第一章:魔法使いと魔女とネクロマンサー……?

8話:冒険者ギルド

グランツェルド……MMO世界をそう呼んだ。


数百年前に現れた魔王を精霊と仲間たちと共に戦ったアリスと呼ばれる人物が倒し、世界に平穏な時代が訪れた。


……しかし、その平穏は倒されたはずの魔王とその軍勢によって打ち破られた。


魔王はアリスが世界に残していった邪の力を防ぐアイテムを奪い、それらを自分の配下達に守らせ、人々が再び魔王に立ち向かえないようにしたのだ。


そんなある日流星の彼方より現れた一人の男が各地を巡り仲間たちと共に失われたアイテムを取り返し、再び蘇った魔王と戦う……これがMMOの簡単なストーリーだ。



*


「……って感じで、今世界中で魔王の軍勢が猛威を振るっているけど、伝説のアリスのような勇者が現れない限り世界が闇に包まれるのは時間の問題でしょうね」

「ふーん、そうなんだ」


既にMMOの世界観を知っているとはいえ、アリシアがこの世界のことを教えてくれた。俺はMMOの世界にいる……ただし、限りなく近い世界ということには限りない。


仮に俺が勇者的ポジションだったとしたら、まさに始まりの場所があの森の中だ。

だが初見殺しもいいところで、仲間になるのは少し先のはずのアリシアと本来現れることのないボスモンスターが居たことを考えると……ゲームそのままとは言い切れなさそうだ。


