第10話 ランク試験①

 大きな闘技場のような場所で幾名の生徒たちが集まっている。

 これから世界魔導管理局が認定している王立魔導学園のランク適合試験が始まろうとしている。

 皆が皆、緊張の面持ちで落ち着かない様子だった。

 学園で最も高いランクであるルフィーナさえも緊張している様子がカルディは見てとれた。


「さて、検査も終了しました。引き続きまして、適合試験を開始したいと思います」

 観覧席のような場所にいる女性が声を大にして生徒たちに告げる。

「まずはルールを説明します」

 女性は適合試験のルールを説明を開始した。


 適合試験のルールとは、それほど難しいことではない。

 まず、ランクごとに試験の内容が異なる。

『F』ランクは適合試験は学科のみとなる。

『E』ランクは初級クラスの魔法の連続発動。

『D』ランクは中級クラスの魔法の連続発動。

『C』ランクと『B』ランクは自分より一つ上のランク者に一定以上の魔法によるダメージを与えること。

『A』ランクは上級クラスの魔法の発動。

『S』ランクは古代魔法の発動。


 これらをこなすことによりランクが上がるというわけだが、カルディのランクは『E』という事で実は初級クラスの魔法を連続で発動することが出来ないのである。

 その為に『E』ランクと言う位置に甘んじていた。

 カルディの契約存在の力があれば、『S』ランクに到達することも可能だというのにだ。


 適合試験が順次行われていった。

 カルディは次々に適合試験に臨む生徒をただ見つめているだけだった。

 何の感情もなく、ただ目に映すだけ。

 そこにアシュワードの番になった。

 少し心が動いた。

 カルディはアシュワードの表情をじっと見つめる。

 いささか緊張した面持ちであったが自信に満ち溢れていた。


 アシュワードのランクは『DDD』であるために中級魔法を連続で発動するといった試験内容だった。

 アシュワードの属性は土属性である。

 土の中級魔法は『アースニードル』

 この魔法を連続に出現するターゲット(模型型人形)に向けて放ち、破壊するといった試験内容だった。

 魔法の発動回数は十回と少し多めだ。

 アシュワードは九回目まで成功したが、最後の一回を外した。

「そこまでです」

 試験官というべき女性の声にアシュワードは肩を落とす。


 魔法を発動すると精神的な疲労感がある。一種の緊張感に似た張り詰めた状態に精神的に陥るために発動後は大変な疲労感となる。

 その状態で十回も魔法を連続で発動したせいであろう、アシュワードの表情に疲れの色がはっきりと見て取れる。

 アシュワードは試験官に深々と頭を下げ、試験会場を後にする。


「残念だったな」

 試験会場から出てきたアシュワードにカルディは声を掛ける。

「ああ、行けると思ったが、最後に少し緊張が切れた……」

「しかし、9回も成功したんだ。大したものさ」

「ありがとう。カルディも頑張れよ」

 アシュワードは無理矢理の笑みを浮かべてカルディの前から立ち去る。

 よほど悔しかったのだとカルディはすぐに理解した。


 カルディにとってはランクというものにこだわりは全くない。

 人に順位をつけることに何の意味があるのだろうと思っていたからだ。

 しかし、ギルドのような組織の場合は、このランクはとても重要なファクターの一つになる。

 ギルドに依頼される内容は、多種多様である。

 人探しや、魔物討伐、護衛など様々な依頼の中で適した人材を決める基準となるのがランクと言っても良い。

 そう言った意味で、全く無意味なものとも思えない。

 ただ、カルディにとっては本当にどうでも良いことだというだけの事だった。


 立ち去るアシュワードの背を見つめながら、次の受験者の名前が呼ばれた。

 周りにいた生徒たちのざわつき始める。

 そんなざわつく中、ルフィーナ・ミストルティンはゆっくりとした足取りで試験官の前に立った。

 ルフィーナの反対側から一人の男が現れる。

 体格の良い中年の男だ。

 手入れされていない顎髭を右手で触りながら、ルフィーナをにやけた笑みで見つめながら試験官の隣に立った。

「ミストルティンさん、あなたの対戦相手である『シュット・ビズィテ』さんです」

 シュットと呼ばれた男はルフィーナに片手を上げて挨拶をする。

「よろしくお願いします」

 対するルフィーナは深々と頭を下げて挨拶をした。


 このシュットと呼ばれる男は世界魔導管理局が派遣した人物だ。

 ルフィーナのランクが『BB』の為に、試験には自分より一つ上位のランクと対戦する必要がある。

 王立魔導学園にも『BBB』ランクの教諭は居るが、世界魔導管理局が認定する試験の場合は公正さを重んじるために管理局からわざわざ派遣された加護者と相手することが定例となっていた。


