13.2話:いざ、洞窟へ……

「えーっと……大丈夫ですか~?」

「そうですね……生きてるので大丈夫だと思います、多分」

「それは何よりです~あ、お部屋の補修代金はアリシアさんがお支払してくれるようなのでご心配なくとのことです」


朝一番、俺の配慮が足りなかったということもあるが、アリシアの着替えを見てしまった(決してわざとやったわけではない)

そのためにせっかく貸してもらったギルドの一室が大破する事態となった。

ご機嫌斜めなアリシアは着替えると足早にギルドの外に出て行ったそうだ、その後に部屋を見に来たヨミさんに救助されたといった感じだ。


寝起きということもあってほぼ力加減の無い一撃が俺を襲い、部屋の中をピンボールのように跳ね回った。……正直なんで生きていたのか分からないくらいだ。


「えーっと、それでは昨日言っていた【旅人の採掘場】に向かわれるのですよね?それでしたら、これをお渡ししますね」


ヨミさんはカウンター下に潜り込むと小さな箱を取り出した。ホコリが被っているあたりどうやらしばらくの間、放置されていたのだろう。

ホコリを落し、箱を開けてみると中には小さなランタンが入っていた。


「これは?」

「洞窟などの暗いダンジョンで大活躍、『テラシー』です。燃料は燃えるものであれば何でも構いません、こちらのカートリッジに燃料を入れるとまばゆい光が照らしてくれますよ。あと、これはミナトさんに差し上げますので自由に使ってくださ~い」

「へ~……って、いいんですか!?結構高価な品物なのでは?」

「今では手に入らない貴重なものですよ~と、言っても最近ではこれよりも高性能なものが出ているので、それを買うまでの繋ぎとして使ってください。……それに、私からのささやかな感謝の気持ちなのですよ」


ヨミさんはランタンを俺に渡すと優しく微笑んだ。

その笑顔には人を優しく包み込み、暖かな気持ちにさせてくれ程に眩しい……反面、どこか悲しみもある気がした。


「アリシアさん、私と会うまで周りのものは全て敵と認識していたようでした、最初の頃はよく泣かされたものですよ~……でも、ミナトさんといるアリシアさんはとても楽しそうにしている、ちょっと誤解されやすいですけどいい子なんです彼女は……」

「ヨミさん……」

「な・の・で、そんなアリシアさんの面倒……いえ、お世話……でもなくて、仲間になってあげたミナトさんには感謝でいっぱいですので、どうか受け取ってくださ~い。初クエスト、成功をお祈りしてますね」


一瞬昔を思い出したのか、目尻に涙が滲んでいたヨミさんは何でもないと言わんばかりにいつものテンションで渡してきた。

俺は一言だけ『ありがとう』と言ってランタンを受け取ると、手を振るヨミさんに背を向けギルドの外に出て行く。ギルド内にいる他のメンバー達も声援を送ってくる、あまりこういうのには慣れてないせいかむずむずする。


俺は駆け足でギルドの入口まで行くと、振り返って言った。


「っじゃ、行ってきまーす!」


扉を開けると朝の陽ざしが俺を迎えてくれるようだった。





*


~【旅人の採掘場】~



「予想よりも近いな、このダンジョン」


俺はぽっかりと空いた洞窟を前にして言った。

ハジマリの街を出ておよそ5分ほど、赤茶色の石や岩が転がっている砂利道を進むとその先に工事現場のような一角が見えた。


元々この洞窟は長い年月をかけて形成されたもので、それほど大きな洞窟ではなかったらしいが、周辺で希少な鉱石が採掘されると世界中から炭鉱夫が集まり、どんどんと大きくなっていったとのことだ。


人が増えたことで人を餌とする魔物も増えたことで、今では旅の途中で立ち寄った冒険者や、ハジマリのギルド関係者を護衛に付けなければまともに採掘すらこんなになってしまったこの洞窟を、いつしか【旅人の採掘場】という名前が付いたそうだ。


「それは知ってるわよ、一度だけこの洞窟来たことあるのよ、ギルド時代の頃にね」


アリシアは今朝のこともあってか、若干ツンツンした態度で接してくる。何度も謝っているのだが……後は時間がなんとかしてくれることを祈るしかないか


……ん?


「どいたどいた!怪我人が通るよ!」

「あの、何かあったんですか?」


ガタイのいい男たちが次々と担架で怪我人を運んでくる、運んでいるのはおそらく炭鉱夫のようだが……怪我をしているのは全て冒険者達のようで、剣士や魔法使いと様々だ。


「どうもこうもねぇよ、採掘場の奥から魔物の大群が出てきやがってよ。護衛依頼してた連中に片づけてもらおうとしたら逆に返り討ちに遭いやがった。おかげで作業は中止になって、俺達は死に物狂いで逃げてきたんだよ」

「え、だって中にはの人たちが来ているはずじゃ……」



……このMMOの勢力の一つに『聖ヴィーナス教団』というのが存在する。

彼らはこの世界が闇に包まれる時、天空の彼方から聖なる鎧をまとった女神『ヴィーナス』が世界を救済してくれるという教えを世界中に伝え、入信者は100万人以上とも言われている巨大な宗教団体だ。


その中でもエリートの騎士が集まり、世界中の街や村に設営されている教団支部に配属されているのが聖騎士団。彼らは『ヴィーナス』を知らない人々にその教えを伝え、近隣に湧く凶悪な魔物の討伐を行い人々の信頼を得ることで教壇への入信を進めることで有名だ。


俺がこの洞窟に聖騎士団がいると知っているのか、それはギルドで受けたクエスト……手紙を届ける相手のジュリーという女性が聖騎士団なのだ。


炭鉱夫は首を横に振ると、近場の切株に座り込みながら言った。


「聖騎士団?いや、見てねぇな。確かに俺達が洞窟に入る前にそんな奴らがいるって話は聞いたが、俺達のいたエリアにはいなかった。もっとも騎士団が助けてくれるとは限らんがな」

「あの、洞窟の地図とか持ってませんか?実は俺達、この洞窟の中に手紙を届けに来たんです。もちろん戻ってきたらお返ししますので……」

「おめぇ、正気か?……ほら、これはくれてやるよ。さっきも言ったが、この洞窟は危険だぜ。……気をつけな」


炭鉱夫は腰に下げたポーチから丸めた地図を取り出すと、俺に渡してくれた。

どうやらこの世界は俺が思っていた以上に難易度が高い設定になっているようだ、油断やナメプをしようものなら一瞬でやられてしまうかもしれない。


慎重に行かないと……


「アリシア、この先は思った以上に危険だ。お互いをカバーするように……って、アリシア?」


振り返るとアリシアの姿が無い。

先ほどまで暇そうに話を聞いていたはずなのだが……


「おい、兄ちゃんよ。あんたの連れなら、洞窟に入っていったよ」

「マジかよ!」


炭鉱夫にお礼を言うと、俺は駆けだした。

アリシアなら多分、大丈夫だとは思う。だが、予想外のこともあり得る……人の話を最後まで聞けとよく言い聞かせないといけないな。


俺はそんなことを思いながら急ぎ洞窟へと入っていくのだった。



続く

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