小説家と彼女

 頭を掻きむしってキーボードに向かう。

 締め切りが特にあるわけでもなく趣味で書いているだけだから、そこまで必死になる必要があるかと問われると困ってしまうのだが。


 小説投稿サイトに投稿しているから、それなりに読んでくれる人がいる。

 それを励みに頑張っているのだが、どうしても話を纏め上げることができない。


 彼女からの連絡もほったらかしにしてしまっているから、そろそろ本気で怒られてしまいそうだ。


 次の休みはキーボードではなく彼女とどこかに出かけようか。

 雑踏を散策し、ウィンドウショッピングをする。

 もしかしたら何かネタが転がっているかもしれないから。


 そんな不純な動機でデートしたら怒られるんだろうな。

 こんなことばかりしていると、そのうち愛想を尽かされるかもしれない。


 突然携帯が鳴りだした。

 彼女からだ。

 いつもはメッセージなのに珍しいと思っていたが、とりあえず出てみた。


 案の定、「私のことどう思っているの?」だ。

 そらそうだよな、ここまで相手をしていないと不安にもなるだろう。

 夢である小説家になるために、ずっとキーボードに向かっていたのだから。


 別れを告げられると覚悟していたのだが、ありがたいことにどうもそうではないらしい。

 自分なりに一生懸命伝えたのだが、伝わっているかどうかはわからない。

 ある程度話したところで電話を切る。


 そして再び画面とにらめっこをした。

 最低だと思われても仕方ない。


 こんなことを何度も繰り返してたある時、自分の小説が出版社の目に留まった。

 ある程度時間はかかったがプロデビューが叶ったのだ。


 俺は彼女を呼び出した。

「プロになれたよ。君のおかげだ。そしてこれが俺からのプレゼントだ」


 小説のヒロインは彼女をモデルにしていた。

 そして俺はそのヒーロー役だ。


 物語の最後に二人は結婚するのだが、果たして俺は彼女と結婚できるのだろうか。

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