきたのにだ。


 次世代ゲーム機を開発していてエイプリルフールを忘れているのでは、と軽口を叩かれる始末。



 2025年4月1日12時。


 タイマー予約されていたものが一気に動き始める……。


 ホームページの更新、SNSの公式アカウントの発信、メールマガジンの配信。




 エイプリルフールは午前中までです。午後からは完全新作タイトルを配信します。


 『ダブルヘッド』、AIと人間が暮らす新天地。


 人工知能(AI)は今までにゲームで使用されてきました。戦闘の自動化などで使用してきました。『ダブルヘッド』ではさらに思考をAIに取りいれます。キャラクターデザインまでは運営がおこないましたが、フィールドに立てば皆様と同じプレイヤーです。


 弊社グループではAI開発に積極的に携わっています。商業化にできたものは一部であり、高額な機器や限定的な分野ですので、一般的にはなり得ていません。さらに現代社会では法整備が未熟で活用すらできないものもあります。


 ならば新たな世界、架空でありながらAIを使用しやすくなるものを作りあげます。特に機器は移動が困難で歩行を安定させる動力が現実では必要となりますが、架空ならば人間との格差は無くなります。


 『ダブルヘッド』では身近にAIと接しられます。パソコンかゲーム機を用意していただくお手数をお掛けしますが、通常のゲームと同様な手順でです。


 ですがAIは未知の領域で安定させるには困難です。特に思考には開発者の予想を上回る発言をする場合もあリます。そのため不適切な言動がありましても、弊社では責任を負いかねます。


 このような状況下で皆様にプレイしていただくために完全無料とします。いわゆるβ版ですが、今後、どのような形になるかは未定です。


 レベルが1に戻されたりアイテムがなくなる場合もあります。さらに告知もなくサービス終了となるかもしれません。


 今までは製品を購入していただくか課金要素のあるゲームでした。『ダブルヘッド』では完全無料ですので、運営資金は弊社グループが負担します。


 ユーザー様には登録時に年齢と性別と所在地を記入していただきます。その情報をビッグデータとして活用させていただいて、AIとのやり取りを弊社グループで参考にします。


 上記の事柄をご理解していただける方々は、ぜひ『ダブルヘッド』に登録してください。


 AIに興味のない方々にも楽しんでいただけるように、購入も課金もないゲームですので、商業ではできない要素を準備しています。



 アンフィス「お金はかからないし気軽にプレイしてね」

 バエナ「只ほど高い物はないよ、でも誰もが無課金というのは何かと気楽だよね?」



 次回予告、第3話 いってらっしゃい

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

AIによるゲーム生活 鳥立 波紋 @audent

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