お金がなければ人はみんな清らかになる!

ちびまるフォイ

金のないすばらしい人たち

「ここはお金のない素晴らしい国です。

 悪しき文化であるお金を排除することで、

 暮らしている人はみんな美しい心の持ち主ですよ」


そんな触れ込みと現代社会への疲れから移住を決めた。

入国の段階で所持金はすべて没収される。


どうやって暮らしていくのかいきなり不安しかない。


「あら、新しい住民かい? これをどうぞ」


「あ、どうも。でもこれだけ食べ物いただいていいんですか?」


「いいのよ。ここはすべておすそ分けで成り立ってるんだから」


「なんて人間味あふれるいい国なんだ!」


食べ物や生活必需品は基本的に無料だったりおすそ分けで手に入る。

ただし、一定以上の信頼を得らなければならない。


お金は出ないが労働をすることで国民から信用される。

信用レベルが高くなると手に入る物が増えていく。


ここでの労働はみんなの信用を得るために行う。

ますますサボったり悪いことはできない。


「おっ、新人くんか。知ってるよ。君ならこの店の2段目までは

 好きなものを持っていくといいよ」


「ありがとうございます!」


信用を積み重ね、人からの噂や信頼が深まると国での生活は充実する。

逆に悪いことしたり、迷惑かけた人はろくな食事も家も与えられない。


「なんてよくできた国なんだろう。

 ここに住む人は本当に心がきれいな人しかいない」


すっかりこの国に魅せられたころ、好きな人ができた。


なんとか気を引くことはできないものかと、プレゼントを贈った。

反応は冷めたものだった。


「プレゼントって言われても……。

 この国じゃ信用さえあれば、すべて無料で手に入るでしょう?」


「はっ! そうだった!」


プレゼント作戦は大失敗。

高価なものを贈ったところで、信用値が高い彼女にはすぐ手に入る。


「ここはやっぱり、彼女のなかの信頼を上げるしかない!」


お金のない国に住む清らかな人なんだからここは正攻法。

彼女のために労働しまくって尽くすことで信用を勝ち取るしかない。


彼女の労働が楽になるよう下働きを続けまくった。

結果はやっぱり冷めたものだった。


「嬉しいし助かるけど……あなたに恋愛感情は……」


「うそぉん!?」


骨折り損のくたびれ儲け。儲けてすらいない。

どうすれば彼女の気を引けるのか三日三晩悩んだ。

悩みすぎてよくわからないところに着地した結論が……。


「き、君のためにお金を用意した!!」


お金の密入国だった。

お金のない国での「お金」は希少価値が高い。

だから喜んでもらえるのではという結論に至った。苦肉の策すぎる。


「やっぱり……いらないよね……お金のない国の人だし……」


「ありがとう! すっごく嬉しいわ!!」

「え!?」


「実は私、こんなゴミみたいな国から早く出たいと思ってたの!

 でも新しい国ではお金がないから困っていて……。

 この国はいくら働いてもお金が手に入らないでしょう!?」


「お、おお……」


「ああ、やっとこの汚れ国から出られるわ!!

 ありがとう! あなたのこと大好き! もちろん恋愛感情の意味で!!」


「……」


だんだんと気持ちが覚めてきてお金をすっと取り下げた。


「どうしたの!? どうしてお金を下げちゃうの!?」


「いや、なんか……君をお金で買っている気がして……。

 こういうのは違うんじゃないかなって思い始めたんだ」


「そんなことないわ! お金で気持ちが動いたのは確かだけど、

 あなたに対する気持ちは本物よ! 愛してるわ!」


「お金と俺、どっちが好きなんだよ」


「お金を持っているあなたが好き!!」


「えええええ……」


心臓を液体窒素の中にぶち込まれたようにカチンカチンに凍り付いた。

お金を燃やすことになんのためらいもなかった。


「君はお金のない清らかな国に住みながらも

 外の世界にあこがれるばかりで心が濁ってしまっている。

 俺は……もう君のことは愛せないよ」


「そんな!」


「争いとも競争とも無縁のこの国で、もっと心を清めるべきだと思う」


俺から交際を断った。

すると、それを見ていたすべての人達が歓声をあげた。


「ほら! 言った通りだ! キャベツ1年分の勝ちだ!」

「ちくしょう! 男の方がふるとは思わなかった!」

「だから私はエアコン賭けちゃダメって最初に言ったのよ!!」


「な、なんだ……?」


「この国の人はみんなギャンブルしかしてないのよ。

 お金がないから心が清らかで真面目だなんて……一番遠い人達よ!

 私はもっとまじめな人のいるお金の国に行きたい!」


「わしは行けないことに、家を1軒賭ける!」

「私は出ていく方に夫との離婚を賭けるわ!」


お金のない国の人々は目をギラギラさせて楽しそうにしていた。

これが楽しみで生きているような、そんな目だった。


また新しい国民(カモ)がやってくると、同じ説明が繰り返される。



「ここはお金のない素晴らしい国です。

 悪しき文化であるお金を排除することで、

 暮らしている人はみんな美しい心の持ち主ですよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お金がなければ人はみんな清らかになる! ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