俺のスキル『スライムと話す事が出来る』なんですけど!!

日向 悠介

俺のスキル『スライムと話す事が出来る』なんですけど!!

 俺の名前はカイト=スターチア。スターチア家の長男だ。今月15歳となり今日教会に行きスキルを貰う所だ。俺の希望は冒険者に向いたスキルだ。小さい頃から冒険者に憧れ5歳の時から10年間毎日欠かさず剣の稽古を積み重ねて来た。なら神様に恵まれたっていいよね? 親父は貴族なのだから冒険者みたいな泥臭い職業ではなくもっと違う紳士な職業にし、もっと貴族らしくして欲しいと言うのだが何で身分で決めなくちゃいけないの? 冒険者が泥臭い、どこが? 勇者とかかっこいいじゃん。結局貴族は冒険者を見下しピンチの時は冒険者を頼るという卑怯な奴らなのだ。まぁそこは置いといて。俺は貴族なのだが冒険者志望だ。だから今日の教会で貰うスキルによって次の人生に関わる。俺の希望は魔法ではなく剣術特化スキルなどだ。俺はウキウキしながら教会へと向かった。


 教会に着き今頃になって緊張感に襲われる。本当に冒険者向きのスキルじゃなかったらどうしよう。だが俺は稽古を毎日欠かさずしてきたし、日頃の行いもいい筈だ。大丈夫だ、うんお前なら出来ると自分に言い聞かせ教会に足を踏み入れた。


 教会の中はとても静かで礼拝しに来た人がちらほらいるだけだ。他は別に特徴はない。もっと都市部の教会なら凄い大きな鐘があったりするのだろうがここは別にそこまで発展してる訳でもなく過疎が進んだど田舎というわけでもない。そこら辺にいっぱいある唯の村だ。これといって特徴があるわけではない。

 中に入ると黒いローブを着た神父さんに要件を聞かれた。


「今日は何のご用ですか?」


「冒険者志望です」


 俺は答えた。神父さんは分かりましたと言い俺を教会の裏にある別室に招き入れた。ここでスキル授与の儀式を行うらしい。


「ではいきますよ」


 俺にまた緊張感が襲いかかってきた。お願いします。戦闘職向けのスキル、冒険者向けのスキルを。神父さんの一言でスキルが授与される。


「神の加護があらんことを」


 すると俺に光が降りてきた。これがスキルの授与。なんかかっこいい。さてどんなスキルかな? さっきまで襲っていた緊張感がわくわくに代わり早く自分のスキルを知りたいと思っていた。もう頭の中には戦闘職向けのスキルじゃなければどうしようという不安はどこにもない。完全に戦闘職向けスキルだと信じ込んでいた。


「これがあなたのスキルですね」


 といってステータスの書かれた冒険者カードを渡された。俺は直ぐ様スキルに目をやる。え? 何これ? 戦闘職向けどころか冒険者すら出来ないんじゃ…俺って日頃の行いいい筈だよな、うん何だこれ? 神様のいたずらでも酷すぎるよ。もう絶望しか見えないスキルだった。


「あなたのスキルは『スライムと話す事が出来る』ですね」


 いやーー! 言わないで! 他人に言われると余計傷つくから。しかもスキル名長いんだよ。これおかしいだろ。何かの間違いでしょ。


「あまり冒険者には役立ちそうにないですが…頑張って下さい」


 お前がそんな事を言うなよ! 神との仲介に入って俺にスキル渡したのあんただろ。何が冒険者ではあまり役立ちそうにないだ! 冒険者を送りだす神父さんがそんな事言っちゃダメだろ。俺余計に不安になるよ。


「ですが、使い道によっては勇者を越えるかもしれませんね」


「たとえば?」


「そ、それは・・・私には分かりません。あなた自身が見つけ出していって下さい」


 おいおい、丸投げかよ。人の優しさって時に人を傷つけるんだな。今よく分かったよ。それにしてもどうしようかな? 冒険者は無理そうだし、かといって紳士な仕事は無理だ。だってスライムと話すってモンスターと話してる時点でもう紳士じゃないじゃん。て事は残るは商売? でも商売ってはっきり言って何すんだ?


