第4話

「――ギルナザークを倒したからといっていい気になるな

  やつなど、我々の中ではもっとも力の弱い魔王……

   次は私のところへ来るがいい

   本当の恐ろしさを思い知らせてやろう……!」


 何ともわかりやすい、次のボスからのメッセージだった。要は、これから冒険はどんどん辛くなるぞ、という開発者からのお知らせであるといえる。

「いいもんね~。あんたなんてすぐたおしちゃうもん。ね、ショウタ!」

 ミオが言った。ショウタは「うん」と言った。うなずこうと思ったが、どうやってうなずかせればいいのか分からなかった。


 ミオのテレポートの魔法で街まで戻った。

 宿屋の前で、ミオは手を振った。

「ばいばい! また遊ぼうね!」

 そう言って、ミオはさっと消えていった。

 また遊ぼうね。

 久しぶりに聞いた言葉だった。

 増田はゲーム機を閉じた。急に現実が帰ってくる。ここは駅前で、目の前にはまだ何人ものプレイヤー達が画面とにらみ合いをしている。

 彼らも、きっと凶悪な敵と戦っているのだろう。

 次にミオと会う時、今度は足手まといにならないように、増田は帰りの電車の中でもレベル上げをした。



*** *** *** ***


 次のボス、ベルゼビュートを倒した。

 あんな自身満々なメッセージを送ってきたわりには、全く苦戦しなかった。ショウタもレベルがすっかり上がって、ミオと同じくらいになっていたからだった。

 最期ですら妙にプライド高い捨てゼリフを吐いて、ベルゼビュートは消えた。ザコ敵と同じ消え方をするあたり、開発者も分かってやっているのかもしれない。

「すごいじゃん。つよくなったね~」

 チャットを通して、ミオが言った。あれから二人は何度も一緒に冒険をしていた。相変わらず突撃するショウタをミオがひたすら回復するスタイルだったが、戦果はかなりのものだった。

「へへ、まあね」

 ゲームの中で、ショウタはそんな風に言った。なんとなく、彼ならそう言うんじゃないか。増田はそう思った。子供っぽくて、無鉄砲で、勝気な性格。そんなキャラクターを、増田は自分でも気付かないうちにショウタに描いていた。

「回復ありがとな。助かる」

「いいよ~。ショウタがんばってるもん」

 ミオはそう言ってくるくる回った。ショウタ以上に子供っぽくて、純粋に冒険を楽しんでいる。ミオはそういう子だった。

「次はどこ行く?」

「そうだね~。街のひとが、北のどうくつにはいくなってゆってたけど」

「よし、じゃ、そこ行こうぜ」

 二人はすぐに出発した。北の洞窟には秘法、龍の蒼玉が眠っているはずだ。多分、ゲームの攻略に必要なアイテムだった。

 洞窟に入ると、今までに見た事もないほどのモンスターが襲ってきた。コウモリ型のモンスターや、ガイコツのモンスター。これまで戦った敵の色違いだったが、ゲームの世界ではそういう敵が意外と強敵だったりするのを、増田は既に学んでいた。

 気を引き締めて剣を抜いた。大剣を振り回すが、敵の動きがすばやくて中々当たらない。逆に、敵はこちらの攻撃後の隙を突いてちくちくダメージを与えてくる。一発一発は大したことはないが、多勢に無勢、少しずつショウタのHPは減っていく。

 緑色の光で、ショウタは回復した。後方で、ミオが魔法を唱えている。今では、ショウタの防御力ははるかにミオを上回っていた。魔法使いの特性上、ミオは強力な防具をつけられないのだ。それに、HPだって低い。だからできる限りショウタが前衛で敵を引きつけて、ミオが後ろで回復する。ショウタがミオを守り、ミオがショウタを守る。そういう関係になっていた。

 しかし、やはり初めて突入するダンジョンだけあって、敵は手ごわい。それに続々と沸いてくる。仕方なく、ショウタは温存していた必殺技を使った。

 スピニング・スラッシュ。名前の通り、回転して剣を振る技である。単純な技だが、全方位に攻撃でき、衝撃破で空中の敵にも必ず当たる。戦略上敵に囲まれることの多いショウタは、この技を好んで使っていた。攻撃力を上げるスキルポイントも、ほとんどこの技につぎこんでいる。まさしく必殺技だった。

 赤い剣閃がひるがえり、あたりを囲んでいた敵がたちまちチリと化した。増田は、この技を使うのが少しだけ快感だった。囲まれた時こそ、大量のヒット音が心地いいのだ。

 あれだけいたモンスターが、その一撃でほとんどいなくなった。後ろでミオが「さすが~」といつものノリで踊っている。ゲーム画面をのぞきながら、にやにや笑いたくなったが、増田は右手で口を押さえた。きょろきょろとあたりを見回す。大丈夫。皆ゲームに夢中だ。

 残ったのは、ガイコツの剣士数体だけだった。それも手負いだ。大剣の攻撃が当たる度、ガイコツたちは骨がガラガラと崩れて倒れていく。

 残るは一体。頭めがけて剣を振り下ろした。ガイコツは、最期のあがきとばかりにショウタを短剣で突き刺した。防御力の高いショウタには、蚊がさしたようなものだった。体剣の勢いは止まらず、そのままドクロ頭に突き刺さる。

 ハズだったのだが、何故か剣は振り下ろされず、ショウタはその場に倒れた。まさか、今の一撃でやられた? そんな馬鹿なとゲージを見るが、HPは微塵も減ってはいない。しかし、現にショウタは倒れて動けなくなっているのだ。

 よく見ると、ショウタの周りに黄色い電気のようなエフェクトが表示されている。

 しまった、麻痺だ!

 このダンジョンのモンスターたちは、麻痺攻撃を使うのだ。完全に油断していた。たった一体だからとたかをくくっていたのだ。

 動けないショウタをよそに、ガイコツはミオの方へと向かって行った。防御力も、攻撃力も低いミオ一人ではとても太刀打ちできる相手ではない。ミオは一目散に逃げ出したが、ガイコツの追うスピードは、それよりもわずかに速かった。

「ショウタたすけて~!」

 逃げ回りながら、ミオが叫んだ。その間にも、ミオはガイコツの攻撃を受けて少しずつHPを削られていく。

 早く、早く立ち上がらないと! 増田はひたすらにボタンを連打した。

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