魔の手

今日も、いつものHRから1日が始まるって思ってたけど、空気は緊迫してるし、先生の声は震えてるし、出席してる生徒は少ないし、嫌な予感しかしなかった。


「今日休んでる奴と…鈴音鈴音は、インフルエンザで…しばらく休みだ」

HRでの先生の一言に、クラスがざわついた。

「嘘だろ…」「まさか、鈴音まで…」「ありえない、嘘だ!」「なんで!元気だったじゃん!」「それはない。鈴音に限ってそんなこと…」

特にあたしも含めてみんなが最初に口にしたのは、

「あんなにバカな鈴音が休むだと!?ありえない!!」

だった。それもそのはず、リンは小学校からずっと皆勤賞。幼馴染みのあたしでも、風邪で咳き込んでるとこなんて見たことないのに。

それに、みんなが一斉にインフルエンザになるのもありえない。この学年でインフルエンザが出たのは3ヶ月前だっていうのに。

「まさか、あの神隠し…?」

あたしの後ろの席に座る子がうわごとのようにつぶやく。

あたしも、それは真っ先に考えた。

でも、集団で攫われるなんてあり得ない。普通に考えてみても、住んでるところは違うし、学校のセキュリティーに異常が無ければ、ここで攫うこともできない。しかも、夕方から今日の朝までにクラスの過半数を攫うなんて。HRが終わると、そのことは学校中に知れ渡った。すると、どのクラスにも欠席者は数10人単位でいたことがわかった。つまり、全校生徒1000人弱のうちの約半分が、昨日の夕方から今日までに神隠しに遭ったか、もしくは本当に休んでいるかという事になる。でも、今回の場合に限って、後者の可能性は限りなく低い。

「まさか、ね…」

そのため、今日は午前授業で切り上げ、生徒はすぐに家に帰された。



帰り道は、考え事をしていて、ずっと無言だった。

優羽も考え込んでいた。きっと同じことだと思って、目配せをすると、優羽は険しそうにしていた顔を少し緩めた。

「未来も同じこと考えてたか。たしかに、1人じゃこんな人数、攫うことなんてできないよね。

それこそ、神でもない限り。

でも、標的ターゲットには男子がほとんど含まれてない。言い方悪いけど、モテてない男子ってここに残されてる感じがする。だってほら、女子に人気の男子、今日は居なくなかった?」

言い方悪い、とか言っておきながらさほど申し訳なさそうにしてない優羽に言われて思い出してみると、たしかにおかしかった。

常に机の周りには女子が溜まっているのに、今日は誰も居なかったし、当本人も欠席。それがどのクラスでも起きてた。そして、あたしは理解した。

「ねぇ…。女子もじゃない?ほら、うちのクラスに読者モデルやってる子とか女優やってる子いたじゃん?今日は居ない。あと男子にモテてる女子も」

「あっ、ほんとだ!えー。それはそれでショックかも」

優羽が珍しくボケた。リンがいないのも理由の1つだと思う。

「綺麗な人攫い、か。趣味悪いな」

あたしが言うと、優羽もうんうんとうなずいた。

「ほんと、タチ悪い。鈴音とほかのみんなが無事だといいんだけど…」

私は、そう言って横に視線をずらした。毎日見る、人形がディスプレイされてるショーウィンドウ。

その人形が、新しく入れ替わっていた。売れたのかなって思ってじっと見てみると、やっぱり顔は恐怖に歪んで…。

「…ない。なんで?」

「どうしたの?何か見つけた…?」

優羽が不思議そうに聞いてきた。

「顔が歪んでない、可愛く見える…」

「え…?あれ、この人形どこかで…。あっ、この人形!まさか…」

優羽も、あたしの見ている人形を見て驚いた。多分、優羽は入れ替わったことに驚いたわけじゃないと思う。優羽が思ったことは、あたしも思った。

「この顔、鈴音に似てる」

「この子、リンにそっくり」

白いワンピースを着て、華奢な手足を露出させてる人形は、可愛らしいポーズを取っていたけど、顔は紛れもなくリンに似ていた。こんなこと、普通じゃありえない。人形の顔は可愛く微笑んでるし、リンに似てるし。

「これ、ヤバイかもしれないね」

「はやく帰ろっか。なんか怖い」

意見は一致し、いつものおしゃべりは全てカットして、早足で家に帰った。


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