  結局教会で悩んだ所で答えは見つからなかったので何となく町の外に出てスライムを探していた。村からだいぶ離れた場所でようやく一匹目のスライムを発見した。俺はスキルを試すため直ぐ様スライムに近寄った。だがそれに気づいたスライムは直ぐ逃げていく。そうか俺って案外ステータス高かったからスライムにとっては怖いんだな。ならと、俺は次のスライムに後ろからそおっと近寄った。だが俺の気配に気づくと一目散に逃げていく。これではスキルを試すどころか使う事すらできねえじゃん。本当に使えねえ。これ何の役に立つの? 結局今日は一匹のスライムとも話せず家に帰る事にした。


  家に帰るとどんなスキルを手にするかわくわくしていた俺が馬鹿らしくなった。俺の事を待っていた家族にも全てを話すとゲラゲラ笑いながら冒険者は無理だな。とか馬鹿にされた。家族ならもっと励ましてくれてもよくない? 毎日剣の稽古してたの知ってるでしょ? あの努力は報われないの? 家族に相談した所で無意味だった。ただ、妹のマリアだけは大丈夫、だから夢を諦めないでと励ましてくれた。だがどうやって冒険者すんだよ?


  俺は今日1日が物凄くショックだった。張り切って家を飛び出し冒険者としての1日目が始まるぞって浮かれてたのにいざスキルを受けとると『スライムと話す事が出来る』冗談じゃない。俺が待ちのぞんでいたスキルとは大幅にずれている。また明日町の外に出てみてスキルを試してみる。それでも無理だったら何か違う職業を目指そう。貴族ならだいたいの職業に就けるだろう。結局貴族の名を借りなきゃいけないのか・・・


  翌朝俺は早朝から家に書き置きだけ置いてまた昨日の場所へとやって来た。どうせみんな冒険者なんて無理だと思っているのだろう。なら俺は死に物狂いで冒険者になってみせる。


  今日はやけにスライムによく出会う。これは俺に天が味方したんじゃないか? 俺はそおっとスライムに近寄る。後一歩、その時木の上にいるカラスがカーと鳴きスライムが怯えて逃げて行ってしまった。やっぱり天は味方してくれなかった。だが俺は諦めない。次のスライムを見つけてはそおっと近寄る。その度に何かが起こりスライムにたどり着けない。いきなり風が吹きおばあさんのスカートがめくれるってどんなハプニングだよ。お願いだから俺の味方してくれよ。俺は半分諦めかけていた。だがその時


『お前、何でスライムに近寄るだけで倒さないんだ?』


 不意に後ろから声をかけられた。俺は後ろを振り向くだが人はいない。


『お前、俺の声が聞こえるのか!? 人間には聞こえない筈だが」


『俺のスキルがスライムと話す事が出来るだからだよ。だからそのスキルを試すためにお前らに近寄っていた』


 スライムは驚きの表情を浮かべてそうならそうと言ってくれればいいのにと言ってきた。それが分からなかったから困ってたんだが。


『ならお前は俺らを倒すつもりは『全然ないよ』


『そうか、なら良かった』


 俺は初めてスキルを使う事が出来、こんなしょうもないスキルだが内心は凄く興奮していた。やっぱスキルってすげえ。


『なぁお前さ、俺のパートナーになってくんね?』


 俺は初めてスキルを使い初めて話しかけてくれた事が物凄く嬉しくて唐突に聞いてしまった。スライムはいきなり何だこいつみたいな顔をしているがニコッと笑い? 多分笑った。ニコッと笑い


『お前がそういうのならいいぜ』


 と少し上から目線だがオッケーしてくれた。俺はこんなどうでもいいスキルだったため仲間なんて出来る筈がないと思っていたがスライムならいくらでも仲間に出来る気がしてきた。因みにスライムは最弱種のためそこまで役に立たない。が、仲間がいないよりはましだ。