俺達はまずグランツェルドの中央にある巨大な街「ハジマリ」に向かっている。


世界の中央に位置する街「ハジマリ」世界の真ん中にあることで世界中の人が物が集まっている大きな街でMMOを始めた主人公達がここを拠点に物語を進めていくのだ。


このハジマリにはギルドという組織があり、そこで任務クエスト仲間メンバーの募集をして物語を進めていく。

シングルプレイでも同じように任務クエストは受けられるが、仲間はストーリーで会える仲間たちのみ、予定通りの展開ならばハジマリで仲間が二人ほど増えるはずだが……


「ミナト、あんたがもし伝説の勇者だったらどうすんの?世界を救うのかしら?」

「まぁ、ね。少なくともこのハジマリって街について同じ考えの仲間が出来ればそうするかもしれないな」

「ふーん……そろそろ森を抜ける頃ね、街も森を抜ければ見えるはずよ」


アリシアに先導されながら森の中の道を進んでいくと、少しずつ木々が少なくなり、陽の光が入ってくるようになった。間もなく抜けるということを示しているようだ。


「アレがハジマリの外壁よ。あんなものを昔の住民が建てたらしいけど……空を飛んでくるモンスターには意味ないと思わない?」


森を抜けると目の前には大きな外壁がある街が見えた。そこへ通じる一本の整備された道が見え、それなりに人々が歩いているのが分かる。

アリシアが言うとおり、巨大な外壁だが……普通に考えたらそうなるよな。


俺達はハジマリに向かっていく人たちの列に紛れて歩く。

ゴツイ鎧をきた体格のいい騎士。

牛にいろんな荷物を背負わせて歩く恰幅のいい商人。

様々な人があの外壁の街へ向かっていく、その中で異色な服と箒に乗った魔女は人の目を引くには十分すぎた。


「……ねぇ、あれって魔女じゃない?」

「それに隣の男性、この辺では見たことない服を着ているけど……。」

「まさか、魔王の手下達が化けてるのかもしれないわよ」

「怖いわねぇ…何かあれば街の傭兵さんたちが何とかしてくれるかしら?」


周りからのヒソヒソ話がほぼ丸聞こえなのだが……。

やっぱり目立つよな、俺達。

それほど気にしてないようなアリシアが俺のそばに寄ってくると、耳元で


「ねぇ、あいつらブッ飛ばしていいかしら?」

「やめてください、余計なことはしないで……。」


アリシアは真顔で、ヒソヒソ話をしているご婦人方をブッ飛ばすと言い始める始末、危なくて困る。


「あ、あいつ魔女だよな!?」

「あぁ、うまく倒せれば俺達も初心者のレッテルから解放されるんじゃないか!?」

「よし、言質とった。ブッコロス!」

「わぁぁ~~!!待て待て!!」


全身を皮装備の冒険者に襲い掛かろうとしたアリシアを羽交い絞めにしながら街まで引きずって行った。



**



目の前を馬の顔した六本足の生き物が馬車をが音を立てて引っ張っている。


「街の中はこうなってるのか……」


ハジマリはレンガで出来た石造りの家々が立ち並び、さながらヨーロッパの街並みに似ている。


当然のように車やバイクは走っておらず、信号機等は無いが、街路灯はあるようだ。


俺は辺りをキョロキョロと見回していると、アリシアが横で面倒くさそうにため息をついていた。そういえば街にはあまり行きたくなさそうだったな…。


「アリシア、ギルドに行きたいんだけど付き合ってくれないか?」

「ギルド、ねぇ……はぁ、いいわよ。ついてきなさい」

「なんか嫌な思い出でもあるのか?」

「そうね、いろーーーいろとあるわね……」


アリシアと並ぶようにして歩く、チラッと横顔を見るとものすごく嫌そうな顔をしていた。街行く人たちと並んで歩き、果物屋っぽい店を曲がると正面に大きな看板が見えた。



――――冒険者ギルド――――


一度でもRPGをやったことがある人なら分かるだろうが一応説明しておく。

冒険を始めた主人公たちに討伐から調達まで何でも仕事を回してくれる派遣会社……違う、ハローワークか?と言ったところに当たる。

ここで簡単な仕事を受けて報酬をもらいそれを元手に武器や防具を買う……これがゲームの基本だ。

こうして自分の足でこの扉をくぐることになるとはな。人生何があるか分からないな、扉に手を掛けるとアリシアがついてきていないのに気が付いた。


「あれ?一緒に来ないのか?」

「悪いけど、私はここで待つわ……あとこれ」


アリシアは小さな茶色の袋を投げてきた。チャラチャラと音がするにお金か何かが入っているようだ。


「ギルド登録料の1000バレッドが入ってるわ」

「あ、そうかお金が必要だったっけ、ありがとう」

「昨日のあいつらから巻き上げたものだし、気にしなくていいわよ。ほらさっさと登録してきなさい」


アリシアからもらったお金をポケットにしまうと扉を開けて中に入る。

中は薄暗く、隣の酒場と隣接しているせいかいい匂いが漂ってくる。


「いらっしゃいませ♪お仕事でしたら正面の受付に、お食事、お泊りでしたら右の酒場の方にお越しくださいね♪」


キャップ帽を被った赤毛のショートヘア風の女の子が、両手にビールっぽい飲み物が入ったジョッキを抱えながら教えてくれた。


所々に鎧や剣を背負った冒険者たちが物珍しそうな視線で俺を見ている。新参者だしそもそもこの制服のせいでもあるかもしれない……絡まれる前にさっさと登録をしよう。


俺は正面の受付に向かう、五人いる受付のうち空いていた綺麗なお姉さんの場所に行きさっそく手続きを行うことにした。


「あら、珍しい衣装ですね、仕事の依頼でしょうか?」


ブラウンのカールが掛かったロングヘアー、アリシアより巨乳なおっとりとした雰囲気の受付嬢はどことなく大人の色気を感じる。


「えっと……ギルドの登録をお願いしたいのですが」

「あ、はい。それでしたらこちらにご記入を、それから登録料1000バレッドを頂きます」


最初はこっちの世界の言葉や文字はどうしたらいいんだろう…なんて思っていたが、アリシアと最初に喋れていたし看板をみてもギルドと読むことができた、おそらく書く方も……。


「はい、えーっと……アリスガワ・ミナト様ですね……ってアリス!?」


受付のお姉さんが大声で叫んだ。その声につられて至る所で他の冒険者たちがこっちを見ている。

やっぱり漢字で書いても問題なく読めるらしいので安心したが、案の定っていうか俺の苗字でまた脅かせてしまっている。これだけ自分の苗字を憎たらしいと思ったことは生まれてこの先、この世界だけだろうな。


