笑顔の裏側

 エス氏の朝は早い。いつも目覚まし時計にたたき起こされている。

 今日も布団から手を伸ばしてアラームを止めた。

 ボサボサの髪をしたまま洗面台へと向かう。歯を磨いて申し訳程度に寝ぐせを調え家を出た。


 同僚は既に居る。

 ちょっとした冗談を言い合いながらトラックへと乗り込んだ。


 決まりきったルートを巡回して回収していく。

 半分寝ぼけたままなので、運転はいつも相方が担当する。そのせいで、力仕事は自分の役目になってしまうのだが気にはしていなかった。

 重い物も当然あるのだが、腕力を鍛えるにはちょうどいいと考えているからだ。


 時には強烈な臭いを発しているものもある。

 誰もが嫌がるはずなのに、エス氏は笑顔のまま黙々と作業をこなすのだった。


 彼が入社したときには、新人だからだろうと同僚は考えていた。時が経てば自分たちと同じような感想を抱くはずだと。


 惰性と慣れ。笑顔も消えるだろうと──


 しかし、いつまでたっても彼から笑みが消えることはなかった。

 不審に思って訊いてみると、こんな答えが返ってきた。


「ルーチンのようでいて、毎日少しずつ違うところがあるからな。それに、平凡な仕事ってのも悪くはない。余計なことに頭を使わなくてもいいし」


 そんなもんなんかねぇと納得しなかったが、文句も言わずに仕事をしてくれるのだからこちらがそれを削ぐ必要もない。その分楽をさせてもらえればいいや──


 飲み会なんかも必ず参加はするのだが、遅くまで付き合うことはなかった。

 酒に弱いんだろうと深く考えることはない。


「いつもさっさと帰るのに、なんで朝はギリギリなんだろうな」

「長時間睡眠じゃないとと身体がもたないだけだろ?」


 この日もこんなやりとりがなされていた。


 深夜。

 エス氏は自宅をそっと抜け出す。

 革の手袋にサングラス。そして鞄の中にはサイレンサー付きの拳銃。


 依頼をこなした後にぽつりと呟いた。


「明日はこいつを自分で回収することになるのか。また臭いがきつそうだな。でも、まぁ仕方ない。どっちも俺の仕事だからな」

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