『んで、お前の名前は何て言うんだ?』


『俺の名前はフラッキーだ。これからよろしくな。えーと』


『カイトだ。カイト=スターチア』


『よろしくな。カイト』


『おう』


 俺達は挨拶を交わし仲間となった。人間同士ならここで握手などをするのだろうが生憎スライムには手がない。よって挨拶だけだ。人間より付き合い方が単純明白でいいね。これ結構便利かも、そう思いはじめていた。


  フラッキーは俺の肩の上に乗り気分上々だ。そりゃそうだ。スライムにとって人間とは自分達を殺す悪者としてか見てこなかったのに今乗っかっているのは少し変わった人間なのだ。しかも自分達と会話が出来る。そんな存在は今までいないと思っていたのだから。


  俺はフラッキーを肩に乗せて村に戻った。流石に村でスライムを乗っけてたら俺が非難される。だからフラッキーを袖に隠して家まで戻る事にした。まぁ家では一応話しておくつもりだがまたあのような事があれば教えない。家に到着し、村では一番の豪邸の玄関を開けた。


「ただいま」


「お帰りなさいませ、カイト様」


 最初に出迎えてくれたのはメイド服を来た女性だった。メイドさんも大変だな、あっちに来たりこっちに来たりで。俺ならすぐ断念するね。そんな事を考えながらダイニングルームまで戻った。何処までも続く奥行きのある部屋のど真ん中に大きな机が立たずんでいる。その机にぽつんと小さなメモ用紙が置いてあった。俺はメモ用紙を手に取り読む。


「カイトへ、スキルは使えましたか? まぁ使えたとしても冒険者は止めた方がいいですよ。全く役に立ちませんから」


 これを書いてゲラゲラ笑う両親の顔が思い浮かぶ。あー腹立つ。あいつらだけは絶対に教えない。まだその辺にいるおっさんのほうがよっぽどいい。


  俺は机に置いてあった朝食を食べ終え自室に向かった。自室に来たのでフラッキーを解放し俺はベッドの上にあったステータスをもう一度見直した。


 カイト=スターチア 15歳 LV 1

 力 50

 防御 35

 俊敏 62

 魔力 13

 スキル スライムと話す事が出来る


  いたって平凡な数値だ。LV 1にしてはなかなかみたいだが俺には関係ない。それよりスキルだ。何の使い道もない。まだ商売などで役立つならいいよ? 何これ何の使い道があるの?


『お前って冒険者なのか』


 ステータスを覗かせ俺に問いてきた。確かに冒険者希望だったのだが今となってはな。


『一応冒険者志望だった。が生憎スキルがスキルだからな』


『そうかなら冒険者諦めるなよ。俺も冒険者と一緒に冒険したかったんだ。だがスライム倒すのだけは止めてくれ。俺達スライムは何もしていないのに存在だけで殺される。卑劣な話さ』


『分かった、一緒に冒険しよう。だがスライムは倒さない』


『ありがとう』


 これでようやく俺の目標が見えてきた。俺はフラッキーと共に冒険者となり魔物マスター的な職業を作る。そのための手始めにスライム共生社会を作ろうと思う。スライム討伐ボイコット運動だ。

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 あれから半年が過ぎただろうか。俺は目標を見つけた後直ぐ様行動していた。決断したら即行動こと俺だが今回はそう上手くはいかなかった。手始めにスライムの討伐クエストを無くすためスライム討伐ボイコット運動をしてみたが直ぐに弾けとばされてしまった。貴族だからという事で殺されはしなかったのだが、この行動が村中に広まり村を歩いている俺はもう悪役だ。このボイコット運動から俺へのありもしない噂が広がりカイトは魔王軍だとか、スターチア家自体が魔王軍だとか、魔王軍が俺に化けているとか数えきれない程の噂が広がった。


 俺は信用を取り戻そうにももう遅いのでどうすればいいか分からない。俺は何もする事がなくすぐそばにあったあの始まりの場所でもある教会に立ち寄る事にした。教会の扉を開けるとまたあの静けさが漂っていた。本当に何もない教会。俺は足を踏み入れ教会で祈りを捧げようとしたその時