「あー……一応、本名なんだけど駄目ですかね?」

「い、いえ…すみません、伝説の勇者様と同じお名前を持っている方を初めて見たものでして……」


受付のお姉さんは申し訳なさそうに書類をまとめると急いで社員証みたいなカードに記入している。

周りからは『アリスだってよ』『伝説の子孫か何か?』と言った声が聞こえてくる、騒がしくなる前にさっさと登録を済ませて出よう。

そう思っていると不幸はついて回ってくるようだ。


「てめぇ、アリスだってぇ?名に寝ぼけたことぬかしてやがるんだぁ……?」


冒険者の一人が酒が入っていたグラスを叩きつけるようにして置くと、こっちに向かって来る。見た感じ完全な酔っ払いのようだ、目が座っていてやばそうだ。

出来ればこういうのに絡まれるのが嫌だからこっそり登録したかったのだが、あれだけ大声だされてしまうとな……


「うおい!聞いてんだよ!スカしてんじゃねーぞ!」

「……」


もうすぐでギルドカードの記入が終わるらしいが、その前にこの冒険者が襲ってきそうな勢いでガン飛ばしをしてくる。

金属の胸当て、肩当て、すね当て……見た所戦士のような装備の大男だ。少なくとも身長は二m近くはありそうだ。


周りの冒険者たちもザワザワとしながら俺たちの動向を見ていた。

止めたくても止められない。面倒事に巻き込まれたくないが面白そうだから見ていよう、と言った野次馬が多い気がする。


「新入りのくせに生意気だなぁ……俺がその舐め腐った根性を叩きなおしてやろうか!」

「うおっと!?」


いきなり掴みかかってきた冒険者を避けた、その際に足を引っ掛けさせて受付とは逆方向に転ばせた。


「ぐおっ!?イテテ……ふざけやがって~!」

「酔っ払いと話している時間はないんだよ、俺は忙しい……っと、あぶねぇ!」


咄嗟にしゃがんで避ける、俺の頭上を木製の椅子が飛んでいき壁に当たって砕け散っていた。冒険者の大男が近くにあった椅子を投げてきたようだ。


『いいぞーもっとやれー』『そろそろ止めに入ったほうがいいんじゃないか?』

『ライアン、お前の馬鹿力見せてみろー』『やっちまえー』


などと野次馬と化した冒険者たちに触発された大男が椅子を軽々と片手で持ちながらこっちに向かって来る。あまり暴れたくないが、この世界に来て上がった身体能力を活かしてこの場を乗り切るしか――ッ!



「何やってんのかしら?私も混ぜてほしいんだけど?」


ギルドの正面の扉がいつの間にか開いており、薄暗い店内は外から射し込む陽の光が入り込む。その逆光の中に立っている人物が楽しそうな声を上げて入ってきたのだ。


その姿を見たほとんどの野次馬冒険者たちは先ほどの威勢はどこにいったのか、顔を青ざめ動きが止まった。


ギルド内の床は大理石か何かで造られているようで、靴底が固いと良く音が響く。

現に入口から入ってくる人物の履く少しばかり厚いローファーの音が、静まり返ったギルド内を反響している。


「ねぇ、聞いてる?私も混ぜなさいって言ってるのだけど?」

「な、なんでここにいるんだ……もうここに来ることはないはずじゃ……?」

「あら、それは私の勝手でしょ?それに私は面白そうなことが大好きなの♪」


震え声の大男の冒険者に笑顔で答える人物。それは……アリシアだった。


「あら~アリシアさんじゃないですかぁ、お久しぶりですね~。本日はどういった御用で?」

「久しぶり、ヨミ。今日はそこにいる服装は派手だけど、顔がパッとしない男の付き添いよ」

「なるほどなるほど……ってことは、ミナトさんとお二人のパーティということで登録しても宜しいのでしょうか?」

「ん~……不本意ながら仕方ないわ、それでいいわよ」


アリシアは何事もないかのように受付の所に歩いていくと、俺のギルド登録をしてくれているお姉さん……ヨミさんと何やら話をしている。

それからクルっと振り向くと嬉しそうな笑顔で指の骨をボキボキと鳴らし始めた、これから何をしようとしているのか。


……言わずとも分かる、問題は起こす前に止めるに限る。

それにしてもアリシアのやつ、仲間が困ってるのを見逃せないなんて……見直したな。


アリシアのちょっとした良心に目からウロコの俺は冷静を装いながら言った。


「おい、アリシア。俺が絡まれて怒っているのは分かる、気持ちは嬉しいがギルドの中で問題は……」

「は?何勘違いしているのよ、パーティメンバーが酔っ払いに絡まれているから正当防衛という名目で暴れられるじゃない。別にミナトの為にってわけじゃないわよ」


前言撤回。

アリシアの性格、というか行動は他人より自分の興味が上だったのを忘れてた。


「よーし、じゃあ軽く100発くらい殴ってから話し合いと行きましょうかしら」

「ヒッ!?話し合いなのにナンデ!?」


俺は既に戦意を喪失した大男に向かってニコニコしながら向かっていくアリシアを本日二度目の羽交い絞めにする。


「あ、ちょっと!何すんのよ!!離しなさいよ、仲間(仮)が危うく怪我させられたのよ!」

「おう、そうだな。だが俺は無事だ、それに相手は既に降伏をしてる。だからこれ以上の争いは必要ない!」

「ハッ!関係ないわね、どんなことであれ少々鬱憤晴らしできれば問題ないのよ!」

「おまっ!?それが最初から目的だったんだろう!!ぜってぇ離さねぇ、これ以上暴れられてたまるもんか!!」


俺とアリシアの取っ組み合いに他の冒険者たちは唖然としていた。


「あの~登録の完了とギルドカードの発行が終わりました~……もしもし~?」


ヨミさんが話しかけていることすら気が付かないくらいに俺とアリシアの攻防戦ギルド内で行われた。



続く……












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