他からパクってくればバレない(暴論)


大澤:んっと、たとえば、秋永さんってどこから決めます? お話。


秋永:それって、割と定番の質問ですけど、みんなそんなに決まってるものなのでしょうか? かならずキャラから決める、みたいな。でも、もっと複合的なものじゃない? あと作品によって違くない?


大澤:んー、でも小説を書くモチベーションってわりと作家によって偏る気がします。発想の基点? みたいなもの「こういうキャラが書きたい!」「このシーンが書きたい!」「こういうメッセージ性を込めたい!」みたいな。


秋永:えーと……。「眠り王子」なら「架空の東京を舞台にした図書館もの」というのが最初にあった気がする。「怪物館」なら「美男子たちと共同生活する物語」


大澤:つまりコンセプト先行っぽいですね。


秋永:ただ、それは「少女向けライトノベルを書いてください」とお願いされ、「まずプロットを見せてください」と言われたから、そういうコンセプトを立てるわけです。ネットで発表している「森島章子」のシリーズは、完全に章子というキャラクタが先行しています。


大澤:あ、そうそう。そういう商業小説を書いていく段取りみたいなのも聞いてみたかったんですよ。なにしろ毎回、雰囲気だけで乗り切っているので、三冊本を出しても未だに通常の本を出すプロトコルみたいなのが分かってなくて……。


秋永:まずは「秋永さん、書きたいものがありますか」と訊かれます。


大澤:そうなんだ。


秋永:もちろんレーベルやジャンルで求められるコンセプトがあるから、自分の興味のなかから、そこに沿うようなものを提案します。「提案していただいたなかでは、そのお話が気になります。プロットを見せていただけますか」となって、そこでコンセプト、キャラ、シーンをおおまかに考える。


大澤:あ、プロット提出の前にまずなにかあるんですか。


秋永:「長野を舞台に数名の高校生の恋愛と友情の交錯を描く青春もの」くらいのことを最初に提案するのです。これは人によりましょうが、何個か挙げますね。というのは、作家の意志が第一とはいえ「編集者が書いてほしいもの」というのは、あるはずなので。ストライクを探るようにして何球か投げる。「それ、いいですね」と言われたら「登場人物は4人で、ひとりは優等生の女子、もうひとりはサッカー男子……」と、プロットを書いていく。


大澤:ああ、なるほど。


秋永:まあ、いきなりプロットを見せるひともいる。いくらでもどかどか書けて、没になってもびくともしないひとは、そうやるのかもしれない。


大澤:わたしの場合は、だいたいプロット段階だと「それはなにが面白いのですか?」と言われてしまうんですよね。たとえばロクハルの一話だとプロットとしては「特になにもないのだけど、なんかなんとなく別れる話」になるので。いや、これは書き上がったら面白いんだっていう確信は自分ではあるんですけれど、その面白みを他人にプレゼンするのが難しくて、もう書くしかねぇな、みたいな。


秋永:最終的には、もう書くしかねえんですけどね。プロット段階で、ハリウッド映画のような明解なセールスポイントが見えにくい場合は、なおさら。


大澤:あと結局、出来上がったものはプロットからえらく離れているんですよ。


秋永:プロットから離れることを咎められることはあんまりないと思います。要は、おもしろい原稿ができてくればいいので。プロットというのは飽くまで、ちゃんとおもしろさに向かって進めるかどうかを確認する、地図とコンパス。なんか太陽でだいたいの方角を確認しながらわーわー言って走っていたらゴールに着きました。本文が出来上がりました。というなら、それでいいのです。


大澤:そうですね。毎回プロットとも違うし、初稿と完成稿も全然違うんですけど、それを怒られたことは別にないです。


秋永:プロットが必要というのは……これも編集部にもよりましょうが、会議に掛けるのですよね。担当編集の方が、他の編集者や編集長にプレゼンする。そのための資料という面もある。


大澤:あのね、ムルムクスの話をするんですけど、あれはずっと前に次回作どうしましょうか~みたいな話になったときに五月雨式にアイデアメモみたいなのを投げつけたことがあって、その中に「運営主体を持たないデスゲームもの」っていうのがあったんですね。「デスゲームものってとにかくまず運営している謎の超権力と、ルールを強制する超パワーが出てくるじゃないですか? あのへん、冷めません?」みたいなことが書いてあって、でもほんと、それくらいしか書いてないアイデアメモで、それが担当編集者から「これでいきましょう!」って戻ってきちゃって。