 生徒たちが見守る中、ルフィーナの試験が開始された。

 ルフィーナは杖を取り出し、右に旋回する。

 紫色の長い髪がなびく。

「世界の理を従える者たちよ。我が声に応え汝の力を解放せよ!」

 旋回したままで杖を前に掲げ、呪文を唱える。

 シュットは微動だにせず、目だけでルフィーナを追っている。

「プレシオン!」

 ルフィーナが叫ぶと、杖が青色に光る。

 シュットの周囲の空間が捻じれた様に見えた。

 次にシュットを中心の爆発が起こった。

 激しい音と風圧が周囲に広がる。


 ルフィーナは動きを止めて、追撃魔法の準備に取り掛かる。

「我が王よ、我に力を授け、月の光の元にその身を捧げよ!」

 杖を高々と上げる。

「プリミティフ・シランス!」

 収まりつつある爆風の中心で平然と立っているシュットの周囲に黒いドーム状な壁が出来ている。

 そのドームが徐々に小さくなっていく。

 ドームが完全になくなると同時に、先ほどよりもはるかに大きな爆発が起きる。

 やがて爆風も収まり、シュットが姿を見せる。

 あれほどの爆発にもかかわらず、シュットは無傷だった。

「闇に汝の心を染めよ!」

 シュットは右手を前に出して呪文を唱える。

「ダークフレア」

 囁くようにそっと唱えた魔法はルフィーナ目掛けて黒い光が飛んでいく。

 ルフィーナは杖を前に出し

「全ての月の眷属よ我が身に降りかかる災いから我を守れ!ブークリエ!」

 杖から白い光がルフィーナを包む。

 シュットから放たれた黒い光とルフィーナの周囲の白い光が衝突する。

 またもや大きな爆発が起き、爆風が周囲を駆け巡る。

 爆風が収まると傷こそないが明らかに疲弊している、ルフィーナは片膝を大地に着ける。

 息も荒れているその姿に落胆の表情が伺えた。


 シュットはここぞとばかりに追撃の魔法を放つ。

 かろうじてよけ続けるルフィーナであったが、連続して放たれる魔法に回避が追い付かず、直撃を食らってしまう。

 派手に吹き飛ばされたルイフィーナに試験官が立ち寄る。

 試験官に対して、まだやれると素振りを見せるルフィーナに試験官は黙って頷いた。

 シュットの魔法攻撃が再開される。

 ルフィーナは先ほどのブークリエでシュットの魔法を軽減させながら、徐々に間合いを詰める。


 シュットとの目の前までかろうじてたどり着くことに成功したルフィーナであったが、シュットの右こぶしが腹部を強打する。

 杖をついて体を支えるルフィーナの眼光は鋭く、輝きを失っていなかった。

 まだ勝負を諦めていない目にシュットは一瞬たじろぐ。

「リュミエール・クレエ・リニュヌ!」

 叫ぶルフィーナの周囲に魔法陣が三重、出現する。

 上空より光の柱が魔法陣を中心に広がる。

 ルフィーナの魔法はシュットに直撃した。


 シュットは前のめりで倒れこむ。

 それと同時に

「そこまでです」

 試験官の声が響く。

 ルフィーナは自分より上位ランクのシュットを見事に打倒したのであった。

 最後に放った魔法は通常の魔法とは明らかに異なる。

 古代魔法といった種類ではないが、この世界で使用できるのはルフィーナただ一人。

 これはルフィーナが編み出したオリジナルの魔法。

 所謂、固有スキルというやつだ。

 ルフィーナは間違いなくランクが上がり『BBB』になっただろうとそこに居た誰もが確信したのであった。

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