第17話 ティアラのランク

 ティアラ達は王都から続く街道を南西に向かう。

 王都の付近という事もあり、綺麗に整備された街道だった。

 所々に王国軍の詰め所があり、定期的に王国軍が街道の見回りをしていて、魔物と遭遇する可能性は皆無という事だった。


 今回の依頼で同行したルフィーナは同じく同行しているカルディが気になるようでしきりにカルディの表情を窺っていた。

 ルフィーナにしてみればカルディが何故この依頼に同行しているのかが謎である。


 遺跡調査という簡単仕事なのかも知れないが、学園での成績が芳しくないカルディがギルドの加護者と共に旅をしていること自体、不思議であった。


 それに、ティアラという少女もルフィーナにしてみれば疑問の一つだった。

 ティアラは確かにギルドの加護者ではあるが、ルフィーナから見ればそれほど上位にいる人物には感じなかった。

 幼さが残る表情がより一層、ルフィーナには加護者だという事が疑問に思えるほどだった。


 同行している残りの二人については、リースの実力ははっきり言って折り紙付きだ。

 ランク『A』の加護者として圧倒的にその存在感がある。


 もう一人、テリウスという冴えない男については、もはや語ることは何もない。

 ただの腰巾着と思えるほど、ティアラ達にへつらっている。


 一通り同行するメンバーを眺めながら、ルフィーナはリースに近づき、耳打ちをする。


「リースさん、どうしてカルディ君が同行しているのですか?」

 リースは、さあ?分からないといった仕草を取る。

「リースさんが同行させたのではないのですか?」

「ううん。ティアラが連れて行くって言ったから」

 ルフィーナは少し後ろを歩くティアラに視線を送る。


 ルフィーナが見たティアラは幼さが残るがとても美しい少女だった。

 蒼い瞳は穢れを知らないと言わんばかりに美しく輝いている。

 なぜこのような少女がギルドの加護者などをやっているのか甚だ疑問であった。

 どこかの貴族のご令嬢だと言われれば信じてしまうほどの少女だ。


「リースさん、ティアラさんって一体何者ですか?」

 突然の質問に少し驚いた表情を見せるリース。

「どうして?」

「いえ、確かギルドの加護者という話は聞きましたが……」

「あー信じられない?」

「正直に言ってそうです」

 リースはクスクスと笑う。

「そうだよね。信じられないよね」

 笑いながら言うリースに

「あ、ごめんなさい」

「ううん。いいのよ。私だって初めて見た時は信じられなかったから、あんな可憐な少女があの強さなんてありえないって思ったわ」


 リースの言葉に疑問が浮かぶ。

「強い?」

「ええ。相当強いわよ」

「そうなんですか?全然見えませんが……」

「でしょうね。だけど圧倒的よ」

「という事は、ティアラさんもランク『A』ってことですか?」

 リースが強いというのだからおそらくランク『A』の加護者であろうと判断した。

「あ、言われてみればティアラのランクって知らないわ」


「え?そうなんですか?でもお強いのですよね?」

「そうね。私なんて瞬殺されると思うわ」

 ルフィーナは驚いた表情を見せる。

 驚いたのはティアラの強さと言うよりもリースの冗談に驚いた。

 ティアラという少女が仮に強いと言っても、ランク『A』のリースを瞬殺出来るとは思わない。


「この際だから聞いてみよう」

 リースは独り言を呟き、後ろを歩くティアラに向き直った。

 リースの視線を感じたティアラは

「どうされたのですか?」

 リースに向かい問いかける。

「ティアラに聞きたいことがあるから、単刀直入に聞くね」

「はい……私で答えられる範囲ならお答えしますが……」

 ティアラは少し不安そうに言う。

「ティアラのランクって『SS』なの?」


 リースの発言にルフィーナは今まで以上の驚きを見せる。

 この可憐な少女が『SS』の筈などない。

 自分がやっとの思いで『A』になったところなのに、自分と年もそう変わらない少女が世界でも類を見ないほどのランクの持ち主の訳など絶対にない。

 そう信じていた。


「……」

 ティアラからの返答は無かった。

「うーん、答えないってことは当たりかな?」

 満足げに頷くリースに思い寄らない人物が話しかけた。


「リースさん、彼女ティアラの事はどれぐらいご存じなのですか?」

 ティアラの隣に歩いていたカルディだ。

「うーん。色々知っているよ。二つ名とか」

「なるほど……では答えは『SS』では無いのも分かると思ったのですが……」

「どういう意味?」

「二つ名を知っているのにランクは知らないという事ですか?」

「うん。カルディ君は知っているの?」

 カルディは隣を歩くティアラに一瞬、視線を移し、再びリースに向ける。

「はい。あまりにも有名なので……」


「じゃあ、カルディ君が教えて」

 リースは少し甘えた声で言う。

「『SSS』です」

 カルディの言葉に一瞬静寂が訪れた。

 とんでもない答えが返ってきたからだ。

 リースはもちろんルフィーナも理解できないと言った表情になっていた。


「え?ちょ、ちょっと待って……それって本当の事?」

 リースは何とか言葉を発し、ティアラを見る。

 ティアラは黙って頷くだけだった。


 ルフィーナは動きを止めて、まるで電池が切れたおもちゃのように微動だにしなかった。

 視線は明後日の方向を見ていた。


 リース達が驚くのも無理が無い事だった。

 ランク『SSS』は世界で十人しかいないランク。

 この目の前の少女がそのランクだと言われても信じられない。


 リースにしてみればティアラの圧倒的な強さは知っているつもりだった。

 しかし、リースの見積もりよりもさらに上だという。

 リース自身、ティアラをかなり高評価して『SS』だと判断したのに……

 雷帝と呼ばれるは伊達じゃないという事だと、再認識させられた瞬間だった。


「あ、ありえないですよね……」

 力なく言葉を発するルフィーナ。

「どうしてありえないのですか?」

 ティアラは不思議そうにルフィーナに問う。

「だって、『SSS』ですよ!もしそんなランクになる人物が居るとするならば、この大陸では『神皇聖騎士団』の『風神』もしくは、『神皇聖騎士団』では無いですが『雷神』、『雷帝』ぐらいしかいませんよ」

 カルディは『神皇聖騎士団』という言葉に一瞬ドキッとした。

 神皇聖騎士団の風神と言えば、第1位の『セティ・ラスティーヌ』と言う人物だ。

 カルディ自身、何度か話をしたことがある程度で、どちらかと言えば、姉のセシリーと仲が良かった。

 あの鋭い眼光と少しウェーブの掛かった長い銀髪。神皇聖騎士団始まって以来の天才でかつ最強の存在だった。


「ルフィーナさんは、風神と雷神をご存じなのですか?」

 ティアラの問いに

「名前とかは知りませんが有名です。風神も雷神も雷帝も」

 睨みつけるようにティアラを見る。


「ルフィーナ……ティアラはね」

 リースはティアラを睨みつけているルフィーナに対して声を掛ける。

「リースさんからもなんとか言ってください。いくらなんでも嘘をつくのは良くないと思うんです」

 ルフィーナはリースに視線を向け言う。

「だからね、ティアラはね、その『雷帝』なのよ」

 リースの言葉に再び言葉を失い、ただリースとティアラの交互に見るだけになった。

 ティアラは申し訳なさそうに軽く頭を下げた。

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