カクヨム初心者が避けて通れないチュートリアル

ちびまるフォイ

カクヨム「お前、見ない顔だな? ここは初めてか?」

「メールアドレス登録完了っと。ようし、頑張るぞ」


新学期が始まって、新しい何かを始めようと思った。

ふと、小説なんか書いてみようと思い立って「カクヨム」というサイトに登録。


登録すると、ポップアップウィンドウが出てきた。


『カクヨムへようこそ! ここではカクヨムの各機能について

 チュートリアルの案内をしています』


「あ、よろしくお願いします」


『カクヨムでは小説を書くだけでなく

 評価したり、応援コメントを送ったり、レビューしたりできます』


『自分のマイページでは活動報告として、

 自分の小説を宣伝したり日常の報告したりして

 読者との距離を縮めることもできますよ』


「わぁ、楽しそう」


SNSで知らない人とつながれると思うと、世界が広がった気がする。


『お気に入りの小説や作者をフォローすることもできます。

 更新があった場合に、メールやサイト内でお知らせされます』


『さらに、カクヨムでは読者を分析するツールもあります』

『それに、カクヨムでは自主企画も行われています』

『そのうえ、他のSNSとの連携も行われています』

『けれども、アプリでも読めちゃいます!!!』


「長い……」


その後も、細かい機能の説明が続いた。

後になって読み返せそうもないのでしっかり把握することに。


やっと説明が終わるころには日が暮れていた。


「よし、それじゃ書いてみよう!」


ずっと思い描いていた自分の作品作りに乗り出す。

真っ白な小説のページを開くと再びチュートリアルが入ってきた。


『これから小説に書くにあたっての説明をさせてもらいます』


「またか……」


『小説には文字にふりがなや装飾をつけることができます。

 強調したい言葉があれば、「・」をつけて強調できますよ』


『そして、最初に書くべき小説は自分なりのオリジナルにしましょう。

 他サイトからの焼き増しや、ランキング上位作品に寄せた作品を書くと

 スランプ時や原点を見つめ直す時に作風がブレます』


『最初に書く際には暴力描写や必要以上の性的な表現は控えましょう。

 まだカクヨムの平均値をわかっていないので過剰になりがちです』


『あと、強調したいからといってやたらルビや「・」を入れるのは辞めましょう。

 読んでて俺がむかつくからです。気取ってんじゃねぇよ』


『書く内容は物語をメインにしましょう。

 社会批判やサイト批判、流行批判のエッセイは瞬間的な人気は取れますが

 アンチも産みやすく、人気が出たのでつい連投しがちになります』


「わかりました!! いいから書かせてくださいよ!!」


チュートリアルは相変わらずべらべらと細かい機能を説明していたが、

気にせずに頭に浮かぶ物語を自分なりの言葉で紡いでいった。


『書き終わりましたら、保存することを忘れないでください。

 保存ボタンは画面の右上にあります』


「見ればわかるって」


保存を押して、一度小説管理ページへと戻った。

まだ1話しか書いていないけれど、反応が気になるので投稿しようかと思いたった。


歯車のアイコンを押して小説の投稿をしようとすると、チュートリアル。


『これから投稿する前に、投稿に関してのチュートリアルがあります』


「……またか……」


『投稿する前に誤字脱字をチェックしましょう。

 誤字が含まれていると急に作品から現実に戻されて冷められます』


『投稿時間については競争率の高い夜や深夜は避けましょう。

 投稿作品が少なく通勤時間のかぶる朝、

 もしくはお昼休みに入るお昼の時間がおすすめです』


『投稿した後に必ずトップページで自分の小説を確認しましょう。

 投稿前に確認したはずでも見落としている部分があるかも――』


「わかったって!」


今すぐ投稿を押して、サイトのトップページへと戻る。

新着作品の中に自分の小説タイトルが掲載されているのを見て嬉しくなった。


「ちょっと読んでみようかな!」


小説を開こうと押した瞬間に、出てきたのは小説ではなくチュートリアル。


『小説を読む前に、応援コメントが来た時の対応をチュートリアルしましょう』


「うぜぇぇぇ!!!」


もう我慢の限界だ。

管理ページに入り、チュートリアル機能をOFFにした。


モンスターペアレント以上に口うるさかったチュートリアルがぴたりとやんだ。

カクヨムはこんなにも静かな場所だったのかと驚くほど。


「はぁ、これで静かに小説ライフが送れるぞ」


 ・

 ・

 ・


数日後。


カクヨムの使い方も慣れてきてだいたいの機能は把握した。

けれど、小説の人気は鳴かず飛ばずだった。


「おかしいなぁ……何が悪いんだろう……」


いくら読んでも自分の小説が悪いとは思えない。

旧石器時代に行って、ヒロインの体を憑依して操りながら、

荒廃した未来の世界に農作物を届けるという話は面白いと思うのだけど……。


応援コメントもレビューも来ないし、

自主企画に参加してもスルーされるし、アクセス数解析しても「バーカ」と出るばかり。


「……もしかして、チュートリアルを切ったのがまずかったのか!?」


実はあの後に超重要なノウハウが案内されていて、

自分はそれを聞き逃したために、小説の人気は底辺なのではないか。


慌ててチュートリアル機能を入れると、待ってましたとばかりに説明が復活した。



『それでは、次にカクヨムで行われている企画についてご案内します!!』



と、チュートリアルはずっと続いた。

1年後、カクヨムのアイデアガチャ10連を引かせてもらってチュートリアルは終了。


それでも自分の小説が人気出ない理由はわからなかった。


「うーーん、結局どうすれば人気出るかはチュートリアルで説明されてなかったなぁ」


活動報告はもちろん、ツイッターなどでも小説の更新報告は行っている。

それでも全然人気は出なかった。避けられているのか。


「はぁ……どうして人気出ないんだろ」


「どうした? 推しているアイドルが総選挙で低かったのか?」


ふと、顔を上げると担任の先生がスプリングコートを着て立っていた。


「違いますよ、先生。実は俺、小説を投稿しているんですけど……。

 いつまでたっても人気でなくって悩んでいるんです」


「ははは。そうかそうか。なら、先生が見てやろう。

 これでも国語の先生だからね。多少なりとも文学の心得はある」


「本当ですか! お願いします!」


先生は自分のスマホを取り出して、俺の小説を探して読み始めた。


「む、むむむむ!!」


「どうですか……? 何が悪いかわかりましたか?」


「ああ。ひとつだけわかったことがある」


先生は読者側で、俺の小説を開いた画面を見せた。




『それでは、この小説をより楽しむためにチュートリアルを行います。

 まず、舞台設定は今から4000年前の旧石器時代となっています。

 旧石器時代ではまだ言葉が伝わる前なので主人公は身振り手振りで伝えます

 それがちょうど1話のここのシーンです。読んでみましょう。

 そして、そこに未来からのゲートが弥生時代の卑弥呼とつながります。

 卑弥呼の登場シーンは特に作者が描写に力を入れた部分でもあります。スクロールしてみましょう。

 やがて開いた未来のゲートは現地人の手によって今から1万年先の未来につながります。

 核戦争後の荒廃した土地に新鮮な農作物を届けるために主人公は農作業を始めます。

 それがここのシーンです。このシーンを書く際にはセリフを主に重視して――』




「ひとつだけわかったことは、チュートリアルが長いってことだ!!」


先生は長すぎるチュートリアルに嫌気がさして、そのまま小説を閉じた。

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