第4話 世界樹、漏れ出た光


「地面って意外とふかふかしてるのね」

 キャットはを踏み、歩き回り、そう呟いた。

「硬いところも作ったほうがいいかもしれませんね」

 毛玉の苦心による説明で、概ねの天地は完成した。

 今や果てしなく……いや、果てはある大地と、真っ白ではなく真っ青な空が箱の中に広がっていた。

「それにしても、あのたいよう、タイヨウ、太陽っていうの、ほんとに眩しいわね」

 そう今、空には太陽がある。

 しかしそれは、実際に恒星を創り出したわけではなく、天井にかいた絵のようなものであり、だが実際に明かりを放ってはいるので、まあ要するに人類にとっての電球と同じ類であり、紫外線などの影響はない。

「まあBOXは基本明るいですから、必要ないといえば必要ないんですけど……キャット、本当にあの太陽と対になるような月と星々、『夜』は創らないんですか?」

 仮初といえど太陽が昇り世界を照らすなら、その逆もまた必要なのも道理だろう。

 あくまで箱の外の話だが。

「私、暗いのは嫌い、苦手なの、多分」

「暗いところに行ったことなどないでしょう? それなのに?」

「それなのに」

 どうやら直感的な判断でそう決めた、決めつけたらしい。

 だがしょせんは話し相手でしかない毛玉には、それ以上キャットに夜を創ることを強要することなど出来ない。

 相手を肯定するだけが「話」ではないが、何かを強要することは話ではなく「命令」だ、

「ねぇ、毛玉、次に作るものないのかしら、夜以外で」

 夜以外で、の部分はかなり強調されていた。

「そうですねぇ……このまま色々な神話をなぞってみるのも一つの手ですかねぇ、世界創造の前例なんて、そこにしかありませんし、例えばそう、世界樹とか」

「せかいじゅ?」

「とても大きな木です。世界を支え、世界を隔て、世界を結ぶ、実質、世界そのもので、だから世界樹」

 この箱の中にそれを創り出す『意味』はあまり見いだせないが、そんなことを言いだしたら、そもそも世界を創ること自体の意義がなくなってしまうかもしれない。

「セカイジュ、世界樹、いいんじゃないかしら大きな木、毛玉、それはどんなものなの?」

 そこで毛玉は少し怪訝な顔をした。

 どうやら『木』のワードでは、キャットのリミッターを解除するに至らなかったらしい。

 しかしそこで、天地を創り出した時、色の情報がリミッターを解除したことを毛玉は思い出した。

「地面から空へと伸びて立っているのですが、幹と呼ばれる下の部分は茶色で、上の部分が緑色なのです」

「みき?の茶色は地面とは違うの?」

「ええ、質感が違います。堅いです」

「わかったわ。創ってみる」

 キャットは地面に手を置いたと思ったら、すぐさま地面の土をいとも簡単に掘り……いや掬ってそのままゆっくりと上へと持ち上げていった。

 その動きをなぞるように、地面がキャットの手を追いかけて伸びていく。

 キャットは手を自分が届く一番上まで上げるとそこで手を両側に広げ、土をばらまいた。

 しかし土は落ちることなく、緑に変わり空中に固定された。

 キャットに追従していた地面は空中の緑にたどり着くとそこで止まり、そこには水彩画で描いたような木が出来ていた。

 ただ世界樹というような規模ではなくかろうじて人より大きい程度の木だった。

「これでいいかしら?」

 今回は天地の時のように誇らしげではない、事前の世界樹とは、どこか違うということが分かっているからだろうか。

「はい、いいと思います、それとキャット、草というものもありまして、地面から短く上へ伸びる緑なのです、質感は適度に柔らかい感じで」

 どうやら毛玉は特に世界樹にこだわっていた訳ではないらしい。

 要するに植物の創造が、目的だったのだ。

「やってみるわ」

 地面を掬い、辺りにばら撒く、地面の茶色が緑色でまだらに染まる。

「毛玉、これでいいかしら」

「いいと思います、とても」

 木に近づき、幹に手を当てるキャット。

「あら、緑に隙間が開いてる、太陽の光が」

 キャットをまだらに照らしていた。

「木漏れ日というのです、そのままで大丈夫ですよ」

「そうなのね、少し眩しくなくて、いい感じ」

 キャットは座り、幹に背中を預け、毛玉を手招きし呼び寄せる。

 跳ねて近づく毛玉、キャットは毛玉をキャッチし膝に乗せる。

 毛玉を撫でながらキャットは言う。

「ねぇ毛玉、世界って、もっといろいろ創らないといけないのかしら」

「そうですね、まだ足りないモノは多いです」

「でも私、これだけでいい気がするの」

 木漏れ日に照らされながら過ごす『今』が心地いいと。

「でもそれだと箱の外、BOXを創った人類が困ります」

 人類の新天地、それがBOXの存在意義。

「知らないわ、そんなこと」

 神とは勝手なものである、しかし毛玉も思う、今この瞬間が心地の良いものだと。

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