捨てるセンス


藤の:キャラクタを書きながら作っていくと、最初想定してたテーマとズレることってありませんか?


大澤:あります。ていうか、毎回そうですね。そもそも「最初にテーマを想定する」ということをあまりしていないかもしれません。とりあえず書いてみて、書いているうちにテーマが見えてくる。だから、だいたい話じたいがまるで違うものになっちゃって。でも、ズレたほうが良くはなっていくので、あまり無理に本筋に戻さないかな。ズレたならズレたでそっちに合わせていきます。


藤の:そうですね! それは思います。ズレたほうが良くなる。わたしは最初想定したテーマから描き出して、描いてるうちに、あれ? これなんかこっちの方が本質かも? とテーマも話もガラっと変わってしまうことがあって、ネームに非常に時間が掛かります。でも最近は想定からあまり外れなくなったかな。なにかカンの精度が上がってきたのかも。


大澤:カン……。なんか、誰に話を聞いてみても、最終的にはみんなカンで物語を作っている。


藤の:なんかある。ここが鉱脈だ、みたいなのが。なんの鉱脈だろう? 話として「実」がありそうな鉱脈か、「面白さ」がありそうな鉱脈か。


大澤:でもほんと、ちょっとお話を聞いただけですごいシンパシーなんですけれど、わたしもカンでお話を作っているというところありますね。もうちょっとちゃんとした作りかたみたいなのを勉強したいんだけど。


藤の:でも。みなさんハリウッド脚本術てきな「話づくりの基本の型」は持った上でのカンなのではないですか?


大澤:わたしはそうでもないです。


藤の:さっきストーリー漫画を描くのはこれが初めてと言ったんですけれど、その前まで10年以上は「ハリウッド脚本術」てきな本とか読みまくってて、それでも「お話」がぜんぜん作れなかったんですよ。「基本の型」だけじゃ「お話」にならないっていうのが自分の中で経験としてあって。


大澤:わたしは、あんまり自覚はなかったんですけれども、どうやら普通の人と比較すると異常に本は読んでいたみたいで。あまり自分で本を読もうとか思ってたわけじゃないんですけれど、小さい頃から娯楽のひとつの選択肢として読書があって、ドラクエのレベル上げやるみたいな感じで「暇だな、本読むか」みたいな。ただの惰性なんですけれども本当に小さい頃からだから、その積み重ねが意外とあったみたいな。なので「お話」じたいはものすごい量を取り込んでいて、そうすると、ちゃんとあるわけじゃないんですけれども、感覚として「お話ってこういうの」みたいなのはあって、それをちゃんと言語化したくて、こうして色んな人にお話を伺っているみたいな感じですかね?


藤の:なるほど~。わたしはセンスというものは情報量だと思っているので、摂取した情報だけでものが生み出せる、というのはあると思います。デッサンとかパースを習ってなくても絵を描く事はできるし。情報量と選択ですね、センス。


大澤:選択って「なにを選ぶか」もあるんですけれど、なにより「なにを捨てるか」だと思います。あ、そこ捨てちゃうんだ、みたいな。たくさん捨てたものほど、良さに近付いていくんじゃないかみたいな。美しいものって、だいたい余計なのものがついてないですよね。でも、捨てようって思ったら、まずは大量のゴミがなければいけないわけで。最初から綺麗で美しくて完成されたものを目指しても仕方がないのかなって最近は思っています。もうモリモリ書いてジャカジャカ捨てる。捨てただけ綺麗になる。


藤の:なにかを捨てられるくらいに情報を蓄えないといけない。少ないと「この中から選ぶ」みたいに視野が狭くなる。


大澤:お話を作っていると、やっているうちに「あ、あれも言いたい、これも言いたい」ってボリュームアップしていって、なんかぼわっとした曖昧なものになっていくじゃないですか。でも、そんなあれもこれも詰め込めないので、そのぼわっとしたいろいろの中から「自分が本当の本当に一番言いたいことってなんだろう」って、他の全部を削ぎ落していくみたいな感じでやってます


藤の:わかります。わたしめっちゃ捨てるのが得意なんですよ。これ履歴書の特技欄に書きたいくらい。いっつも、余分を捨てて言いたいことだけ残る。

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