第12話 エピローグ/Dead


 木漏れ日があった。

 つまりそこには木があった。

 人よりは大きく、しかし大樹というわけでもないサイズの木。

 その下で眠っているのは一匹の猫。

 傍には、毛玉としか形容できない物体が一つ。

 猫が遊ぶための道具だろうか、なにかしらの生物というわけではないらしい。

 木の枝には一羽の鳩が止まっていた。

 鳩は何をするでもなく、枝に止まったまま動かない。

 さてどこかに歯車でもあるだろうか……。

 いや彼女は技術と文明を司っている。

 技術も文明も必要のない此処にはいるはずもない。

 猫も、毛玉も、鳩も、全ては泡沫の夢。

 停滞を望む心の微睡みだ。

 だけど、その猫はとても幸せそうに眠っている。

 これはきっと悲しむべきことじゃないし。

 無意味なことなんかじゃない。

 言い聞かせているだけだろうか。

 BOXの自己更新機能はピジョンを生み出し、マシンを生み出した。

 そうやってキャットから役割を奪っていった。

 それがエスカレートしていけば、恐らく毛玉の役割もきっと消えていた。

 ピジョンと共に歩む進歩に、きっと毛玉は拒絶されていた。

 話し相手、理想の具現、最初に創り出したそれはきっとあまりに出来すぎていた。

 だから、停滞した。

 このままでいいと思った。

 木漏れ日の下、彼を撫でながら、今度は山に登ろうかなんて話す日々。

 でもそれは神の役目じゃない。

 だけど捨てられる訳もない。

 だから、此処が生まれた。

 箱の中のさらにその内に秘められた此処は「不可侵の世界樹」なんて大仰な名前で呼ばれているらしい。

 どこかにあるのだと、噂のように囁かれている。

 だが見つけることは叶うまい。

 なにせ世界が分断されているのだから。

 だけど、もし誰かが此処を見つけたら。

 きっとそれは此処を愛したもう一人の――――――


 停滞の夢、覚めることなく、まるで死んだように眠っている。

 でもきっとそれは幸福だった。

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