道が映し出す心

 足取りは軽かった。憧れの彼女に告白をしたらOKを貰うことができたからだ。


 ずっと片思いだった。高嶺の花だと思い込んでいた。一緒にいてすごく落ち着くし、その笑顔が僕にとっては眩しかった。そんな彼女と付き合うことができるなんて夢のようだ。


 初めてのデートは緊張したけれども、とても満足してくれたようで安心した。

 徐々に近づいて行っているという実感が身体を駆け巡る。


 しかし、あっけなく終わりを告げる。彼女からのドッキリ宣言。僕は目の前が真っ暗になった。

 告白をした帰りと同じ道だというのに、とてつもなく遠く重たく感じた。


 悔しかった。彼女が人を騙すなんて。一緒にいた彼氏の嘲笑う目が許せなかった。

 一晩寝ても切り替えることなんてできない。

 少しずつ、でも確実に黒い感情が心を支配していく。気分を紛らわすために読み始めた本も、次第にジャンルが偏っていった。


 ミステリーを読むべきではなかった──


 僕は次第に犯人目線で小説に目を落としていることに気づく。完全犯罪は可能なのかどうか、どんなトリックがあるのかを考えていることが楽しくなっていた。


 そして、あるときそれは天から降ってきた。

 トリックが完成してしまったのである。完全犯罪というものを。


 人間、思いついたものを実行してみたくなるものだ。特にそれが危ない香りのするものであればあるほど。

 僕を黒い感情に突き落とした奴が居たことを思い出してしまう。思い出してはいけなかった。

 トリックそのものはそこまで難しいものじゃない。条件もなかなか揃わないといった類ではない。


 ついに、完遂してしまう。

 目の前に転がる身体を冷たい視線で見つめていた。


 やはりあの道は心に重くのしかかっている。残虐な復讐を遂げたからといって心が軽くなるものではないのだ。地面に吸い込まれそうだったから、気分を落ち着けるために空を見上げた。星を眺めて紛らわそうとした。その瞬間、妙な感覚とともに目の前が真っ暗になる。


 どうやらマンホールの蓋が空いていたらしく、そこに落下したようだ。

 助けを求める気もなかった。このまま暗く沈んだ世界で朽ち果ててしまおう──

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