第三者

 演劇の脚本を執筆するにあたって、どのようなテーマにするかで劇団員は揉めていた。

 まだまだ知名度は低いものの、観客が全くいないわけではない。どこかの演出家がふらりと足を向け、目に留まれば一気に有名になれるチャンスはある。


 いつもならば多数決なのだが、今回ばかりは脚本家が自分の意見を押し通そうとしてきかない。

 人気役者と対立してしまって、前進する兆しが見えないのだ。


 新人のKはオロオロすることしかできなかった。

 自分の意見をはっきり出すのも躊躇われたし、いがみ合っているところに居合わせるのも辛い。


 せめてシリアス路線かコメディ路線かでも決まればよかったのに、そこからすれ違っていたのだ。

 シリアスな展開をベースとしながらところどころコメディを垣間見せるという案で決まりそうだったが、脚本家が書きあげてきたのは全くの逆だった。

 コメディ路線の中に少々のシリアス要素。

 読み合わせの時も案の定荒れる。


 みんなから脚本のダメ出しを喰らってしまった脚本家はすっかり臍を曲げてしまった。

 それはもう子供みたいに。


 他の誰かが脚本を書き直さなければ舞台に間に合わない。

 慌てて書いたものの出来なぞ知れている。

 そして再び喧嘩が始まるのだ。


 その中で一人冷静だったのが新人Kだ。

 いきなり役者として舞台に立つわけじゃなかったからなのだろうか。


 実際、舞台はこれまで築き上げてきた評判を落としてしまう結果となったが、Kは気にしなかった。

 そして愛想をつかしたかのように劇団を離れた。


 後日、入団からの様子を編集してそれを動画にアップしたら大ヒット。

 出来のいいコメディみたいだったからである。

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