第05話 王都『プエブロラグナ』

「見えてきました」

 テリウスの声に皆が指差した方角を見る。

 ルクレット王国の王都『プエブロラグナ』

 とても美しいその都の中心には大きな湖がある。湖に乱反射する光は都の優雅さを際立たせているようだった。


 あの戦いの後は何事もなくここまでこれた。

 道中、リースはしきりにティアラの強さの秘密を知りたがっていたが、ティアラは誤魔化しながら今に至った。

 ティアラ的にはリースに話しても良いかも知れないと感じていたが、テリウスに堅く止められた。


 一行は王都に到着すると行商人と別れた。

 報酬は王都のギルドで受け取ることが出来るらしい。

 リース達はギルドに向かう。

 メザルと違い、町の中心には大通りが東西南北にひかれていて、綺麗に整備がされていた。


 大通り沿いにはいくつもの店が立ち並び、どの店も人で溢れている。

 大通りを東に抜けて、東地区一番と書いてある標札のすぐわきにギルドがあった。

 ギルド『黄金の広間』と書かれた看板を横目に扉を開く。

 中は広く、商談をおこなえるスペースまで完備されえている。

 入り口の真正面にカウンターがあり、数名の女性スタッフが立っていた。


 リース達はカウンターに向かい、スタッフに声を掛けた。

「はい。今日はどういったご用件でしょうか?」

 丁寧な言葉遣いと姿勢で応対する女性スタッフに対して、

「あの、報酬を受け取りに来ました」

 リースが答える。

「えっと、お名前をよろしいでしょうか?」

「あ、リースです。メザルの『銀の部屋』のリース・バイアランドです」

 名前を聞いたスタッフは資料をめくりながら、

「リース様ですね。承っています。少々お待ち願います」

 そう言ってカウンター奥に入っていた。


 しばらくするとスタッフが奥から戻ってきて、

「こちらが今回の報酬となっております」

 そういって、紙幣と硬貨をカウンターに置いた。

 リースはそれらを受け取ると、手帳のようなものを差し出した。

「ティアラ、あなたも」

 ティアラは慌てて手帳を出して同じように差し出した。


 ギルドに登録した際に手渡せた手帳だった。

 ギルドにはポイント制というシステムがある。そのポイントが一定を超えると次の級に移るといった仕組みだ。

 そして、級ごとにこなせる仕事が決まっている。


 級は五級から、四級、三級と数字が下がっていくごとに上の級になっていき、最終的に特級になると全ての仕事がこなせるというシステム。

 貰えるポイントについては、仕事の内容でそれぞれ違う。

 今回はメザルから王都までの護衛という事でそれなりのポイントになった。


「さて、これからどうする?」

 ギルドを後にしたリース達はこれからの事を考えていた。

「私はしばらく王都に滞在したいと思っています」

 ティアラはリースに言うと、

「それなら私も残ろうかな」

「何故です?」

「もう少しティアラと一緒に居たいから」

「……」

「あ、もしかして困った?」

「いえ、そんなことはないです」

「もうティアラちゃんは可愛いだから」

「可愛い?私がですか?」

「そうよ、少し困った顔のティアラは可愛いわよ」

「はあ、そうですか」

 ティアラは困惑しながら答えた。


 リース達は王都に留まることを決めた。

 大通りを西に向けて歩く。

 中央広間と呼ばれる場所まで来ると宿が複数あった。

「どこに泊まる?」

 リースは楽しそうに言った。

「どこでも構いません」

 そう答えると

「じゃあ、『ブリサマリナ』に決定。ここ一度泊まってみたかったんだ」

「そうなんですか?」

「だって、高級宿だよ。普通止まれないよ」

「高級宿ですか……資金は大丈夫なのですか?」

 一抹の不安を覚えるティアラ。

「だって、大金入ったし」

 先ほどの報酬を手に持って嬉しそうに話すリース。

「なるほど、了解しました」


 宿に入ると高級宿だと言われるのも納得できる。

 大理石で設けられたロビーに赤い絨毯じゅうたんがひかれている。宿屋というよりはホテルのイメージが強い。

 諸外国の要人もこの宿を使用するほど権威ある宿。


 リース達は二部屋借りることにした。

 リースとティアラ、そしてテリウスは贅沢にも一人部屋。

 宿に荷物を置いて、リース達は都見物をすることにした。


 中央広間から西に向かって歩いていると、少年、少女たちが同じような服装で歩いているのが目立つ。

「あれは?」

 ティアラがリースに尋ねる。

「あ、あれは『王立魔導学園』の生徒ね」

「『王立魔導学園』?」

「そうよ、所謂未来の高官や幹部騎士と言ったエリートを育てる学校」

「そのようなシステムが存在するのですね」

 驚いた表情のティアラを見て、

「え?学校知らないの?」

「はい」

 そう答えるティアラの視線の先には一人の学生が居る。


 短くもなく長くもない青い髪の生徒。

 顔立ちはとても綺麗で中性的な感じだった。

 かろうじてその生徒が少年だと判断できるのは白いズボンを履いていたからだ。女子はスカート、男子はズボンと制服は男女の区別をはっきりさせてくれる。

「ふーん、ああいうのがタイプなんだ」

 ティアラはリースの問いの意味を理解できていない様子で

「タイプ?」

「そう、ああいうのが好きなんでしょ?」

「好き?いいえ」

「あら?それならどうして見てたの?」

「少し気になりまして」

「気になったって好きとかじゃなくて?」

「好きとかという感情はよくわかりません」

「でも気になったんでしょ?」

「はい。しかし、

 ティアラは最後まで言わずにやめた。


 リースはじっとティアラを見つめ

「そう言えば、ティアラって年いくつなの?」

「年ですか?15です」

「え?15?意外」

「そうですか?」

「だって大人びているから、私と同じかそれよりも上かと思っていた」

 驚いた表情のリースに

「リースさんはおいくつなのですか?」

「私は、17だよ」


 ティアラは実際15も17もあまり変わらないと思ったが

「私より年上でしたのですね。これまでの無礼の数々お許しください」

 と頭を下げた。

「無礼の数々って何もしてないじゃん」

 リースが笑顔で答える。

「それでテリウスはいくつなの?」

 横で聞いていたテリウスの年齢を聞いた。

「僕は19です」

「え?」

 リースはかなり驚いている。

「私よりも年上!」

「年齢だけは……」

 テリウスは申し訳なさそうに言う。

「ずっと下だと思っていたよ」

 リースはそう言うと考え込んでいる。


「前から気になっていたんだけど、ティアラとテリウスの関係ってどんな関係なの?」

 二人を交互に見ながら質問する。

「ティアラ様は私の主人みたいなものです」

 真顔で答えるテリウスに

「主人って、ティアラはもしかしてお嬢様?」

「いいえ、私はそのようなものではございません」

 はっきりと否定するティアラ。


「ではどうして主人?」

「それは……」

 ティアラは言葉を詰まらせて困惑な表情を浮かべた。

「えっと、ティアラ様は私の恩人のご息女なんです」

 ティアラが困っているのをすぐに気づき横からテリウスが言った。

「恩人?」

「はい」

「そうなんだ」

 リースはどうやら納得した様子。


 ティアラはその時ふと視線を感じた。

 先ほどの中性的な少年がじっとティアラ達を見ていた。

 少年の口元が緩んだようにも見えた。

 そして少年は立ち去って行った。

 ティアラ達はその少年をじっと目で追っていた。

「あの子知り合いではないよね?」

「はい。知りません」

 一体彼は何者なのだろうかとティアラは思っていた。

 只者ではない気がしてならなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る