「止めてください、あなたのような魔の者か分からないような人を神聖な場所に入れる訳にはいきません」


 神父さんは俺を魔の者として教会から追い出そうとする。回りで礼拝していた人達の視線も集まる。この状況で俺が反論したら俺が犯罪者となり余計に魔物扱いされるだろう。だが俺は諦めていなかった。


「で、ですが俺だって人間です。ここにいてもいい筈では…」


 俺は小声で呟くように言うと


「あなたのそのスキルがもう人間ではありません。そんな得体のしれないスキル魔物以外にあり得ないじゃないですか」


 なっ!? 得体のしれないスキルってちょっとお前何言ってんの? このスキルを俺に授けたのはあなたですよね。あの時は頑張って下さいと応援してくれたのに今では得体のしれないスキルだから魔物です、か。冗談じゃない。俺だってどれだけ苦労したか知ってるのか? やはり人間というのは貴族に限らず都合のいい動物でしかないな。あの時は味方で今は邪魔者扱い、よくあることだ。


 俺はあの後教会で反論しても自分のぶを悪くするだけだと思ったので何も言わず退出した。く、悔しい。こんな人生は俺が望んだものじゃない。俺が貴族で冒険者などと欲張ったのがいけないのだろうか? それとも親父の言うことを素直に聞いておけば良かったのか? 俺は悔やんだ。俺のせいで回りに迷惑をかけている事に、俺のせいで家族を追い詰めている事に。俺はとにかく悔やんだ。


「なんなんだ、俺は戦闘職向けのスキルを授かり冒険者として活躍する筈だった。なのになんなんだ、この意味が分からないスキルのせいで全部がめちゃくちゃだ。俺の人生なんて所詮こんなもんだと言うことか? なら俺はこんな人生いらない! こんな人生なんて奈落の淵に捨ててやる。俺がいない方がみんな幸せに暮らせる。みんな今までありがとう」


 俺は村を出て何処か見つからずに死ねる場所はないかと探した。俺の人生はここで終わる。これでみんな幸せになる。ならいいじゃないか。俺一人の命なんて。俺一人の命で世界が救われるなら構わずこの命を差し出す。それこそ本当の勇者じゃないか。


 俺は数時間歩き続けた。フラッキーには幾度となく止められたのだが俺はそれを振り切って今ここにいる。下を見れば真っ暗な底が見える。もう日が沈み辺りは真っ暗だ。誰にも見られる事はないだろう。出来れば最後くらい家族に初めての友達フラッキーに別れを告げたかったな。さようなら。俺は前に重心をかけ足が離れ始めた。その時、俺の手を誰かが握ったような気がした。そんな筈ないよな。いや、実際に誰かが俺の手を握りしめている。目を開けると目の前には物凄い高さの崖が広がり今にも倒れそうな角度で俺は停止していた。


「お兄ちゃんは死なせません!」


 後ろを向こうとするのだが今後ろを向くと後戻り出来ない状況になってしまうので必死に耐える。だがこの声には聞き覚えがあり、お兄ちゃんと言っている時点でマリアだろう。どうして俺がここにいると分かったのかは知らないが助けてくれた事が嬉しくなって来た。まだ助かっていなうのだが。


『おい、お前死ぬんじゃないぞ。俺のパートナーいや、友達なんだからな!』


 この声にも聞き覚えがある。あの日からずっと一緒に過ごして来たパートナーいや、友達のフラッキーだろう。フラッキーはスライム特有の柔らかく弾力性のある身体で必死に俺の足を食い止めていた。この角度で落ちなかったのはフラッキーのおかげだったのか。本当にすまない。最後の最後まで。


 俺は数分後妹のマリアとスライムのフラッキーにより救出された。さっきまで死にたいと思っていたのに今では死ななくて良かったと思っている。俺は多分今まで励みの言葉を求めていたのだろう。マリアとフラッキーに助けられた事で改めて気づかされた。


「マリアは本当に心配しました。暗くなってもお兄ちゃんが帰って来なかったので、でもここにいるスライムが私をここまで連れてきてくれたんです。ありがとう、スライムさん。本当はスライムっていいモンスターなんですね」


