第三章 サルヴァナの遺跡

第16話 老紳士の依頼

 王立魔導学園で行われた魔導試験より数日が経過していた。

 ここギルド『黄金の広間』に一人の老紳士が尋ねてきた。

 老紳士は白いハットと黒色のフォーマルスーツ、そして丸眼鏡を掛けている。

 どこから見ても高貴な人物だと分かる。

 そのような人物がギルドに来るほどの用事など誰も予想することは出来なかった。


「あの、今日はどの様なご用件でしょうか?」

 カウンター越しの女性スタッフは恐縮気味に老紳士に声を掛ける。

「ああ、今日は一つ依頼をお願いしたくてね」

「どの様なご依頼でしょうか?」


「ふむ。ここ王都より湖に沿って南西に向かったところに遺跡があるのはご存知かな?」

 老紳士の問いに女性スタッフは考え込む仕草を見せるが、すぐに思い出したかのように

「あーはい。サルヴァナの遺跡ですね?」

「ふむ。あの遺跡はサルヴァナと言うのかね」

「はい。当ギルドにも何度か調査依頼を頂いております」

「ほう。それは興味深い。それで何か分かったことはあるのかい?」

 老紳士は眼鏡を指で上げる。


「いえ、特に何も。古くから盗賊による遺跡荒らしが盛んにおこなわれていたようで、めぼしいものは何も発見されていません」

「なるほど……それで物品以外では何か分かったことは?」

 女性スタッフは老紳士の問いに不思議そうな表情を浮かべる。

「物品以外とおっしゃりますと?」

「そうだね。例えば壁画とか?」

「はあ……そう言った物はどうでしょうか?」

「分からないという事だね?」

「はい……はっきり申し上げますとそう言う事になります」

 女性スタッフは申し訳なさそうに頭を下げる。

「いやいや、別に構わないのだよ」

 老紳士は頭を下げる女性スタッフに気に病むことはないといった仕草を見せる。


「それで依頼なんだが、その遺跡の調査を行ってもらいたい」

「サルヴァナの遺跡調査ですか?」

「そうだ。もちろんなんらかの物品があれば良いが、今聞いた話だとそれは望み薄ということだね。だから物品以外の壁画等を調べてもらいたい」

 老紳士の言葉を

「承りました。それで報酬はどのように致しましょう?」

 ギルドに依頼を行う場合はそれ相応の報酬を用意しなければならない。

 依頼の内容では命に関わるような仕事もある。

 それを無償でやってくれるほどギルドの仕事は甘くない。

 慈善事業ではないのだから当然と言えば当然だった。

「そうだね。これでどうだろうか?」

 老紳士は一枚の紙を女性スタッフに手渡す。

 女性スタッフの表情が驚きに変わった。

「不満かね?」

「い、いえ!しかしこんなにも……」

「ではこれで頼む。それとこの依頼を受ける者の指定は可能なのかね?」

「依頼を受ける者?」

「そうだ」

「はい。指定依頼も構いませんが……本人に確認を取る必要があります」

「分かった。それではこの依頼を『ティアラ・ノース』という加護者にお願いしたい」

「ティアラですね。承りました。ティアラに確認後、再度こちらから連絡させて頂きます」

「ふむ。よろしく頼む」


「最後にこちらに記載をお願いします」

 女性スタッフから一枚の紙を手渡れた老紳士はその紙に名前と連絡先、依頼の日時等を記載し女性スタッフに返した。

「本日は誠にありがとうございます」

 女性スタッフの丁寧なお辞儀を背にし老紳士はギルドを去った。



「それでティアラはこの依頼受けるの?」

 リースは老紳士の依頼の詳細を見ながら考え込むティアラに聞く。

「ええ。断る理由は特にありませんから」

「まあそれはそうよね」

「はい」

「この『インクィ・リターティス』って人、どうしてティアラに指定依頼したのかしら?」


 リースの疑問は当然だろう。

 ティアラは王都に来てまだ日が浅い。

 それなのに指定依頼を受けるのは誰しもが疑問に思ったに違いない。

「この方とは、以前お会いしています」

「え?そうなの?」

「はい。ブリサマリナの宿で一度」

「え?いつの間に?」

「王都に着いた直後ぐらいだったと思います」

 ティアラは王都の宿であった白いハットの老紳士を思い浮かべながらリースに説明する。


「へぇーそうなんだ。でどんな人?」

 興味津々に聞いてくるリースに

「とても紳士的な方でした。確か考古学の研究をなさっているとお聞きしています」

 ティアラは冷静に答える。

「考古学ね……」

 リースは考え込む仕草を見せ、

「だからサルヴァナの遺跡調査なのかな?」

「おそらくそうだと思います」

 リースは立ち上がり

「よし、準備をしよう」

 サルヴァナの遺跡に行く気満々のリース。

「わかりました。よろしくお願いします」

 ティアラはリースにお辞儀をして準備に取り掛かった。


「あ、そうそう、連れて行きたい子がいるの」

 準備をしながらリースはティアラに言った。

「どちらの方ですか?」

「王立魔導学園のルフィーナ・ミストルティンって子」

 ティアラは一瞬考え込んで

「魔導試験でリースさんが相手をされた方ですね」

「そうそう」


「分かりました。そういう事なら私も一人連れて行きたい方がいます」

 リースはティアラの言葉に目を見開いて驚く。

「誰?」

「同じく王立魔導学園のカルディ・レイフォードと言う人物です」

「……それ誰?」

 リースは考えたが思い浮かばなかった。

「リースさんがルフィーナさんの相手をされていた時に少しお話をした人物です」

 リースは思い出したようで

「あーあの男の子……男の子だよね?」

「はい。男性の方です」

「それで、どうして?」

「それは……なんとなく彼の力を見て見たいからです」

「……その子、凄いの?」

「はっきりとしたことは分かりません。だから見て見たいのです」

「……分かったわ」

 リースはいまいち納得はしていないが、ティアラが言うのだから何かあるのだろうと思った。

「ありがとうございます」

 ティアラは丁寧にお礼をして準備を再開した。


 しばらくするとカルディがギルドにやって来た。

「何故俺を?」

 ギルドに入るなりティアラに自分を選んだ理由を質問した。

「協力してくれるとおっしゃっていたので、さっそくお声を掛けさせて頂きました」

 ティアラは一礼してそう告げる。

 カルディからの返答は無かった。

「あなたがカルディ君?私はリース。リース・バイアランド。よろしくね」

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

 リースには丁寧が対応を行うカルディを見ていると、ギルドの扉が開く。

 そこにはルフィーナが居た。

「あ、ルフィーナ。無理言ってごめんね」

 リースはさっそくルフィーナに声を掛ける。

「いえ、勉強させて頂きます」

 ルフィーナは礼儀正しく一礼をする。

 そして準備も整い一向はサルヴァナの遺跡に向かう事になった。

 ティアラ、リース、テリウス、カルディ、ルフィーナと異色なパーティーはこのサルヴァナの遺跡に待ち構える敵についてはこの時は誰も分かっていなかった。

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