秋永:編集者から「この提案物を書いて欲しい」と明確に返ってきた。よいことです。


大澤:でも、戻ってきたときには自分でも自分がそんなこと書いたのすっかり忘れちゃってるから「えっと、なんだっけ?」ってなって、本当にそのちょっとしたアイデアメモからゴリゴリゴリゴリ~~!! って書いていく羽目になっちゃって。だからほんと、アイデアメモでもなんでも、思いついたことはなるべくその時に、後から見ても理解できるような形で残しておいたほうがいいですね……。忘れるので。


秋永:その「デスゲーム」というの、定着したジャンルですけど、人によって思い描いているものが微妙に違っていて、「バトルロワイヤル」なのか「カイジ」なのか「インシテミル」なのか、違うと困る場合はプロットが要ります。


大澤:ていうか、自分が編集者に求められていたことをすっかり忘れてしました。そういえば「運営主体を持たないデスゲームもの」を書かないといけないのだった。書き上がってみると、結果としては「運営主体を持たないデスゲームもの」てき側面はだいぶ後退しちゃいましたね。


秋永:「運営主体を持たないデスゲームもの」だと思いますけどね「ムルムクス」は。最後まで読むと、それだけでは収まらない内容がいろいろあるわけですが、概要としては「キャラクタたちが勝手に疑心暗鬼に陥ってお互いを潰し合う、運営主体を持たないデスゲームもの」となりましょう。


大澤:眠り王子も「架空の東京を舞台」てき側面はわりと後退している気がしますし、そんなものかもしれませんね(?)


秋永:だいぶ話が旋回した……。当初はもっと主人公たちが学園の外の「架空の東京」に出ていく展開が大半を占めていたんです。でも、これを手にとってくれるひとが期待するのは「学園もの」「図書館もの」であるから、あまりそこから離れないほうがいいということになって。


大澤:ああいう、ゴージャスな学園ものいいですよね。川原泉さんの「笑う大天使」が本当に好きでもう永遠のバイブルなんですけど、わたしもそのうちゴージャスな学園ものをやりたいなぁって思っていて。っていうかやったことはあるんだけど。カクヨムに置いてある「ふわっチュ!」っていうのが笑う大天使を自分なりにやってみたやつで、そういう、もう単純に「こういうのを書きたい!」で書いちゃうパターンも多いですね。丸パクリ。丸パクっても意外とバレないっていうか、そこそこオリジナルにはなっちゃうから、あれに似てるこれに似てるみたいなのはあまり気にしなくていいのかなって思います。


秋永:それは、本当にそうですね。これも変なかたちで真に受けられると困るんだけど……パクっても、バレません。真似して書いても、ぜったいに自分が滲むので。空前絶後の設定を考えようとして苦しむ必要はない。オリジナリティというのは、だから……出そうと思って出すのではなく、普段から物語のことや自分のことを思索しているかどうか。普段からやっていれば、書けば勝手に出ます。出したくなくても出ます。


大澤:逆に全然そんなつもりないのに条件反射で「舞城!」って鳴く動物もいますし(暴言)


秋永:あなたはこれの影響を受けましたね、と決めてくる感想、ありますね。

◯◯に似ている、自分が比喩として連想するというのはいいのですけど、◯◯に似せていると決めてかかられると困る。逆に、自分ではこの作品の影響をとても受けていると思っているけど、その指摘はまったくされない……ということもある。


大澤:わたしは小林めぐみさんの「食卓にビールを」にめちゃくちゃ影響を受けているんですけど、未だに指摘されてないですね。あれで「あ、別に小説ってこんな感じでもいいんだ?」みたいに気楽にやってみる気になったところがある。あと、新井素子さんとか。


秋永:文体が異なると、もうわからないというのはある。ひとが小説を読んで「似ている」と思うのは、どこが決め手になるのでしょうね。


大澤:自分の読書経験では? YA文芸カテゴリーだと女子高生一人称って当たり前で、梨屋アリエさんとか豊島ミホさんとか片川優子さんとか、そのへんの文体にはめちゃくちゃ影響を受けてるんですけど、一般のほうだと舞城王太郎さんの阿修羅ガールがやっぱり一番有名だから、反射的に舞城! ってなるのかな。まあ、舞城! って思われてる限りは本当のパクり元がバレてないですからね。煙幕としてはいいかも。


秋永:「ライトノベルを書きたかったらライトノベルだけ読んでいてはダメ」というのは、そこなのですよね。他からパクってきたらバレない。何をパクってきて組み合わせたのかは、そのひとのオリジナリティである。

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