 だいたいの事情はマリアが話してくれた。スライムに連れられここに来たとき俺はもう崖から倒れかけていたから焦ったとか、だが間一髪で俺の手を握りしめ救出に成功した。本当に感謝の言葉しかない。


「ありがとう」


 マリアはにっこり笑い答えた。


「はい。お兄ちゃんはいつでもマリアが守ってあげます。だから安心してください。そしてスライム討伐ボイコット運動を続けて下さい。みんなスライムがいいモンスターだって知らないんです。だから真実を教えるためにスライムのためにお兄ちゃんのためにスライム討伐ボイコット運動を続けて、お願い」


 マリアは少し半泣きになりながらスライムを守って欲しいとお願いしてきた。そりゃそうかずっとスライムは悪のモンスターだと思って散々殺していたのに本当はいいモンスターだったのだ。そして俺の命まで救ってくれた。真実に気づかされたマリアは今まで殺されたスライムは何だったのだろうとスライムに同情して涙がでたのだろう。


「分かったよ。スライムは俺が絶対に助ける。だから応援しててくれ」


「うん!」


 マリアはご機嫌になり俺に抱きついて来た。今日は迷惑かけたんだ。俺は戸惑いながらも妹を抱え込んだ。


『うおっほん。なかなかの兄弟愛だな。それより俺への礼はないのか?』


『フラッキーもありがとう、感謝してるよ。あんなに止めてくれたのに聞かなくてすまなかったな。これからは友達のお前にそんな事をする事はないよ。本当にすまない。そしてありがとう』


『まぁなんだ、友達のために当然の事をしただけだ。生きていて良かったよ、カイト』


 またスライムがニコッと笑った気がした。いや、きっと笑ったのだろう。俺にはその笑顔が物凄く光輝いて見えた。


「さぁもう帰ろう」


 俺達は立ち上がり家へと帰った。家に帰ると親に二人共遅い! と怒られてしまった。まぁマリアは俺のせいなので罪は全て俺が被ったのだが。

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 翌朝久しぶりにギルドへ行ってみた。やはりこいつは何をしに来た、殺すぞ? みたいな視線が注がれる。やっぱあれ以来顔を出してないからな。あれとはまぁ何だ。スライム討伐ボイコットでちょっと喧嘩をしてしまいボコボコにされた件だ。貴族なので殺されはしなかったがだいぶ痛い目にはあった。貴族でなければ殺されてたのは間違いないだろう。そんな俺が久しぶりにギルドへ顔を出したのだ。怖い視線が来るのは当たり前だ。


 とりあえず俺はマリアとフラッキーの約束を果たすためまず信頼を取り戻そうとクエストを受けようと思う。スライム討伐以外を。


「あのすみません。クエスト受けれますか?」


 奥から新人のお姉さんが来て申し訳なさそうな顔で受け付けてくれた。何だろう?


「あのー、誠に申し訳ないんですが、2ヶ月以上クエストを受けませんと冒険者登録は破棄されるんですが・・・」


 そ、そんな馬鹿な! てことはみんなの目線は殺すぞ! ではなく何で来たっていう視線だったのか。そんな事より冒険者登録が破棄!? じゃあ信頼取り戻すってどうやってやるんだよ?


「もう一度作り直す事は…」


「申し訳ありません」


 そうか一度破棄されたらそれまでなのか。だからみんなスライムを倒して冒険者を続けようとしているのか。んで俺が邪魔になったと。納得。


 俺はもうどうする事も出来ないのでギルドを去った。どうしようかな? クエストをこなして信頼を取り戻すってのは消えてしまったし、うーん。これから村中の掃除を毎日やるか。うんそれがいい。


 そして俺は毎日掃除をする事に、晴れの日も、雨の日も、雪の日も、雷が鳴っている日も。俺は毎日欠かさず掃除をした。おかげで村中がきれいになりゴミ一つ落ちてない綺麗な観光名所としても人気が上がった。その事で村の人は俺を見直し徐々に打ち解けあっていった。中には俺が許せなくて嫌みのようにゴミを捨てていくのだがそれを拾う事でさらなる好感度が得られる。自分を悪者にしてまで俺の好感度を上げてくれてありがとう。あれ? 本当は俺の事が好きなのか?


 俺は結構な好感度を取り戻したので勇気を振り絞ってフラッキーの話をしてみた。するとみんな凄いやいいななど俺のスキルを大絶賛。そして次の日フラッキーと掃除をしているとみんなフラッキーを一目みたいと集まり出した。フラッキーはもう村の住民の一員だ。それからというもの俺がフラッキーと掃除をしていると私も、俺もと一緒に掃除をしてくれるように。本当に嬉しかった。これならフラッキーとマリアの約束も果たせるそう思っていたのに・・・

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 ある日村がやけに騒がしかった。俺は起きたばかりで何も知らないのだが何か放送が流れている。


「は、早く避難してください! あと冒険者の方でドラゴンと戦ってくれる人はギルドに来て下さい」


「繰り返します!」


 新人のギルド受付のお姉さんの声が聞こえる。あまりの恐怖に声が震えている。多分新人だからと言ってギルドに残されたのだろう。


 まず事態を把握しよう。この村にドラゴンが攻めて来たのだ。そして冒険者の方に討伐を求めるが来ないため新人ギルド受付のお姉さんがギルドに取り残されたと。


 俺は頭で考えるよりも先に行動していた。助けなければ。ギルド受付のお姉さんもそうだがようやくスライムのフラッキーが村に認められ始めたのだ。今度こそ努力を無駄にはしたくない。俺はフラッキーを肩に乗せ、久しぶりに剣を手に取りギルドへ走りだした。住民が一斉に避難する。その合間をぬっていち早くギルドへ向かった。


 ようやくギルドの看板が見え俺はそのままギルドに飛び込んだ。ギルドの中には案の定お姉さんが一人でいた。その顔は涙でくしゃくしゃになり今にも逃げだしたいそういう顔をしていた。俺が来た事により涙は収まったものの俺を送り出して自分だけ逃げてもいいのか? と考えている。


「あ、あなたは?」


「俺は元冒険者だ。だが今となっては誰も来ない。俺が討伐クエストを受ける。いいか?」


「は、はい! ですが気をつけてください。あと必ず戻って来てください」


「おう、必ず戻って来るよ」


 カイトはクエストを受けると直ぐ様ギルドを飛び出しドラゴン討伐へと向かった。その背中は今までに見たどの冒険者よりもかっこいいものに見えた。いつもは自慢話などで私に近寄って来るのに緊急時ともなると私を置いて自分だけでも助かろうとする。私は置いていかれた。死んだんだと覚悟した。ダメ元で冒険者に呼び掛けて見たもの誰も来てくれず諦めかけた所にカイトが来てくれた。嬉しかった。それだけじゃない。今まで馬鹿にしていたカイトがかっこよく見えた。誰よりも、他の何処の男前の男よりも。必ず帰って来てね、カイト。


 俺はドラゴンの元へ走った。ドラゴンは火を吹き家を燃やす。このままでは村がもたない。そう判断したカイトは自分の存在を気づかせ村より離れた所に誘き寄せるために攻撃を仕掛ける。


『フラッキー、液体の弾をあいつに打てるか?』


『任せときな』


 フラッキーは口の中でクチュクチュさせ液体の弾を作り出す。それをドラゴンに吐きつける。全く痛くも痒くもない攻撃だが俺達の存在には気づいたので成功だ。後は、


 俺は全力で走り村からどんどん離れる。毎日村中を掃除していた事により足、腰が鍛えられたのだ。ドラゴンは吊られて俺達の方へ飛んで来る。ここまでは成功なのだがどうする? 俺はドラゴンに勝るスキルなど持ってはいない。いや、みんなよりも強いスキルを持っているではないか俺は。力よりも仲間という心の方が強いという事を身を持って経験しているではないか。


『フラッキー』


『あぁ』


 俺はこの周辺にいる全てのスライムに呼びかける。


『ここにいるスライム達。今ここで立ち上がりみんなでドラゴンを討伐しよう。その報酬のあかつきにはスライムと人間の共生社会をあげると約束する!』


『俺はフラッキーだ。今こうしてここに人間といる。これが何よりもの証拠。こいつは我らの仲間にしてスライムと人間の共生社会を望む者。この俺が信じていいと断言する』


 すると草むらや木の木陰などから数百匹ものスライムが現れた。これなら、いける! 俺は確信した。


『みんな液体の弾を作ってドラゴンに当てろ。一人じゃ全く通らない攻撃もみんなで力を合わせれば行ける筈だ!』


 みんな口の中でクチュクチュしだし液体の弾を作り出すスライムの液体の攻撃は全てを溶かす能力があるのだがそこまで強くない。だが数百匹もの液体を食らえば例えドラゴンだろうと溶かす事は出来る筈だ。


 スライムは一斉にドラゴンへ吐きつけ、さっきは痛くも痒くもなかった筈の攻撃に苦痛の咆哮をあげる。ごく一部ではあるが次第に皮膚が溶けていく。後は俺が!


 俺は溶け始めたドラゴンの首元を狙い剣を引き抜く。だが流石に届かないのでドラゴンをかけ上がろうとしたその時多数のスライムに持ち上げられ十分ドラゴンの首を落とせる位置まで来た。


『後はお前に任せる』


『お願いします』


『スライムの希望のために!』


 みんなの思いのこもった一撃がドラゴンの羽を切り裂く。流石苦痛にもがくドラゴンの首だけを狙うのは難しかったな。羽がなくなり飛べなくなったドラゴンは地面に倒れた。


 俺も地面に戻り地上戦を始める。ドラゴンはもがきながらも炎を吐いてきた。俺はそれをバックステップでよけ隙の出来たドラゴンの腹元に入り込む。俺はドラゴンの腹を切り裂きドラゴンから多大な血が吹き出す。ドラゴンの返り血を浴びながらもドラゴンをかけ登り首を狙う。時折ドラゴンの爪などが襲ってくるが華麗な剣技でそれを受け流す。やっぱり毎日積み重ねてきた努力は無駄にはならなかった。俺はドラゴンの首元までかけ登り剣を振り上げる。渾身の一撃をドラゴンにぶつける。剣を振りかぶりドラゴンの首を切り裂く。スライム達のおかげで皮膚が溶け始めていたためすんなりと首を切る事が出来た。


 ドラゴンの首からは血が溢れだす。勝利したのだ。俺は冒険者なんて諦めかけた。スキルが強さだと思っていた。が、仲間という存在が出来冒険者向きではないスキルでもドラゴンを討伐する事に成功した。俺はアドレナリンがすうっと抜けパタリとそこにへたりこんだ。


「やった、やったよ。俺がドラゴンを倒したんだ」


 空は青々として平和な村が戻って来た事をみんなに知らせているようだった。

 ____________________________________


 あれから一年。俺はあの後報酬としてスライムと人間の共生社会を頼んでみた。すると許しが出て今ではスライムはペットとして大流行。俺の諦めない心がスライムを救ったんだ。


 俺はというとあの後村に戻ると新人ギルドのお姉さんに告白を受け始めは戸惑ったものの俺はオッケーを出した。先月結婚式をあげ今では仲良し夫婦で色んな国を冒険? いや、放浪している。そして俺の二つ名がつけられた。


「スライム使いのカイト」


 始めはそのまんまじゃないかと思ったのだが確かに俺にはこれと言って特徴があるわけでは無いので案外気に入っている。


 俺はスライム共生社会は達成したのだがモンスターマスターはまだ達成していないのでそちらを頑張っている。スライムは悪いモンスターじゃなかった。なら魔王も本当は?


 いつか魔王とも分かり会える日が来るのだろうか?


『行こうフラッキー』


『おう』


 俺はまたフラッキーと共に旅に出た。


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俺のスキル『スライムと話す事が出来る』なんですけど!! 日向 悠介 @kimimaronamapasuta

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